億万長者の慈善家で、元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグ氏は今年9月、米国の電力生産を風力と太陽エネルギーにシフトし、石炭とガスによる火力発電所を閉鎖するために5億ドルを拠出することを約束した。
しかし、ブルームバーグ氏による数億ドル規模の拠出は、バイデン政権による数十億ドル規模の拠出とともに、破滅への道を切り開いていると指摘する専門家もいる。
今回の慈善団体ブルームバーグ・フィランソロピーからの寄付は、ブルームバーグ氏が2019年に約束した5億ドルに追加される。公式声明では、「石炭にとどめを刺す」ことと、「クリーンエネルギーへの移行を加速させ、全発電量の80%を賄うようにする」ことを目標としている。
「現在までに、530基の石炭火力発電所のうち372基の停止や閉鎖が発表されており、これは米国の石炭火力発電所の70%以上に相当する」とブルームバーグ・フィランソロピーは発表している。
また、同団体は、「ガスプラントの生産量を半分に削減し、ガスプラントの新設を全て阻止する」ことも目指している。
これは危険な道を歩むことだと、米国の電力インフラを研究する人の多くが指摘している。
物理学者でエネルギーアナリストのジョン・ドローズ氏は、「私たちはパイドパイパー(笛吹き男:無責任な約束をする人、の意)たちに付いて行っている」とエポックタイムズに語った。
「再生可能エネルギーを解決策として推進するビジネスに、科学的な裏付けは全くない」
エネルギー専門家でニュースコメンテーターのスティーブン・ミロイ氏によれば、この移行は米国の送電網を不安定にし、変圧器を損傷させ、長期的な停電を引き起こす可能性があるという。
「私たちは送電網を破壊するために、この無意味な真っ逆さまの突進をしている」とエポックタイムズに語った。
石炭やガスの火力発電所の閉鎖を推進する中で、それらの電力供給力は見落とされている。バイデン政権もブルームバーグ氏も、その計画について費用対効果を分析していない。
このまま行けば、どんなことが待ち受けているのか。アナリストらは、風力発電や太陽光発電への移行を率先して行っているドイツやテキサス州を見るべきだと述べている。
ドイツのエネルギー経済学者ラース・シェルニカウ氏は、自国の「エネルギーヴェンデ(エネルギー転換)」の結果を評価した上で、ドイツを手本にしないよう警告している。
「風力も太陽光もうまくいかない。うまく行くのなら、20年間にわたるエネルギーヴェンデの末に、電力価格はもっと下がっていたし、ドイツが苦境に立たされることはなかった」とエポックタイムズに語った。
ドイツは2002年以来、数千億ユーロを投じて風力発電施設と太陽光発電施設を建設した。発電能力を倍増させ、再生可能エネルギーの割合を約10%から60%に押し上げた。しかし、発電量は横ばいで、電気料金は高騰している。
風力発電と太陽光発電は「設備利用率」、つまり供給設備容量に対する実際の発電量の割合が著しく低いため、出力が比例して増加することはない。
米国における風力発電と太陽光発電の設備利用率は、それぞれ約35%と約25%、原子力は約92%で、石炭と天然ガスは約50%だ。多くの電力会社が、石炭やガスの発電所よりも風力や太陽光の発電所から優先して電力を購入しているため、風力や太陽光の設備利用率は、たとえこのような低水準であっても、人為的に膨れ上がっている。
しかし、ドイツは風力発電と太陽光発電で更に酷い経験をしたとシェルニカウ氏は言う。
「ドイツでは、原子力、石炭、ガスの自然な設備利用率が95%以上であるのに対し、陸上風力発電と太陽光発電の自然な設備利用率はそれぞれ平均約10%と約25%だ」
「しかし、『正味負荷率』は原子力発電で約92%、石炭と天然ガスで50%に過ぎず、稼働率によってはさらに低くなることも多い。多くの電力会社が、石炭やガスの発電所よりも風力や太陽光の発電所から電力を優先して購入しているため、風力や太陽光の相対的な『正味負荷率』は、たとえこのような低水準であっても、人為的に膨れ上がっている」
ドイツは「エネルギーヴェンデ」に何千億ユーロも費やしたにもかかわらず、ますます信頼性の低い電力システムを、事実上他の先進国よりも高い消費者負担で提供している。
この国では、石炭火力発電所や原子力発電所を閉鎖する過程で、ロシアなどの非友好的な隣国の気まぐれや天候に左右され、需要の変動に合わせて調整できる信頼できる電力も危険なほど不足している。
米国では、現在のように石炭発電所の閉鎖が進む以前、西部の電力会社は通常、消費者のニーズに常に応えられるよう、予想されるピーク需要に対して20%の供給予備力を確保して発電システムを稼働させていた。
この供給予備力は、テキサス州の冬の凍結やカリフォルニア州の夏の猛暑など、予期せぬ事態が発生しても電力網が機能することを保証していた。
再エネの補助で消耗される予備電源
再生可能エネルギーへの移行は今、安全な電力供給を壊しつつある。シェルニカウ氏によれば、ピーク需要が約80ギガワットのドイツには、かつては約100ギガワットの信頼できる需給調整可能電力の容量があったが、今では90ギガワットを下回っているという。
「信頼できる電力供給がピーク時の電力需要に匹敵するか、ぎりぎり限界を超えるかで、すぐに問題が発生する。それがまさにテキサスで起きていることだ」とシェルニカウ氏は言う。
米国の電力会社も次々とドイツに追随しており、すでに同じような成り行きだ。米エネルギー情報局の報告によると、2023年に閉鎖される発電所の98%は石炭と天然ガスの発電所で、2015年以降、米国の電力会社は年平均11ギガワットの石炭火力発電を停止している。
電力網全体にとっての問題は、電力供給が常に需要と一致していなければならないことだ。システムの均衡が崩れれば、送電網のハードウェアに大きなダメージを与え、長期的な停電につながる可能性がある。
ドローズ氏は「風は吹いたり止んだりする。そんな予測不可能な電源で運転することはできない。必要なのはバランスを取るための補助的な電源だ」と指摘し、ガス発電の必要性を説いた。
「ただ風力を推すのは欺瞞だ。風力だけでは成り立たない。風力+ガスのパッケージと言うべきだ」
「米国の多くの電力会社が風力発電や太陽光発電の容量を拡大しているが、それに見合う信頼性の高いバックアップ設備を追加することはない。それどころか、電力会社はバランスを取るために必要な余剰分を電力系統に投じ、不足が生じたときは他の地域を当てにすることを期待している」
風力発電事業者は、非常用の予備電力を当てにしているという。
「風力発電事業者は予備電源を補助的に使っているが、それは本来あってはならないことだ。風力発電事業のバランスをとるために非常用の予備電力を使うことは許されない」とドローズ氏は述べた。
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