「風力発電は環境にやさしい」。こうした主張は風力発電が野生生物や生態系に及ぼす悪影響を考慮に入れない場合が多く、そのような取り組みの「真のコスト」が隠されている。
連邦政府から付与された補助金に後押しされ、拡大する風力発電プロジェクト。しかし、周辺を飛ぶ鳥類を脅かし、個体数の減少を引き起こす可能性がある。騒音公害によって海洋生物に害を及ぼし、その場所を生息地とする植物の成長に影響を与えている。
世界各地で風力発電プロジェクトに対する抗議が増加している。米国では環境への影響の懸念から、風力タービンをエリー湖に設置するという事業に反対運動が起きた。ニュージャージー州では、洋上風力発電がイルカやクジラの漂着につながるとして抗議の声が上がり、開発を一時停止せよという要求が出された。
ノルウェーでは、サーミ人のトナカイ放牧地に2基の風力発電所を建設する計画があるということで、気候活動家のグレタ・トゥーンベリ氏が中心となって抗議運動を展開している。サーミ人はEU内で認められている唯一の先住民であり、トナカイを放牧するという生活様式をもっている。風力発電所が彼らの伝統を危険に晒しているとの声が聞こえる。
鳥やクジラへの危険
風力タービンのブレードは、鳥にとって致命的となる可能性がある。米国で最初の商用風力発電所が設置されたとき、鳥やコウモリといった飛行生物に与える影響を考慮していなかった。飛んでいる鳥がブレードに衝突すると傷つくばかりか、ブレードの回転によって生じる気圧の変化の影響をコウモリなどは受けることになる。
AP通信の分析によれば、風力タービンが普及するある地域では、減少気味のイヌワシの個体数に重大な危険をもたらすと考えられている。元米国魚類野生生物局の生物学者であるマイク・ロックハート氏は「予想以上に多くのワシを殺していると思う」と語っていた。
数十案件もの風力プロジェクトが承認されたり保留中であったりしている。今後の数十年間で、約6000羽のワシが殺されると推定される。
2013年の論文の中で、風力発電設備に衝突して死亡する鳥の数は、米国で年間23万4000羽と推定された。国内には約5万メガワット(MW)の設備容量があるため、1MW当たり約4.68羽の鳥が死亡したという計算になる。
バイデン政権は、2030年までに3万MWの洋上風力発電容量を展開するという目標を設定した。1 MW当たり4.68羽の鳥の死で想定すると、これにより毎年14万羽の鳥が死亡する結果になる。
また、風力タービンの設置と運転によって発生する騒音が、クジラに悪影響を与えるともいわれている。
昨年、米国海洋大気庁(NOAA)北東水産科学センター(NEFSC)の職員が、ニューイングランド沖で始まった風力プロジェクトに対して、この地域のセミクジラの個体数を脅かすという理由で警告を発した。
2011年にはセミクジラの数は478頭だったが、2022年には350頭まで減少した。また、ニュージャージー州では、前例のない数のクジラが漂着した。その後の1月、ジェフ・ヴァン・ドリュー議員(共和党)は、同州の洋上風力発電プロジェクトの中止を要求した。
気候と環境の変化
風力プロジェクトは設置地の生息環境を変え、地域の植生やその他の景観的特徴を変える。風力発電所の設置には、オープンスペースを確保する必要がある。広大なオープンスペースがあれば、風速は上がる傾向にある。このような微細な変化は、温度の上昇と湿度レベルの低下をもたらす可能性がある。
夜間の気温が高くなると、植物は通常よりも多くのCO2を放出する。このCO2は植物の成長に不可欠であり、CO2の放出によって植物の成長に影響を与える。風力タービンが設置された農業地域では、作物収量の低下につながる恐れがある。
2018年の研究では、風力発電が大気の境界層を変え、その結果気候に影響を与えることがわかっている。「風力発電によって米国の電力需要を賄おうとすると、国土の表面温度が0.24℃上昇することがわかった」と研究結果は語っている。
温暖化効果は夜間に最も強く、米国で稼働中の28の風力発電所で観察された。
2010年の研究によれば、「風力タービンは地上の気象条件に変化をもたらし、農業慣行や農場周辺のコミュニティに影響を与える可能性が高い」と述べている。
安価ではなく信頼もできない
膨大な環境コストに加えて、風力発電は通常主張されているほど安くはない。風力発電は、通常、均等化発電コスト(LCOE)という測定値を引用することによって、石炭やガスなどの代替電力よりも安価であると言われている。
LCOEの問題点は、それが全体の話を伝えていない点である。LCOEは、電源が実際に発電している場合にのみ発電コストを計算する。電力網の信頼性を高めるためには、毎日24時間・週7日の連続運転が基本だが、それに関連するコストが風力のLCOEには含まれていない。
たとえば、風力発電所は無風状態では発電せず、風速が小さい場合には発電量が減少する。
このような状況になると、石炭やガスを燃料とする火力発電プラントは、発電量の不足分を補わなければならない。待機中の火力発電所プラントは、毎日24時間・週7日で稼働する場合よりも運用コストが高くなる傾向がある。そのため、風力発電の真正コストを計算する際には、これらの費用を考慮する必要がある。
2023年の論文で、オックスフォード大学の数学者兼物理学者であるウェイド・アリソンは、エネルギー効率を100%と想定して、風力発電のコストを計算した。風速が10m/sの場合、発電量は600W/m2になることを算出した。
従って、英国で計画中のゼロカーボン原子力発電所ともいわれているヒンクリーポイントCと同等の32億Wの電力を供給するためには、550万m2の需風面積が必要になる。
「この計算では100%の効率を前提としているため、実際の風力発電性能は相当悪くなる。タービンの平均風効率はわずか35〜45%であり、これは、トラップ運動エネルギーの35〜45%しか電気変換できないことを意味する」と、彼は語った。
「風速が半分になると利用可能な電力は1/8に低下する。さらにまずい事に風速が2倍になると供給電力は8倍になるため、タービン保護のためにタービンをオフにする必要がある」と論文は述べている。
(翻訳・大室誠)
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