潤沢な資本に支えられた資産バブルが過去20年間にわたって膨らみ、インフレーションと物価高騰は住宅価格を大きく押し上げた。
アメリカに住み続けられる人はいるのだろうか。否、ほとんどのアメリカ人が厳しい現実に直面していると言える。絶え間ない資本流入が過去20年にわたって資産バブルを膨らませ、住宅所有および住宅価格一般は、インフレと物価高騰に大きく影響を受けてきた。余裕のない生活を強いられる中で、社会はいかなる問題に直面するのか。答えは過去の歴史を見ればわかる。
どれほど深刻な問題か。アトランタ連邦準備銀行が行う住宅取得可能性(Home Affordability)モニターによれば、消費者物価指数の上昇が観測され始めた2021年の第二四半期を境に、住宅費用が世帯収入を圧迫し始めた。現在、住宅価格の中央値は世帯収入の中央値の4割に上り、適切とされる3割を超えている。同指数は、世界金融恐慌を引き起こした2007年の不動産バブル以来、最悪の数値を記録している。
住宅購入を妨げているのは住宅ローンの急激な高騰だと指摘することもできるが、ローンが主な元凶ではない。現在、住宅ローン金利はおよそ6〜7%で推移しているが、歴史的に見れば決して高くなく、金利がさらに高かった時代でさえ住宅購入は今よりも容易だった。根本的な問題は利率でも、高騰する保険料でもなく、住宅そのものの値段にある。
アラン・グリーンスパンが米連邦準備制度(FRB)理事会議長を務めていた1995年以降、住宅セクターへの資本流入が拡大し始めた。消費者物価指数に基づく住宅平均価格は現在までで140%増加し、2020年からだけで22.4%上昇している。S&Pコアロジック・ケース・シラー全米住宅価格指数によれば、住宅購入価格は2000年時点と比べて3倍に達している。その一方で、世帯収入は全く追いついていない。
30年近くにわたる低金利政策が、不動産バブルを膨らませた。価格の高騰はリーマンショックで一時的に小休止をみせたが、その後また、所得上昇を上回るスピードで高騰を続けた。2020年〜2021年にかけて景気刺激を目的とした資本投入が行われるとインフレ速度はさらに加速、2020年から続く価格上昇はますます多くのアメリカ市民を住宅市場から閉め出している。
マサチューセッツ工科大学が生み出した生活賃金計算システムを用いて行われた研究によると、アメリカで四人家族が不自由なく生活を送るためには、比較的物価の高い北東部および西海岸地域で30万ドル以上、相対的に物価の低い南部や中西部においてもおよそ20万ドル必要だという。
実収入が7万5千ドルを下回り、なお減り続けている状況において、自宅を購入するという伝統的なアメリカン・ドリームを追い求められる者は、ますます減っていくだろう。なんという惨事だ。かつてこの国をつくりあげた価値と理想にまさに相反するもので、まったくアメリカらしくない。
社会は今、持ち家のある人と、家を変えない大多数の人々に二分されつつある。同時に、歴史上初めて、プライベートエクイティや他の機関投資家が市場に参入しはじめた。これらの企業は、今や住宅市場のおよそ20%を占めるまでにいたる。なぜこれが可能だったのか。彼らは一桁という低金利でローンを組むことができ、それは住宅ローン市場で個人が契約できる利率よりも低いことが多い。その結果、初回購入者をはじめとする個人の住宅購入者を閉め出し、住宅価格を押し上げた。
アメリカは20世紀、活力に満ち溢れた分厚い中産階級に支えられて大きく発展した。その中産階級のバックボーンこそが、住宅所有だった。その大きな背景に、適切な収入を得られる製造業と、労働者と資本家の間の利害を調整することに成功した金融・財政政策の存在があった。今や、その全てが失われてしまった。
住宅価格は株価の暴落や景気の後退でないかぎり落ちることはなく、それは家を買おうとしている者を含めて全ての人に悪影響を及ぼす。仕事がなければ、住宅価格が突然3分の1になろうと何の意味もない。今求められているのは、実所得の向上だ。
それとともに、製造拠点の復活、エネルギーミックスの実現、公正な貿易による米国製品の競争力回復が必要だ。当然、アメリカの資源を圧倒せず、基幹労働市場において市民から職を奪うに至らない程度の適切な移民政策とその実践が求められる。
それらがなければ、アメリカの労働階級と中産階級はますます貧しくなる。仮に歴史がなにかを教えてくれるとするなら、あえてそれがフランス革命であるとするならば、見るに耐えない結果が待ち受けているだろう。
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