中国人科学者の帰国ラッシュ加速 中国行動計画の復活と「千人計画」か

2025/02/05 更新: 2025/02/05

近年、アメリカ在住の中国人科学者が、次々と中国へ帰国する現象が目立っている。専門家の分析によると、これは中国共産党(中共)の「千人計画」(中国の海外人材誘致プログラム)の一環である可能性があり、高額報酬や特別待遇を通じた人材の獲得の戦略の一環と考えられている。

中国人科学者の帰国が増加 

1月21日、ブロックチェーン技術の専門家である陳婧(ちんけい)氏がアメリカを離れ、清華大学の教授としてフルタイムで勤務することを発表した。同氏は以前、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校(SUNY Stony Brook)の準教授を務め、ブロックチェーン技術企業Algorandの主任科学者兼理論研究ディレクターを務めていた。

また近年、複数のアメリカ在住の著名科学者が中国の大学や研究機関に移籍している。

  • 2024年初頭 国際的に著名な力学専門家である高華健(こういかけん)氏が清華大学に加わり、講席教授に就任。
  • 2024年11月 気候降尺度モデルの専門家である陳德亮(ちんとくりょう)氏が清華大学にフルタイムで着任した。
  • 2024年12月 アメリカ医学アカデミー会員で、著名な生物学者王存玉(おうぞんぎょく)氏がカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)を退職し、北京大学臨床医学高等研究院の院長に就任。
  • 2024年1月 カリフォルニア大学バークレー校の数学教授・孫崧(そんすう)氏が浙江大学に移籍し、最年少の永久会員に。

プリンストン大学の研究によると、アメリカを離れる中国人科学者の数は2010年の900人から2021年には2621人に急増。特に、中国に帰国する割合は、2010年の48%から、2021年には67%に増加している。

中国の研究開発投資が急増— 科学者の帰国と「千人計画」への疑念

データによると、中共の研究開発投資は大幅に増加している。2023年の統計報告書によれば、全国の総投資額は3.3兆元(約66兆円)を超え、前年比8.4%増加した。特に、大学が主要な研究機関としての役割を果たしており、大学へのR&D投資は14.1%増加し、最も成長率の高い分野となった。

元中国人権弁護士の呉紹平氏は、1月31日に大紀元の取材に応じ、多くの華人科学者がアメリカを離れ中国へ帰国する背景には、中共の「千人計画」がある可能性が高いと指摘した。

「千人計画」とは、「国家海外高層次人材計画」の略称であり、2008年に開始した中共中央組織部主導のプログラムだ。この計画は、著名研究機関の研究者や大手企業で上級管理職を経験した人物などを、中国に高待遇で招き入れ、技術を中国に取り込む政策だ。

呉氏によると、これらの科学者の多くは、すでに中共のリストに登録されており、特定の「任務」を持って、西側諸国に派遣された可能性がある。彼らは、アメリカやヨーロッパで最先端技術や機密情報を収集し、それを中共に提供する役割を担っていたのではないかという。アメリカが国家安全保障上のリスクを重視するようになり、取り締まりを強化したことで、彼らは自身の立場が危うくなったと判断し、帰国を急いでいるとの見方を示した。

高額報酬による帰国の誘導と統一戦線工作の影響

呉氏はまた、中共が高額な報酬や研究環境の整備を通じて、科学者を帰国させる戦略を取っている可能性があると指摘した。これは、単なる人材獲得ではなく、「統一戦線工作」の一環としての意図も含まれている。

「海外で培った技術や研究成果を中国に持ち帰ることができる科学者は、中共にとって非常に価値がある存在だ。中共は彼らの知識や経験を活用するために、多額の資金を投じて受け入れている」と呉氏は述べた。

しかし、呉氏は、中共の科学技術政策の問題点についても言及した。「中国は国家全体で科学技術の発展を推進しているが、その本質は巨額の投資に依存しているに過ぎず、研究資金の配分や使用は政治的な力関係によって決定する傾向がある」と批判した。

その結果、「本来なら学術研究や技術革新を重視すべきところが、政治的な優先順位に左右されてしまい、中国は真の意味でグローバルな科学技術リーダーシップを確立できない」との見解を示した。

海外のスパイ網と科学者の帰国

元北京の弁護士で民主中国陣線カナダ(中国民主派活動組織)の代表を務める賴建平(らいけんぺい)氏も、大紀元に応じ、「中共は長年にわたり、海外に科学技術や学術分野のスパイを組織的に送り込んできた」と指摘した。

近年、アメリカをはじめとする西側諸国は、中共のスパイ活動に対する取り締まりを強化しており、関連する人物の逮捕が相次いでいる。これにより、海外にいる関係者の立場はますます厳しくなり、リスクが高まっている。こうした状況の中、中共はこれらの科学者を本国へ召還する動きを強めていると考えられる。

さらに賴氏は、中国国内の政治・経済の不安定さも、中共が海外の科学技術人材を呼び戻す一因となっていると分析した。
「中共は内外からの圧力に直面し、経済的にも困難を抱えている。こうした状況の中、科学技術の発展を政権の安定材料とすることで、体制維持を図ろうとしている」と述べた。

また、中共は、「国家総動員体制(举国体制)」によって、海外のトップレベルの科学者を大量に呼び戻し、彼らの技術力を利用することで、科学技術力の強化を目指しているとの見解を示した。

アメリカで発覚した「千人計画」関連の事件

アメリカでは、「千人計画」に関与した科学者が逮捕される事件が相次いでいる。

2020年1月28日、ハーバード大学化学部の学部長・チャールズ・リーバー(Charles M. Lieber)がFBIに逮捕された。

中国・武漢理工大学と秘密裏に契約を結び、毎月5万ドル(約550万円、当時の為替による)の給与と、生活費として上限15万8千ドル(約1700万円)を支給されていた。また、同大学から、研究所の設立費用として174万ドルの研究費を受け取っていた。

2019年12月10日、中国籍の研究者・鄭早松(ていそうしょう)はボストンの空港で逮捕された。鄭はがん細胞の研究サンプル19本を盗み、中国へ持ち出そうとしていた。

2020年1月28日、中共軍の中尉・葉燕青(ようえんせい)をFBIは指名手配し、連邦逮捕令を発行した。ボストン大学の研究員として身分を隠しながら、軍事関連の情報を収集していた。

アメリカ議会、「中国行動計画」の再開を求める法案を可決

2024年9月、アメリカ下院は中共に関連する一連の法案を可決し、米中の技術競争に対応するための措置を強化した。これらの法案には、中国製のドローンの使用禁止、中国系バイオテクノロジー企業のアメリカ市場への参入制限、アメリカのコンピューターチップへの中国からの遠隔アクセスの遮断などが盛り込まれている。

さらに、アメリカの大学における中国の影響力抑制や、トランプ政権時代に実施した「中国行動計画(China Initiative、中共による知的財産窃盗やスパイ活動の取り締まりを目的とした政策)」の再開も提案しているという。

「中国行動計画」とは?

「中国行動計画」は、2018年11月にアメリカ司法省が開始した取り組みであり、中共のスパイ活動や知的財産窃盗の取り締まりを目的としていた。特に、学術分野における中共の資金援助を隠している研究者を摘発することに重点を置いていた。

この計画の下で、アメリカの大学の多くの教授は研究資金の申請時に、中共からの資金提供を受けていた事実を開示しなかったとして起訴された。しかし、2022年2月23日、アメリカ司法省はこの計画の終了を発表し、一部の訴追を取り下げた。

「中国行動計画」の影響により、多くのアメリカの大学が、中国との関係を持つ教授との距離を取り始めた。大学側が彼らに対し、自主的な辞職や早期退職を求める圧力をかけるようになったという。

2024年3月、ミシガン大学が発表した記事によると、マサチューセッツ工科大学(MIT)の機械工学教授・陳(ちん)氏を2021年に逮捕した。彼は中共との関係を隠したとして「中国行動計画」に基づいて起訴されたが、MITが法的支援を行ったことで、最終的に1年後に訴えを取り下げた。しかし、記事では「陳氏のケースは例外的なものであり、同様の告発を受けた多くの教授は、大学から見放され、辞職や早期退職を余儀なくされている」と指摘する。

アメリカ国立衛生研究所は、アメリカの生物医学研究における最大の資金提供機関であり、「中国行動計画」の一環として、教職員が適切に連邦資金を使用しているかどうかを調査した。特に、研究資金が中国のプロジェクトに流用されていないかを重点的にチェックした。

この調査の結果、255人の教授のうち、44%が職を失ったと報告している。特に影響を受けたのは、終身教授で多数を占めていた。

資金を失うことを恐れた大学側は、調査対象となった教授に自主的な辞職や早期退職を勧めたとしている。多くの教授は、公に自らのケースについて語ることを避け、自身の研究キャリアや大学の評判を守るため、静かに職を離れていったという。

寧芯
徐亦揚
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