日本のエネルギー政策は、二酸化炭素(CO2)削減に偏重するあまり、産業空洞化を招き、国力を毀損している。キヤノングローバル戦略研究所の杉山大志研究主幹はエポックタイムズの取材で危機感を示した。杉山氏は「エネルギードミナンス計画」を提唱し、エネルギーコストの低減と安全保障の確保を最優先する現実的な政策転換を訴える。
「日本のエネルギー政策は現在、脱炭素のことしか考えていない。それのせいで産業が空洞化していって、日本が弱くなっている。日本が弱くなると自国を守ることもできない」と杉山氏。「脱炭素の目標を決めることはやめる。その代わり、電気料金について目標をはっきり決めるべきだ」と指摘した。
エネルギードミナンス計画では「脱炭素に伴うエネルギーコスト増は国力を毀損し、安全保障と経済成長を損なう」とし、「根本的な低コスト化に向けた一貫した政策を構築すべきときにある」と訴える。同計画は、産業用・家庭用電気料金を2010年の水準まで引き下げる数値目標を掲げている。
そのため同計画は、原子力の最大限の活用、化石燃料の安定利用、太陽光発電の新規導入停止、再エネ賦課金などの国民負担抑制を提言する。「原子力はしっかり推進する。化石燃料も日本のエネルギーの8割を占めるので、きちんと位置付けて利用していく」。
再エネ偏重のなか、国民負担は着実に増加している。
「再エネ賦課金の値上げで、報道では標準家庭の負担増は年1万3000円とされているが、これは氷山の一角。企業が払う分まで含めると、3人家族の世帯で年6万円を超える。再エネ賦課金だけで電気代が1.5倍に跳ね上がる計算だ」
加えて、政府は「グリーントランスフォーメーション」の名目で、今後10年でGDPの3%もの巨額を投資する予定だ。杉山氏は「その負担は結局、国民の税金や電気料金に跳ね返ってくる。1人当たり10年で120万円、3人世帯なら360万円。それで太陽光や風力、アンモニアや水素など高いエネルギーを増やしても、国民には何の見返りもない」と批判する。
電力システム改革の失敗も看過できない。「電気料金を下げることができず、安定供給もままならない。制度が複雑怪奇になり、改変が終わる見通しも立たない」として、杉山氏は垂直統合型の電力体制への回帰を求める。
もしトラ念頭に…「日本も今年が勝負」
杉山氏は、日本政府が今年度中にエネルギー基本計画を策定する方針を示していることにも言及した。さらに、来年の米国大統領選の行方にも左右されると指摘する。つまりトランプ氏の再選、「もしトラ」だ。
「バイデン政権の言うことは共和党政権になれば180度変わる。その時、日本がどうするかを今から考えなければならない」と杉山氏は警鐘を鳴らす。「トランプ氏が優勢で、共和党政権の復活となれば、米国のエネルギー政策は180度転換する。日本も対米追随一辺倒ではなく、『この道でいいのか』とエネルギー政策を見直す良い機会になる」。
パリ協定からの離脱も選択肢と位置づける。「気候変動に関して国連のやっていることは全くダメだ。2050年のCO2ゼロは非現実的で、経済を崩壊させかねない」と杉山氏。「日本はパリ協定から脱退すべきだ。米国と日本が抜ければ協定は空文化する。ヨーロッパも経済的に自滅しかねないので、それを止めるのは日本の国益にもかなう」と訴える。
エネルギー安全保障の観点からは、「日本のエネルギー供給は脆弱。有事の際は、原子力発電所の稼働、燃料備蓄の強化、エネルギーインフラ防衛の強化が不可欠」だと論じた。「グリーン一辺倒」の投資より、インフラ防衛などに予算を振り向けるべきだと訴えた。
日本のエネルギー政策は、脱炭素イデオロギーに囚われることなく、安全保障と経済成長を第一に考える「エネルギードミナンス」へと舵を切るべき時を迎えている。国民生活と日本の未来を守るためにも、理想論を離れた現実的な政策転換が急務だと指摘した。
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