バイデン政権が推進する学生ローンの免除に続き、進歩派議員らは、5月8日に提出した新法案を通じて、医療費の債務免除にも取り組んでいる。
この法案は、バーニー・サンダース上院議員とジェフ・マークリー上院議員、ロー・カンナ下院議員とラシダ・トレイブ下院議員が提案した。議員からのプレスリリースによると、この法案は、何百万人ものアメリカ人が抱える2200億ドルの医療債務を解消し、信用情報からその負債を消し去り、将来の医療負債の取り立てを制限するものである。
サンダース氏は「ここはアメリカ、世界史上最も豊かな国だ。我が国の人々は、がんになり医療費を払えないという理由で破産するべきではない」と述べた。
「アメリカ国民の誰も、予期せぬ医療の緊急事態や入院による高額な費用で、経済的に破綻することがあってはならない。医療負債を全てなくし、特権ではなく人権として、全員に保健医療の提供を保証する時が来た」とつけ加えた。
サンダース氏は、2020年の大統領選に民主党から立候補している最中に、選挙戦でこの政策を打ち出した。推定810億ドルの医療負債を軽減する意向を表明し、この政策を提案した。
議員らは、アメリカで医療負債の危機が起きており、近年急激に増加していると指摘している。これが「アメリカ人の貯金を食い潰し、治療を受けることをためらわせている。
医療負債の大規模な免除はまだ実証されていないが、州や地方政府が、「医療負債を安価で買い取り、帳消しにするという小規模な医療負債救済プログラム」で、どのようなことが起こり得るかを示している。
国立経済研究所(NBER)が4月に公開した研究の初期報告によると、こうした支援プログラムがもたらすメリットは限られていることが判明した。
3月には、アリゾナ州のホッブス知事(民主党)が、医療負債を買い取って帳消しにする非営利団体RIP Medical Debtと協力し、最大100万人の州民の医療負債を軽減する計画を提案した。これにより、アリゾナ州では約20億ドルの医療負債が免除される見込みだ。
4月には、イリノイ州知事のJ.B.プリツカー(民主党)が、承認されれば初年度にイリノイ州の34万人の住民の医療債務約10億ドルを救済する、同様のプログラムを提案した。全体で40億ドルの救済が見込まれている。
立法
連邦医療費債務取消法案は、公正債務回収慣行法を改正するもので、「法案が成立する以前に生じた医療費に関する債務の回収を禁止し、患者が自ら訴える権利を新たに設ける」ことを目的としている。
また、公正消費者信用報告法も改正し、「医療費に起因する債務に関する情報を、信用報告機関が記録しないようにすることで」、クレジットレポートから医療費に関する債務の記録を消去する予定だ。
さらに、保健福祉省に新しい助成金プログラムを設け、「資源の乏しい医療提供者や社会的弱者に優先的に」医療負債を帳消しにする計画だ。
議員たちはプレスリリースで、「アメリカ国民の大多数が医療費の借金免除を支持しており、それは合理的な判断だ。共和党員の84%もこの免除に賛成しており、党派を超えた支持を得ている。実際に、アメリカ人がどの借金を免除してほしいか調査したところ、3分の2が医療費の借金を挙げた」と述べた。
法案の背景にあるデータ
進歩派議員らは、健康政策改革や健康システムの向上に関する独立研究を支援する非営利団体コモンウェルス・ファンドが行った医療費の手頃さに関する調査を引用している。この調査によると、「保険の種類にかかわらず、不十分なカバレッジ(投資や株式市場において将来の値動きを予測)が原因で治療の遅延や放棄、大きな医療負債、健康問題の悪化に直面している」という。
具体的には、アメリカの労働年齢の成人の約27%が500ドル(約7万7000円)以上の医療費の借金を負っており、15%が2千ドル(約31万円)以上の医療費の借金を負っている。
報告書によると、突発的な事態や緊急事態が人に高額な医療費をもたらすが、多くの医療費の借金は、慢性疾患の治療に関連していることが明らかになった。調査では、慢性疾患とその治療による借金を持つアメリカの成人が約半数に達している。
マークリー氏は「患者は病気や怪我をした時に、経済的な破産を恐れずに、必要な治療を受けるべきだ」と述べた。
「アメリカの医療費の借金問題は多くの人に影響を与え続けており、議会はこの重い負担から患者を救済するために全力を尽くすべきだ。私たちが提案する医療費借金免除法案は、患者の医療費の借金を免除するための助成金プログラムを設ける。この法案は、オレゴン州だけでなく全国の家族にとって、実用的な一歩となる」と続けて強調した。
さらに、彼らは2018年の国勢調査データで、医療費によって800万人のアメリカ人が貧困に陥ったこと、そしてアメリカの成人の約75%が、予期せぬ医療費の支払いを心配していることなど、いくつかの事実やデータを挙げた。
プレスリリースでは、「医療費の借金は、クレジットスコアを悪化させ、ローンの申し込み、住宅ローンの契約、車の購入が難しくなる」と指摘している。
「現在、約4割のアメリカ成人が医療費の借金を抱えており、12人に1人は大きな借金を報告している。特に女性、黒人、障害を持つ人々、農村部や南部に住む人々が大きな影響を受けている。米国の医療システム崩壊の結果として、黒人の3人に1人、女性の約半数、南部に住む成人のほぼ半数が未払いの医療請求を抱えている」
また、イェール大学とスタンフォード大学の研究によると、病院が患者に対して、医療費の訴訟を増やしており、これが「黒人や低所得者、農村部に住む患者に不釣り合いに影響を与えている」と指摘している。
先行研究が示した限られた効果
国立経済研究所が今年4月に公開したワーキングペーパー(作業文章と呼ばれるもので、DR(決議案)を作成する過程で提出し共有する文書)によると、医療負債の軽減に関する実験の結果は、あまり肯定的ではなかった。ワーキングペーパーは、議論や意見交換を目的として配布されるもので、査読は受けておらず、NBERの公式出版物に付随する委員会の審査も受けていない。
NBERと非営利団体RIP Medical Debtは、2018~2020年にかけて、8万3401人の医療負債を合計1億6900万ドル軽減するランダム化実験を2回実施した。研究チームは、クレジットレポート、債権回収のデータ、アンケート調査を用いて、その後の影響を追跡調査した。
NBERの報告書は次のように述べている。「まず、借金の免除が信用の利用や財政的な困難に対して全体的には影響がないことが分かった。次に、借金の免除により既存の医療費の支払いが少し減ることが確認された。最後に、医療費の借金が免除されても精神的な健康には全体的には影響がなく、一部のグループでは悪影響が見られた」
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