日中ハイレベル経済対話開催 経済優先で進む日中関係と重要問題置き去りのリスク

2025/03/24 更新: 2025/03/24

2025年3月22日、東京において、第6回日中ハイレベル経済対話が約6年ぶりに開催され、日本側は岩屋毅外務大臣、中国側は王毅外交部長が議長を務め、両国の経済協力や懸案事項について約2時間45分にわたり議論が行われた。

日本と中国の関係は、経済協力を中心に進展している一方で、国民感情や安全保障上の懸念、中国の人権問題に関する懸念といった本質的な問題が置き去りにされているとの指摘があり、日中間の政治的関係は、複雑な背景を持ち、双方の政府が、経済的利益を優先する姿勢を見せる中で、国民感情との乖離が目立つ状況だと言う。

最新の世論調査によれば、日本国民の約80%が中国に対して否定的な印象を持っており、中国側でも同様に日本への否定的な感情が根強い。このような感情は、歴史認識問題や領土問題、さらには福島第一原発の処理水放出をめぐる対立などが原因となっている。特に、中国国内では、日本に対する情報が政府主導で操作されることもあり、誤った認識が広まっていることが、感情悪化を助長しているとの指摘があった。

一方で、両国は経済協力を通じて関係改善を図ろうとし、今回開催された第6回日中ハイレベル経済対話では、日本産水産物や牛肉の輸入再開について議論が行われたが、しかし、このような経済的取り組みでは、双方の国民感情の改善につながるとは限らず、経済協力が進む一方で、安全保障上の懸念(尖閣諸島周辺での中国船の活動など)や日本国内での中国人による犯罪事件や中国国内での日本人殺害事件など、根深い問題が起きていた。

さらに、日本国内では、中国共産党(中共)政権との関係改善を進める政府の姿勢に対して、批判的な意見も多く、特に保守層からは、中共との対話が、日本の安全保障や主権を損ねる可能性があるとの懸念が示された。

このような状況下で、両国政府が経済協力を進めることは、重要ではあるものの、それだけでは、国民感情や安全保障上の課題といった本質的な問題を解決するには不十分だと言える。日中関係を真に改善するためには、経済以外の分野、特に歴史認識や安全保障問題での信頼構築が不可欠であり、それこそが両国間の長期的な安定につながるだろう。

そして、さらに対話が置き去りにされている重要問題がある。中国の人権問題だ。

経済連携と人権問題への対応

日本が中国の人権問題を表面的な問題視に留め、経済連携を強力に進めることは、日本に以下のような深刻な問題をもたらす可能性がある。

1. 国際的な信頼の低下

日本が、中国の人権侵害に対して明確な立場を示さず、経済的利益を優先する姿勢を続ければ、国際社会から倫理的責任を果たしていないと見なされる可能性があり、例えば、最近アメリカで「法輪功保護法」が米上下院に提出されて注目を集めている法輪功学習者への迫害や臓器強制摘出、新疆ウイグル自治区での強制収容や臓器強制摘出、チベット、香港、内モンゴルでの自由抑圧、など、中共政権による重大な人権侵害が広く知られている中で、日本がこれらの問題に対して、沈黙を守ることは、民主主義国家としての信頼を損ねる結果となるだろう。

2. 経済的リスクの増大

中国との経済連携を強化する中で、人権問題が絡むサプライチェーンのリスクが増大する可能性があり、中国の虐待が日本の商品に関連している場合、これらが日本国内のみならず国際的な批判を招く可能性が大だ。国際的な規範に反する取引は、日本企業や政府に対する制裁やボイコット運動につながる恐れもある。

3. 国内世論との乖離

日本国内では、中共政権による人権侵害への懸念が広まって、特に新疆ウイグル自治区や香港での状況は、日本国民にも認知されており、中共政権との経済協力を進める政府への批判が高まる可能性がある。国民感情と政府の政策が乖離することで、国内政治への不満や信頼低下につながる恐れが大だ。

4. 安全保障上の懸念

中共政権による人権侵害は、その強権的な独裁統治体制と密接に関連しており、これが日本の安全保障にも影響を及ぼす可能性があり、例えば、中国による尖閣諸島周辺での活動やインド太平洋地域での軍事的拡張は、日本にとって直接的な脅威となった。こうした背景から、人権問題を無視した経済連携は、中国側からさらなる圧力を招く結果となり、中国の軍事的拡張の状況を見れば、中国は日本にとって敵国状態にあるといえる。それゆえに対中国を念頭にした防衛計画が進められているのが現状だ。昨今は、防衛増税も話題だ。その中国と経済連携を強化して、経済的に強くなった中国が、日本に対して増々軍事的圧力を強める結果となれば本末転倒どころではない言える。

5. 国際的リーダーシップ喪失

日本は、民主主義国家として、人権問題に対する積極的な対応が期待されているが、特に欧米諸国が中国に対して制裁や批判を強めている中で、日本が同様の行動を取らない場合、国際社会で孤立する可能性が間違いない。人権問題への対応は、日本の外交政策における重要な要素であり、それを怠れば長期的な影響を受ける恐れがあるのが現実だ。

中国との経済連携を進めることは、短期的には利益をもたらすかもしれないが、人権問題への対応を怠れば、日本は国際社会から倫理的責任を問われ、国内外で信頼と支持を失う可能性が高い。また、サプライチェーンリスクや安全保障上の懸念も増大するため、日本国民や国際社会が、納得できる形で、経済連携と人権問題への対応を両立させるバランスが求められている。

日本に接近する裏の意図

中国が、現在の国際社会で孤立している状況を打破するために日本に接近しているという指摘がある。これには一定の根拠があり、中国は、国内外で多くの課題を抱えており、それが外交政策にも影響を与えたと言う背景である。

2025年、中国は国内で経済的な不安定性や社会不満、政治的な派閥闘争に直面し、また、国際的にはアメリカとの戦略的競争が激化し、特にトランプ政権下では関税や技術規制などの圧力が増した。こうした状況下で、中国は国際的なパートナーシップを強化し、孤立を回避するための努力しているのである。

その一環として、中国は日本との関係改善に積極的な姿勢を示した。3月22日に東京で開催された日中ハイレベル経済対話では、両国が経済協力を深化させる方向性を確認し、特に環境保護や高齢者ケア分野での協力強化が議論された。また、中国の王毅外相は「政治関係を経済協力によって促進する」という伝統的なアプローチを強調し、地域協力と多国間主義の重要性を訴えた。

さらに、中国は日中韓三国間協力にも注力しており、地域の安定と平和を確保するとの名目で、共同努力を主張した。これらの動きは、中国が地域内で信頼と協力を構築し、アメリカなどからの圧力に対抗するための戦略と見ることで間違いないと言う。

しかし、日本側には歴史問題での摩擦や安全保障上の懸念が残っており、これらが両国関係の進展を妨げる要因だ。そして、前述した人権問題も需要なファクターとなり、アメリカが提案した法輪功保護法案は、同盟国との協調が重視されているし、中共政権が国家ぐるみで行なっている臓器強制摘出問題は、日中の医療関連での協力について、今後大きな問題となることが間違いなく予想されることだ。

今回の日中ハイレベル経済対話に関する外務省の発表概要は次の通り。

日中ハイレベル経済対話の主な議題と合意内容

経済協力の推進
両国は、「戦略的互恵関係」の下での実務協力を強化する方針を確認。グリーン経済分野では、次回の日中省エネルギー・環境総合フォーラムを年内に北京で開催することで一致し、若手人材交流や企業間技術協力の促進も合意した。また、2027年横浜市で開催される「GREEN×EXPO 2027」の成功に向けた協力を確認した。

双方は、医療・介護・ヘルスケアの分野での協力を引き続き強化していくことの重要性を確認するとともに、第三国市場で、民間経済協力を引き続き推進していくことで一致した。このほか、双方は、大阪・関西万博を契機として、人的交流やビジネス交流、観光交流等を後押ししていくことを改めて確認するとともに、技能五輪国際大会の2026年の中国(上海)開催と2028年の日本(愛知)開催に際して協力していくことで一致した。

農水産物輸入規制の緩和
日本側は、日本産水産物の輸入再開を改めて求め、中国側もIAEAの枠組み下でのモニタリング継続を前提に、協議を進めることで一致した。さらに、日本産牛肉や精米の輸入拡大についても早期解決を求めた。

ビジネス環境改善
日本側は、邦人拘束事案や「反スパイ法」の不透明性が日本人の活動を萎縮させていると指摘し、拘束邦人の早期釈放(交渉の第一条件)と安全確保を要請。また、中国による重要鉱物輸出管理やデータ越境移転規制などへの懸念を伝え、公平性・透明性あるビジネス環境整備を求めた。双方は関連ワーキンググループや知的財産権保護強化についても協力を確認した。

地域・国際的協力
両国は「昆明・モントリオール生物多様性枠組」の推進、気候変動対策、プラスチック汚染条約交渉への努力などで一致。また、APEC議長国としての相互支持やWTO改革、G20、ASEANとの協力強化についても確認した。

次回対話の開催予定
双方は、第7回日中ハイレベル経済対話を中国で適切な時期に開催することで一致した。

エポックタイムズ記者。東京を拠点に活動。政治、経済、社会を担当。
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