カリフォルニア州政府は、2035年までに車両のゼロカーボン化を義務づけようとしている。先だって、コバルトの市場を確保すべきだったのではないだろうか。そうしなければ、主な受益者はバッテリーに不可欠な重要鉱物であるコバルトの市場を支配する中国になってしまう。
それが、米国の作家で公共政策講師シッダールタ・カラ氏の新刊『コバルトレッド:コンゴの血が我々の生活に力を与えてくれる方法』から導き出した結論である。この本には、世界のコバルトの75%がコンゴ民主共和国(DRC)で採掘されていること、このレッドゴールドを掘る鉱山労働者に対するおぞましい人権侵害があること、人権を無視しながら資源を搾取する中国がいることを詳しく説明している。
従来の炭素駆動エンジンは非常に単純だ。精製燃料(ガソリン、ディーゼル)をエンジン室に入れ火花を飛ばし、その後エネルギー出力を制御する。電気自動車(EV)ははるかに複雑であるため、1世紀前の自動車産業開始以来、その開発に取り組んできたのにもかかわらず、好奇心とゴルフカートを除いて、普及してこなかった。
バッテリーとコバルトに関する複雑な説明は、デザイン・ニュースの中で説明されている。基本的に、リチウムコバルト酸化物(Li-Co-O2)はカソード材料にとって非常に重要であり、これはLCOとも呼ばれている。
カラ氏は「コバルトレッド」では次のように説明している。
「EV採用を加速する上でコストと同様に重要なのは、充電後に移動できる距離(航続距離)だ。その距離を伸ばすためにはより高エネルギー密度のバッテリーが要求され、現在のところ、コバルトカソードを使用したリチウムイオン・ケミストリーのみが、熱安定性を維持しながら最大のエネルギー密度を提供できる。LCOバッテリーは高エネルギー密度を実現できるため、バッテリー重量あたり大量の電力を蓄えることができる」
「バッテリーの研究者は、コバルトへの依存を最小限にするか、バッテリーを排除できる代替設計に取り組んでいる。現在、コバルト・フリーの代替品には、エネルギー密度、熱安定性、製造コスト、寿命に関連する重大な欠点がある。それらの多くは、商業規模の生産に至るまで、10年以上かかると言われている。従って、我々がコバルトに拘るのはやむを得ないことだ」
コンゴの人権
カラ氏はキプシ市の鉱山を訪れ、見つけたものはこうだ。
「キプシ市にいると毒気に当たったような感覚があり、訪問後の数日間、それを拭い去ることができなかった。現場の土、空気、水はとことん汚染されているようで、鉱山労働者が採掘している間も、健康に悪影響を及ぼすと思われる有害物質に晒されている。それを指摘しておきたい」。
ルブンバシ大学のジェルマンという研究者は、鉱業会社やコンゴ政府に都合の良くないことを発見した。ジェルマン自身は説明する。
「我々の研究で分かったことは、鉱山労働者が対照群の40倍以上のコバルトを尿中に持っていることだった。さらに、鉛は5倍、ウランは4倍だった。鉱山労働者ではないが、鉱山の近くの住民でさえ、コバルト、銅、亜鉛、鉛、カドミウム、ゲルマニウム、ニッケル、バナジウム、クロム、ウランなど、体内に非常に高濃度の微量金属を持っている」
当然、コンゴにはカリフォルニア州の労働安全衛生局に相当するものはない。澄み切った空気の中でEVを乗り回している同州のEV所有者が、到底考えもしないことだ。
共産主義中国の役割
私はほぼ50年間、米国政府だけでなく、産業界の愚かさについても書いてきた。そんな私でも、これを読みながら、首を傾げた。
「2010年、SICOMINESと呼ばれる中国のコンソーシアムは、ジョセフ・カビラ大統領が仲介した協定の一項目として道路を再舗装した。これにより、中国は世界のコバルト市場の大部分を隅々に至るまで管理することができた。これは、中国がアフリカ大陸全体で交渉した多くの資源インフラ協定の一つだった」
「中国のアフリカ支配の基盤は、2000年に出来上がった。江沢民国家主席が、アフリカ諸国への中国投資を促進するために、中国アフリカ協力フォーラムの創設を提案した年だった」
その後、胡錦濤国家主席とカビラとの間で合意が成された。カビラは民間企業「戦略的製品・投資」(SPI)を設立し、2010年から2020年の間に3億200万ドルを吸い上げた。
「SPIは、カビラ一族が利益を得た中国との多数の取引の1つにすぎなかった。一方、国はSICOMINES協定からほとんど利益を得ていなかった。インフラプロジェクトは遅れ、道路の質も悪く、SICOMINESの建設と採掘作業には、環境や社会的影響に対する考慮がなかった。重要なことは、SICOMINESの取引では、インフラと鉱業のローンが完全に返済されるまで税金が免除されるため、DRCは今後何年も意味のある収入を得られないことだ」
良い面として、カビラは2019年の選挙に敗れ平和的にオフィスを離れたが、現在も国内の農場に住んでいる。彼は現在、1億3800万ドル以上を横領したとして調査されている。
北京がコンゴを引き裂くもう一つの方法は、中国人の建設作業員を連れてきて、地元の人々から仕事と賃金を騙し取ることだ。地元の活動家のギルバート氏が語った。
「中国企業は契約を得るために他より低い価格で入札を行う。プロジェクト完了のために、彼らが支払う賃金は安い。中国には人権に対する制約がないので、他の企業は太刀打ちできない」
ビッグボスコンゴ社のCEOであるアサド・カーン氏は次のように付け加えた。
「中国企業は、自分を含めコンゴで事業を行っているどの企業よりも不当に有利な立場にいる。第一に、自らを民間企業であると主張しているが、中国政府から資金提供を受けている。基本的に、フリーマネーを受け取っているため、資本コストがほとんどないのだ。これでは競争できない。我々が成功するのは非常に難しい環境だ。カビラ政府が署名した中国の鉱業契約は一方的であり、DRCの州と国民にはほとんど利益をもたらさない」。
米国風に言えば、中国はコバルト鉱山を手に入れ、コンゴの人々はシャフトを手に入れた。そして、カビラ大統領は何億も手にした。
カリフォルニアの偽善
2022年4月18日、カリフォルニア州知事室から、「気候変動に関する同州と中国の長年の協力関係をさらに強化するため、ニューサム知事は本日、環境保護、炭素排出量と大気汚染の削減、クリーンエネルギー開発の取り組みを継続的かつ協力的に進めるための覚書(MOU)を更新した」と発表された。
ニューサム氏が本気だったら、「共産党中国は、コンゴやその他の場所で環境の浄化活動をすべきだ」と主張していただろう。エポックタイムズで詳しく述べたとおり、中国は、国内を含め、毎年何百もの新しい石炭火力発電所を建設しているのだから。
また、ニューサムは鉱山労働者のために、コンゴは厳格な安全基準を採用するよう主張すべきだった。CalOSHA(同州の労働安全衛生局)の鉱業およびトンネルユニットを派遣して、新しいルールを確立することだってできたはずだ。M&Tのウェブサイトによると、「鉱山安全衛生局(MSHA)30 CFRパート46および48には鉱山安全教育プログラムが義務付けられており、新人鉱山労働者や経験豊富な中途採用鉱山労働者、年次再教育者に対してトレーニングを提供しなければならない」。
そんなことしないだろう。すべて、彼の政治的野心の姿勢から表れていることだ。中国は変わらない。彼らがそうする理由はなんだろうか? 共産主義者だからだ。コンゴの貧しい人たちは汚染され続けている。同州の環境保護主義者と官僚は、環境保護やクリーンエネルギーを促進する自分たちに対して優越感に浸っているかもしれない。
我々も代償を払っている。テキサスやアラスカの油井から採掘された原油が、厳格なOSHA規則の下に精製されガソリンが生産されている。我々はそのガソリンを動力源とする車しか買うことができない。トレンディで高価なEVを買う余裕はないのだ。2035年のEV義務化が発効するにつれて、ガソリン車はより希少になり、従ってより高価になっていく。先月、バイデン政権は行動を起こし、2032年までに米国車の3分の2をEVにするという新しい規則を提案した。
それはまた、中国共産党に力を与え、世界におけるコバルト市場のさらなる支配の強化につながる。そして、コンゴの人々の環境はさらに悲惨になっていく。
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