フランスで、中国共産党の海外警察組織が反体制者を中国へ強制送還しようとする事件が発生した。
駐仏中国大使館の職員や共産党関係者が関与したこの事件は、フランス国内での中国共産党の影響力を浮き彫りにしている。
フランスメディアは、この未遂事件を通じて中国共産党の弾圧手法とその危険性を明らかにした。
3月22日、26歳の反体制活動家・凌華湛氏は、シャルル・ド・ゴール国際空港の第1ターミナルに連行され、7人の中国共産党関係者に監視されていた。
その中には駐仏中国大使館の職員2人も含まれており、彼らは凌氏をパリ発広州行きの飛行機に搭乗させようとしていた。
しかし、凌氏は空港で大使館に取り上げられた自分のパスポートを取り戻し、搭乗を拒否した。
駐仏中国大使館の2人の職員は広東省湛江市の警察に連絡し、その警察は凌氏に帰国を命じたが、すぐにフランスの国境警備隊が到着し、中国側の行動を阻止した。
この事件は、中国共産党の党首習近平のフランス訪問直前に起こった。5月2日、フランスのテレビ局「フランス2」は特別番組を放送し、駐仏中国大使館や中国共産党の「サービスセンター」、さらには海外の中国人コミュニティを通じて反体制者を脅し、強制送還しようとする中国共産党の手法を明らかにした。
凌華湛氏と接触していた亡命者の王靖渝氏が提供した情報に基づき、「フランス2」とフランスの新聞「ル・シャレンジ」の記者たちは、共産党の海外警察機関を通じて反体制者に嫌がらせや強制送還を行う過程を追い、初めてテレビでその実態を報じた。
彼らはどこにでもいる
凌華湛氏は広東省出身で、中国国内で農業技術者として働いていた。彼は中国共産党の独裁に公然と反対し、習近平や毛沢東を批判する動画を公開するほか、共産党から迫害を受ける集団を支持した。
2023年春、彼はヨーロッパに旅立ち、9月にはドイツで脅迫を受けた後、フランスに移動した。パリに着くと、彼は身元不明の中国人による尾行や攻撃、侮辱を受けた。
3月22日、凌氏は中国大使館から連絡を受け、パリ北部オーベルヴィリエの中華料理店の外で会うよう求められた。ここはフランス情報機関が中国共産党の秘密警察だと特定している場所だった。
凌氏は「(中国大使館側は)フランス全土に仲間がいて、どこに隠れても私を見つけると言った。 私は逮捕され、中国に強制送還されると思った」と語った。
その後、凌氏は2台の車で空港に連れて行かれ、フランスの記者たちは車を追いかけた。
凌氏は中国大使館側は、車に乗ればパスポートを返すと約束したと説明した。
空港に到着すると、凌氏は中国大使館の2人と「法国愛心団」のベストを着た数人に囲まれた。搭乗直前、凌氏は逃走を決意し、大使館員たちは激怒して追いかけた。
その時、フランスの記者が介入し、凌氏がパスポートを取り戻す手助けをした。フランスの税関職員も駆けつけたが、外交特権を持つ大使館員には対処できなかった。
しかし結局、中国大使館員らは凌氏の強制送還に失敗した。
その後、凌氏は数百件の嫌がらせ電話や脅迫メッセージを受けた。大使館員側は凌氏に帰国して出頭するよう要求し、拒否すれば家族に報復が及ぶと脅し「兄弟を拷問する」「生殖器を潰す」と脅迫した。
フランスの報道機関が抗議のために嫌がらせの電話にかけ直したところ、中国の公安局が対応した。しかし凌氏への嫌がらせについては一切説明せず、「市民に案件の詳細を公開するのは適切ではない」と述べた。
駐仏中国大使館は5月2日、自身のウェブサイトでフランスの報道を「完全な虚偽と捏造に基づく」と批判した。
そのウェブサイトでは、凌氏が「反中国活動を行う人物」で、「法輪功を行っていた際の過ちを認めた」とされ、大使館員らは彼の帰国を支援する意図があり、「拘束、強制、脅迫はなかった」と述べていた。
その記述に対し、凌氏と連絡をとっている王靖渝氏は大紀元の取材に対して「全くの嘘」だと断じている。
中国共産党が「凌氏が法輪功を修煉している」と主張していることについて、凌氏は大紀元の取材に対して答え、「それは大使館による強制で、彼らが用意した台本をそのまま書くよう指示されたものだ。私は法輪功とは無関係だ」と述べている。
■世界での中国共産党の海外警察活動の広がり
2022年、スペインの人権団体「セーフガード・ディフェンダーズ」は、中国共産党が世界53か国に100以上の海外警察局を設置していると報告した。フランスには4か所存在し、パリ市内に2か所、郊外に2か所ある。
同団体の4月の報告によれば、中国共産党は過去10年で1万2千人以上を中国に送還したとされる。「狩猟作戦」と「天網作戦」のプロジェクトで、少なくとも283人が56か国以上から中国に送り返されているという。
共産党は、これらの活動が金融犯罪に関与している疑いのある中国人の逮捕を目的としていると主張している。
世界各地に展開する中国人向けの中国共産党の秘密警察「サービスステーション」、通称「110海外」は、五大陸にわたる数十か国に存在し、日本にもある。
4月10日、凌氏は嫌がらせを行った人物を訴えた。彼の弁護士アンリ・トゥリエ氏は凌氏の提訴は典型的なケースで、事実も明白であると述べ、「外国政府によるフランス国内での市民の基本権侵害は許されない」とトゥリエ弁護士は述べた。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。