2月23日、河南省鄭州市の街頭に、1人の女性が立った。彼女は自ら、黒い布で目隠しをしている。
「言いたいことは何もない(我没什么想说的)」
ライブ配信を行っている彼女は、そう書かれた大きなパネルを手にして、街角やショッピングモール内を歩いた。最後まで、一言も発していない。それは無言の、しかし「強力な存在」としての勇気ある訴えである。
どこも厳しい検閲が敷かれる中国で行われたこの一連の行動は、やはり中共体制に対する「無言の抗議」という印象を受ける。それを今回は、女性が1人でやった。
彼女の「目隠し」は、中共に批判的な情報や中国に不利な海外情報などを全て遮断する中共のネット検閲制度「グレート・ファイアウォール」を連想させる。
また「言いたいことは何もない(我没什么想说的)」と書かれたパネルは、2022年11月頃に中国各地で巻き起こった「白紙革命」と呼ばれる活動のなかで、街頭に出た人々が手にした「白い紙」と同様の、民衆の強い意志を想起させるものだ。
案の定、女性によるライブ配信はすぐに当局の検閲にひっかかり、封殺に遭った。この無言の女性は、12時間の「ライブ配信禁止」の処罰を受けたのだ。
この勇気ある女性に対しては、多くのネットユーザーから「彼ら(中共当局)は、あなたが何を言いたいのかよく知っている」「あなたは勇者だ」「尊敬します」といった支持や共感のコメントが相次いで寄せられている。
またネット上では、一昨年の「白紙革命」にちなんで、この女性の行動を「白紙革命 2.0」と称する声もある。
2022年11月下旬から上海や北京、成都、武漢など中国の各都市で大勢の市民が街頭に繰り出し、中共政府によって3年続けられた「ゼロコロナ(清零)政策」に抗議した。中共のゼロコロナが実質的に解除されたのは、その直後の12月7日である。
その時、街中には中共による独裁を糾弾する声も上がり、「人権がほしい!」「共産党を倒せ!」といった反共スローガンが響いていた。
抗議する市民たちは、中共の検閲制度に対抗するため、無言の抗議を象徴する「白い紙」を手に掲げた。そのことから、この運動は「白紙革命」と呼ばれた。
しかし「白紙革命」の後、抗議に参加した大勢の市民が当局による嫌がらせや圧迫を受けている。逮捕された人も少なくない。中共当局が情報を厳しく封鎖しているため外部に知られているのは氷山の一角でしかないが、大勢の若い抗議者が今もなお拘束されているか、あるいは行方不明になっている。
このたび、「言いたいことは何もない(我没什么想说的)」のパネルを掲げ、中共当局に対し「無言の抗議」を示したこの女性について、ライブ配信禁止のほかに、どのようなペナルティが科されたかは明らかでない。
彼女が警察に拘束されたか否かも、今のところ分からない。ただ、一昨年の「白紙革命」の後、警察は街中に無数にあるビデオカメラの映像を徹底的に分析し、白い紙を持って抗議に出た市民や学生を突き止め、逮捕をちらつかせて脅迫している。
当局は、なぜそれほど執念深く市民を追跡するのか。その理由を簡潔に言えば、「中共を恐れない民衆の出現」を中共は最も恐れているから、である。
今回の「言いたいことは何もない(我没什么想说的)」の女性も、中共当局にしてみれば、久しく忘れていた恐れを呼び起こす驚愕の存在であったと見てよい。彼女のライブ配信を即刻封鎖したのが、その証拠である。
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