オーストラリア政府は現在、国のネットゼロ(温室効果ガス排出を実質ゼロに向けた動き)を支援できる大規模な再生可能廃棄物管理システムを検討している。
気候変動・エネルギー・環境・水省(Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water:DCCEEW)の広報担当者は、州環境大臣らが2022年10月に国家廃棄物政策行動計画に基づく解決策を推進したと述べた。
目標には、全廃棄物ストリームからの回収率を80%にすること、リサイクル材料の使用を大幅に増加させることが含まれる。
「廃棄物およびリソースリカバリー部門の改善は、特に有機物に関して、オーストラリアの温室効果ガス排出ゼロへの取り組みを支援する」と報道担当者は述べている。
再生可能エネルギーはオーストラリアのクリーンエネルギーへの移行に重要であるが、太陽光や風力はかなりの量の廃棄物を生じさせ、オーストラリアは廃棄物管理インフラに限界がある。
太陽光パネルにはリサイクル可能な材料が含まれ、一部の風力タービン製造業者は持続可能性を向上させる計画を立てている。
気候変動・エネルギー・環境・水省(DCCEEW)の報道担当者は「リサイクルされた太陽光パネルからはガラス、シリコン、銀およびその他の金属を生産できる。主要な風力タービン製造業者は2030年までにゼロ廃棄物タービンを製造することを約束している」と述べた。
水力発電など一部の再生可能エネルギー源は廃棄物を出さない。
太陽光パネルの廃棄処理
太陽光発電はオーストラリアのネットゼロ目標達成の主要手段の一つである。 ネットゼロとは、温室効果ガスの排出量から吸収量や除去量を差し引いて「温室効果ガスの排出を実質ゼロ」とする考え方である。
しかし、ニューサウスウェールズ大学(UNSW)が主導する研究によると、2025年には5万トン以上、2030年には年間約10万トンの廃棄物が生じると予想する。
太陽光発電システムは、廃棄物処理場への搬入前に検査され、環境への損害を最小限に抑えるための措置が講じられているが、パネルはスペースを占有し、劣化するにつれて有害な化学物質が環境に流出する可能性がある。これにより、ビクトリア州など一部の州では太陽光エネルギーシステムの廃棄を完全に禁止している。
また、太陽光パネルの材料の95%はリサイクル可能であるが、オーストラリア企業はリサイクルプログラムの不足で、太陽光パネル重量の最大17%しかリサイクルできない。
しかし、気候変動・エネルギー・環境・水省(DCCEEW)の報道担当者は、オーストラリア政府が規制された太陽光パネルリサイクル計画を開発する意向を発表したと述べている。
「再生可能エネルギーシステムの廃棄物管理は、再生可能エネルギー移行および循環型経済への移行の重要な部分である」と報道担当者は付け加えた。
太陽光発電システムのリサイクル
太陽光発電システムのリサイクルにはさまざまな方法があるが、最も一般的にリサイクルできるパネルの部品は、アルミニウム フレームとプラスチック ジャンクションボックスである。また、太陽光パネルに用いられる銅線も容易にリサイクル可能である。
太陽光パネルから発生する電気を、エネルギーグリッドで使用可能な形に変換するバッテリーやインバーターも、オーストラリアの既存の電子廃棄物リサイクルシステムを通じてリサイクルできる。
しかし、太陽光パネルの大部分を構成するガラスとバックシートは、オーストラリアではリサイクルできない。
薄膜太陽光パネルのリサイクルプロセスは異なる。パネルをシュレッダーで粉砕した後の物質は、固体と液体の混合物となる。このため、回転する分別器を使用して固体と液体に分離する。それぞれ別々に処理し、ガラス成分の90%と半導体材料の95%は回収できる。
高いリサイクルコスト
しかし、オーストラリアにおいて、太陽光パネルのリサイクルコストが問題視されている。2023年の時点で、撤去料金を加えて一枚あたり10豪ドルから20豪ドル(約950~1900円)も必要だ。
ニューサウスウェールズ大学の研究員であるロン・デン氏は、「屋根に10枚のパネルがある場合、少なくとも200豪ドル(約1万9千円)の費用がかかる」と述べている。また、新システムの生産はリサイクル材料を使ってパネルを作るよりもコストが低く、一度きりの使用が推奨されているため、リサイクルされたパネルの使用は減っている。
パネルの再利用は一つの選択肢ではある。寿命の20~30年を経ても、太陽光パネルは電動自転車の充電ステーションなどのオフグリッドシステムに電力を供給することは可能だが、一部のパネルは寿命が尽きる前に新しいモデルに交換されることもある。ニューサウスウェールズ大学のリチャード・コーキッシュ博士は、「過去10年間をみても、完全に機能しているPVモジュールの交換が増えている。多くの人は数年前に設置した小さくて高価なシステムを、追加するのではなく、新しいものに全面的に交換するよう説得されている」と指摘している。
風力タービンの廃棄
風力タービンもまた、クリーンな再生可能エネルギーの最も安価な供給源の一つであるが、これもまた大量のリサイクル不可能な廃棄物を生み出し、最終的には埋め立て地に捨てられることが多い。
クリーンエネルギー協議会によると、 2034年までにオーストラリアの風力発電所は廃止になる。これにより、推定1万5千トンのブレード廃棄物が発生することになる。
太陽光パネルと同様に、タービンは大部分がリサイクル可能であり、オーストラリアでは風力タービンの質量の約85〜90パーセントがリサイクル可能である。
しかし、2022年の南オーストラリア大学の研究では、リサイクルプログラムが近く確立されないなら、何万もの風力タービンのブレードは埋め立てに終わると予測する。
この研究は、タービンブレードのリサイクルが直面する課題を浮き彫りにした。
タービンは炭素繊維またはガラス繊維複合材料で作られており、分解するにはコストがかかる。これらのリサイクルプロセスを通じて得られる材料には市場価値はほとんどない。
南オーストラリア大学のマジェフスキ教授は、「これらのブレードは商業用風力タービンでの使用において、コストが低く信頼性がある。しかし、リサイクルの面ではコストがかかり困難に直面している」
「リサイクルプロセスのコストと回収された材料の限られた価値により、市場ベースのリサイクルソリューションが出現することは、現実的ではない」と述べている。
「また、製造者が処理責任を負うか、終生ソリューションの提供が風力発電所ビジネス運営の計画承認プロセスに組み込まれることになると、持続可能な廃棄にかかるコストは、風力タービンの製造や運用にかかるコストに考慮される必要があるだろう」と指摘した。
マジェフスキ氏は、「製造者が消え去ったり風力発電所が倒産した場合でも、適切な処理システムが維持されるようにするためには、公式の枠組みが必要である」と述べた。
一方、気候変動・エネルギー・環境・水省(Department of Climate Change, Energy, the Environment and Water DCCEEW)の広報担当者は、政府が風力タービンのリサイクル施設の開発に取り組んでいることを明らかにした。
「政府は、協力研究センタープログラムの下で、風力タービンのリサイクル施設を開発するために300万ドルを投じることを約束している」という。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。