清朝末期に日本に亡命した孫文が犬養毅や頭山満らの支援を得ていたことは有名な逸話だ。そして今、東京の街角には、清王朝末期の動乱を彷彿とさせる情景が広がりつつある。「亡命に等しい中国人を遠ざけるのは日本の国益に叶うのだろうか」。永田町の一室に響いたこの指摘は、日本社会に1世紀以上前に繰り広げられた対中政策の胎動を象徴している。
中国経済の失速と秦剛外相の失踪に象徴される政局不安により、多くの中国人が海外に「脱出」している。英語の「run(走るの意)」を文字った「潤(ピンインでrun、国外脱出の意)」活によって、多くのインテリ層や富裕層が資産を持って東京に集っている。
「本来はそのような人々と意見交換しなければならない。『義を見てせざるは勇なきなり』という日本人古来の生き方を今こそ示し、懐の深さを見せないといけない」。こう語るのは務台俊介衆院議員(自民)だ。中国人富裕層や民主活動家は海外の大都市に集っており、なかでも東京が一番のホットスポットになっている。
「辛亥革命期には袁世凱が力を持ったが、孫文や蒋介石を始めとする中国のトップインテリ層は日本に渡航した。表の仕事をする外務省は亡命中国人を監視したが、玄洋社を中心とする頭山満や犬養毅など、民間人や在野の政治家らが中国人に援助を与えた。当時の日本人は非常に強い正義感と戦略眼を持っていたと思う。日本人の支援がなければ辛亥革命が成功に至らなかったというのは中国の歴史家の認識になっている」
現在の中国の支配層である中国共産党と、中国共産党に管理された中国の一般国民とを明確に区別する務台氏の見解は、中国通にして「もの言う大使」として知られる垂秀夫前駐中国大使と共鳴するものだ。
8日、都内の会合で講演した垂氏は、「中国共産党と中国国民は違うというアプローチを中国共産党が最も嫌う」と指摘した。第二次世界大戦後、中国共産党は日本に対して「日本軍国主義と日本国民は違う」という構図で宣伝を行い、日本国民の意識に入り込んだとされる。日本が同様の戦略的アプローチを仕掛けることで、中国共産党に対してカウンターを返すことができる、というのだ。
中国共産党の浸透工作に詳しい長尾敬前衆議院議員はエポックタイムズの取材に対し、「垂秀夫前大使が指摘した『中国共産党≠中国国民』については私も同じ理解をしている。今の中国共産党体制は、胡錦濤の共青団、温家宝の官僚派、江沢民の上海閥が習近平の太子党によって排除された形であり、中国共産党に帰属意識のない勢力が日本に向かっていく流れはこれからも加速するだろう」と指摘した。
中国本土では、暴力革命で政権を奪い取った中国共産党に対して、民衆が根強い不信感を抱いている。経済が傾くなか、中国共産党による高圧的な政策や付随する社会問題が原因で、各地で抗議活動が発生している。
いっぽう、中国共産党はデジタル技術やAI監視システムを多用し、言論空間を統制している。個々の中国人が不満を抱えていても、社会的な運動につながる可能性は低い。
それでも、長期的戦略的視点に立って考えることが必要であるという観点から、「中国の将来を憂うるインテリ層と、日本の民間人・政治家がしっかりと対話するルートを作るべきだ」と務台氏は語る。「その一例として、法輪功、チベット仏教、ウイグル人など、中国本土から避難してきた人々の意見もしっかり聞いておくことが大事だ」と語った。
ジャーナリストの三枝玄太郎氏は、「自民党内で垂秀夫・前中国大使を招いて若手国会議員の勉強会を開いたということは、今後の日中関係を考える上で意義は大きい」とし、「今、日本人及び日本の政治家がすべきは、日中友好の美名に酔って、彼ら中国政府の邪悪な工作に乗ることではなく、令和の孫文を見出して支援することなのではないか」と語った。
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