【寄稿】蠢動する北朝鮮の背後にある悪の枢軸

2024/01/29 更新: 2024/01/29

北朝鮮情勢を語る上で、中朝露の三角関係を考慮せずにはいられない。北朝鮮が領土的野心をあらわにし、イランも核開発を加速させるなか、世界情勢のきな臭さは一段と増している。

北朝鮮、暴発か?

1月15日に北朝鮮の金正恩総書記が最高人民会議で行った演説は各界に強い衝撃を与えた。無理もない。「韓国を第1の敵対国、不変の主敵」と見なし、韓国との対話交流を担う祖国平和統一委員会など三つの組織を廃止すると明らかにしたのだ。

昨年まで北朝鮮は、韓国を南朝鮮と呼び、祖国統一の対象と見なしてきた。つまり南朝鮮の人民は、いずれ南北統一されるべき同胞であるから、北朝鮮の核兵器は南朝鮮つまり韓国には使用されないと主張してきた。

ところが北朝鮮の機関紙である労働新聞は、金総書記が軍需工場を視察した際に、「韓国を主敵と断定し」韓国が北朝鮮の安全を脅かせば全ての力を動員し「韓国を完全に焦土化する」と述べたと、1月10日付で伝えている。

全ての力には当然核兵器が含まれるから、韓国を核攻撃する可能性があると言明したことになる。その上で15日に「韓国を第一の敵対国」と呼んで交流機関を廃止するというのだから、韓国を核攻撃すると脅迫しているとしか考えられないだろう。

翌16日に韓国の尹大統領は、この発言に対して、軍事挑発に出るなら「何倍にも報復する。戦争か平和かとの脅迫はこれ以上通じない」と反発を示した。

中朝露の三角関係

事実、北朝鮮は軍事挑発の具体的兆候を示している。14日には、日本海で中距離弾道ミサイルの発射実験を行った。また19日には「水中核兵器システムの実験を行った」と発表している。

14日に発射したのは、固形燃料型で極超音速の変則軌道である。つまり米国でも完成していない最新式であり、完成すれば従来のミサイル防衛では対処不可能だとされる。

19日に行ったという水中核兵器システムの実験は無人水中ドローンで核爆弾搭載可能とされ、もしこれが完成されれば米空母にとって重大な脅威となることは確実だ。

北朝鮮は30年来核兵器開発を続けて来ているが、ここ数年の進歩は目覚ましく、背後にロシアの強力な支援があることは確かだ。極超音速ミサイルや無人水中ドローンはロシアの支援なしに単独で短期間に開発できる兵器ではない。

昨年9月13日、金総書記は極東ロシアのボストーチヌイ宇宙基地でロシアのプーチン大統領と会談した。この時からロシアの北朝鮮への技術支援は加速して行ったと見られる。だがロシアとしては中国の了承を取り付ける必要があったらしい。

10月18日、プーチン大統領は中国共産党の習近平と北京で会談した。ここで中国の了承を取り付けたとみていいだろう。というのも、この会談に同席したロシアのラブロフ外相は、会談直後に北朝鮮に向かい、翌19日に平壌で金総書記と会談しているからだ。

これを懸念した米国のバイデン大統領は10月27日に中国の王毅外相と米ワシントンで会談した。11月15日に、バイデンは習近平とカルフォルニア州で会談したが、その6日後に北朝鮮は軍事偵察衛星を打ち上げた。

つまり、中国は北朝鮮の核・ミサイル開発の停止をカードとして米中会談に臨んだが、会談は決裂し、中国は、北朝鮮にゴーサインを出したのだ。

中国は北朝鮮の事実上の宗主国であり、同時にロシアの石油の最大の顧客でもあるから、ロシアが北朝鮮を支援するのに、中国の了承を必要とするのは当然であろう。

だが、そうまでして北朝鮮を支援するロシアの目的は何か? 一般的には、ウクライナ戦争で砲弾不足に陥るロシアが北朝鮮に核ミサイルの技術供与をする代わりに、北朝鮮から砲弾を供与されていると説明されている。

だが、これは昨年9月のプーチン・金会談以前の状況だ。つまり昨年9月以前に既にロシアは北朝鮮に核ミサイル技術の供与をしていたし、北朝鮮もロシアに砲弾の供与をしていた。従って、昨年9月以降、ロシアが北朝鮮に技術供与を加速している理由の説明にはならないのである。

イランが核開発を再開

昨年12月27日、国際原子力機関(IAEA)は「イランが兵器の使用に迫るレベルの高濃縮ウランを増産し始めた」との報告書を公表した。翌28日に米英仏独4か国はイランを非難する共同声明を出した。

イランが極秘裏に核兵器を開発している事は、周知の事実だ。2021年4月にイランは、ウラン濃縮を効率的に行える新型遠心分離機の稼働を開始した。これにより、イランのウラン濃縮は、原発に使用される上限の20%をはるかに超え、2023年2月には84%に達した。90%に達すると核爆弾に使用できるから、核兵器完成まで、あと6%しかない。

イランの核開発を断固阻止したいイスラエルのネタニエフ首相は、米国のバイデン大統領に「共同でイランの核施設を空爆しよう」と持ち掛けた。ところがその機密文書が4月にSNSで拡散したためイランが知るところとなり、空爆を恐れたイランは6月に濃縮ウランの生産を削減し、事実上核兵器開発を中止した。

これにより米国は空爆しない意向に傾いたが、イスラエルが諦める筈はない。そこでイランは10月にガザ地区を支配するハマスにイスラエルを攻撃させたのである。ガザ地区が戦場になれば、イスラエル空軍はガザ地区の空爆に忙殺されてイランを空爆する余裕がなくなる筈だという戦略である。

そして遂に昨年11月、イランは濃縮ウランを増産し始め核兵器開発を再開したのである。

プーチンの思惑

イランが核武装すれば米国が維持してきたNPT(核拡散防止)体制は崩壊する。NPT崩壊を食い止めるためには、一旦中止したイラン核施設空爆作戦を復活させるしかない。

こうした状況をかねてから予期していたのが、イランの同盟国のロシアである。ロシアはウクライナ侵略を始めたときに、北朝鮮に朝鮮半島の緊張を高めるように依頼していた。米国の戦力を釘付けにするためである。

ハマスは昨年10月のイスラエル攻撃について、半年前から準備していたから、プーチンは9月の段階で攻撃計画を知っていた筈だ。そこで同月、金正恩に会い、支援を加速させたのだろう。朝鮮半島の緊張を更に高め、米国の戦力を東欧、中東、朝鮮半島に分散させる狙いである。

すべからくプーチンは米国のイラン空爆を阻止するために、北朝鮮に新年来、一層強硬な態度を取らせていると見ることができよう。

(了)

軍事ジャーナリスト。大学卒業後、航空自衛隊に幹部候補生として入隊、11年にわたり情報通信関係の将校として勤務。著作に「領土の常識」(角川新書)、「2023年 台湾封鎖」(宝島社、共著)など。 「鍛冶俊樹の公式ブログ(https://ameblo.jp/karasu0429/)」で情報発信も行う。
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