香港では「国家安全法」を導入したことで、国際金融センターとしての地位は急速に他の都市に取って代わられつつある。一方、1980年代に「アジアの金融センター」の名声を得た日本は、現在の状況をかつての地位を取り戻す好機と捉えている。
1997年に英国が香港を中国に返還してから、香港は長い間国際金融センターとして栄えてきた。しかし、中国共産党(中共)は英中両国間の「一国二制度」の合意に反して、「露骨な強権奪取」で香港を「共産化 」した。その結果、米国は香港貿易への優遇措置を取り消し、海外投資家は香港のビジネス環境への影響を懸念して撤退した。シンガポールは2022年から香港に代わり、ニューヨーク、ロンドンに次ぐ第三の国際金融センターとなった。
「国家安全法」は中共や香港当局に反対する者への恣意的な報復を認めており、反逆罪など曖昧に定義された政治犯罪は、最高で無期懲役に処される。つまり、香港にいても、日本企業やその他の外国企業の従業員が「スパイ」の疑いで拘束される可能性があるのだ。
「国家安全法」を導入したことへの反発で、2023年の香港株式市場は4年連続で下げ、前年比14%以上下落した。4年連続の下落は6兆米ドルを失った。ハンセン指数も2024年初頭に19年ぶりの安値水準まで落ち、アジア太平洋地域で最もパフォーマンスの悪い市場となった。
そしてそれに伴い、香港のアジアの金融・貿易ハブとしての地位が低下。このような環境の中で、香港に代わる国際金融センターの地位を狙うのが東京だ。
東京株式は上昇
2023年、東京株式市場も上昇を続け、日経平均株価は年間28%近く上昇した。上昇幅は歴代第3位となり、過去33年間で最高のパフォーマンスとなった。 これは香港の「国家安全法」が可決されたことで、日本はアジアの金融センターとしての地位を取り戻す好機と見ているようだ。
日本の経済学者で嘉悦大学教授の高橋洋一氏は3月30日、「国家安全法の可決により、香港は『共産化』を加速させており、金融センターとしての地位を維持することは期待できない。日本にとっては、大きなチャンスだ」と指摘した。
政府が設立を目指す国際金融都市を巡り、2020年に当時の菅義偉首相は「グローバルな人材、資本、情報を結集し、日本を金融・投資の中心地にする」と表明した。さらに「東京は多くの金融機関が集中する都市であり、大きな期待が寄せられている 」と述べ、この行動の「スピード」を強調した。
「税制上の措置や行政の英語対応、在留資格上の問題についてスピード感を持って政府一体で取り組みたい」など、内閣記者会のインタビューで、東京の国際金融都市としての発展を期待する一方、菅義偉氏は「他の地域でも金融機能を高めることのできる環境を作っていきたい」と、東京以外の大阪・福岡などの可能性にも言及した。
その後、2023年9月に岸田文雄首相は海外の資産運用業者のさらなる新規参入を促進するために「資産運用特区」を創設することを明らかにした。「日本を新しいアジアの金融センターにして、海外の資産運用業者等の参入を促し、魅力を向上させる」と決意を固め、日本の金融市場改革を進める施策を次々と進めていった。
英国のシンクタンク「Z/Yen」グループが発表した「世界金融センター指標」では、東京はニューヨーク、ロンドンに次ぐ3位で、上海、シンガポール、香港よりも上位に位置する。
外国資本が日本に投資
香港の「共産化」とも呼応するように、今年、日本経済の急速な回復、特に中国をはじめとする外国資本の日本株式市場への大量の流入は、日本政府に自らの立場を再評価する好機をもたらした。
「日経アジア」は、日本政府の政策が正しければ、日本はシンガポールと競争し、香港からの資本撤退が東京の利益になると指摘している。
岸田首相は、東京が香港に代わってシンガポールと競争し、中国の富裕層を日本に呼び込むチャンスがあると見て、個人投資のルートを拡大する新政策を発表した。
2023年9月にニューヨークを訪問した際、岸田首相は外国資産管理会社の日本進出を促進するため、投資税制を拡充し、英語での行政手続が可能な特別商務区を設置することを表明した。
米中の緊張が高まる中、世界の金融大手が中国から撤退し、最適の投資先として日本に注目している。日本政府はこれらの巨人との交流を始めており、その中には米資産運用大手のブラックロックも含まれている。
日本市場を開拓した第一人者として、ブラックロックのラリー・フィンクCEOは2023年に2度来日し、岸田首相と日本の金融政策などについて懇談した。同年10月5日、岸田首相はブラックロック主催のグローバル投資機関向けディナーパーティーに出席し、フィンク氏を含む国内外の約20社の金融機関の幹部と会談した。
岸田首相は日本のコーポレートガバナンス改革などを紹介して各国に日本への投資を呼び掛けた。会合に参加した投資機関の幹部らは、「他のグローバル市場と比べて日本の見通しについて楽観的だとし、日本はここ数十年ポジティブな評価を受けている」と述べた。
経済産業省関係者によると、ブラックロックは現在、日本を「発展の余地がある国」と認識している。
また「これまでブラックロックは、中国市場の拡大を約束していた。しかし、米中関係が悪化するにつれ、中国本土での活動はさまざまな制約を受けるようになった。そこで日本市場に目を向けた」、「日本はアジアの新しい金融センターの有力な候補であり、国際金融機関は一般的に日本に投資し始めた」と語った。
日本の家計貯蓄は110兆円に上るといわれ、ブラックロックなどの国際金融機関にとっては魅力的だ。
日本の金融メディアに勤務していた牧隆文氏は「香港の金融センターの地位が誰に取って代わられるかは、中共との対立など地政学的要因が大きく影響する」と述べた。
また「シンガポールは金融先進国であり、大きな可能性を秘めているように見えるが、国際金融センターになるために最も重要なのは米国からの信認だ。シンガポールは中国政府の影響をある程度受けているため、米国の対中制裁に参加していない」と指摘した。
この点を踏まえれば、アジアにおけるアメリカの最も近い同盟国である日本は、香港に代わってアジアの金融センターとなる可能性が非常に高いと牧隆文氏は語った。
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