なぜウクライナはこの時期にロシアに大規模な奇襲を仕掛けたのか?

2024/08/15 更新: 2024/08/15

ロシアウクライナ侵攻が約2年6か月に及んだ。そうした中、ウクライナは8月6日に初めてロシア本土のクルスク地域に対して大規模な越境攻撃を仕掛けた。この攻撃はクレムリンを驚かせ、キーウの同盟国にも驚きを与え、多くの軍事戦略専門家の予想を大きく覆した可能性がある。

ボイス・オブ・アメリカ(VOA)の報道によると、ウクライナ軍は13日、無人機を使用してロシアのクルスク地域などへの攻撃を続けた。ウクライナ政府は、ウクライナ軍はロシアの領土約1千平方キロメートルを占領していると発表した。これらの軍事行動はロシア軍の後方支援を混乱させることを目的としており、ウクライナ側は、長期的な占領を意図していないと説明している。

一方、ロシア軍は13日にミサイル、無人機、空爆を用いてロシア本土に進攻したウクライナ軍に対して反撃を行った。ロシア軍の高級指揮官は、これによりウクライナ軍の進軍が停止したと述べている。

武器使用制限解除 ウクライナが進攻可能に

多くの人々が、なぜウクライナがロシアの侵攻から2年以上経ってからロシア本土に対する大規模な攻撃を行ったのかを疑問に思っている。

これについて、台湾淡江大学外交学部の鄭欽模準教授は、今年5月に米国がロシア領土内での米軍武器使用に対するウクライナへの禁止措置を解除したことが鍵であるとし「米国は直ちにウクライナが規制に違反していないと強調した」と述べた

EU諸国やドイツも同様に、「戦争法」に基づいて、ウクライナは侵略国の本土に対して反撃する権利があると強調している。国際社会もウクライナへの支持がほとんどだ。

さらに、米国のF-16戦闘機やHIMARS(高機動ロケット砲システム)、ATACMS(地上発射弾道ミサイル)がウクライナに提供され、空中支援が行われている。ドイツから提供されたレオパルト2戦車なども加わっている。ロシアが自国領内に地雷を設置していないこともあり、ウクライナ軍はクルスクに進入後、迅速に進軍することができた。

鄭欽模氏は、この奇襲はウクライナが長期間にわたり計画していたものだと考えている。最近の海外メディアの報道から、ウクライナ軍が占領地に塹壕を掘り、防御工事を建設していることがそれを示唆している。空軍部隊もすでに駐留しており、これにより対立がまた長期化することが予想される。
 

新たな戦場で膠着状態 大規模な反撃に移行か

鄭氏は、ウクライナ東部戦線では双方が堅固な防御工事を展開しており、長期間にわたり膠着状態が続いていたと指摘している。今年1月から現在までの統計によれば、ロシアは毎日100以上の戦闘を繰り広げ、約900平方キロメートルのウクライナ領土を新たに占領したとされる。しかし、今回のウクライナの奇襲では、わずか5日足らずで1千平方キロメートル以上のロシア領土を占領した。

この奇襲が戦局に決定的な変化をもたらしたわけではないが、鄭欽模氏はプーチン大統領に対する大きな脅威となり、非常に侮辱的な意味を持つと考えている。

ロシアは独裁政権であり、「強者」のみを信奉するロシア文化の下で、ウクライナ軍が第二次世界大戦後初めてロシア領土に侵攻したことは、プーチン大統領の威信に大きな打撃を与えるものであると指摘した。

鄭氏によれば、ウクライナが柔軟な奇襲戦術を駆使し、さらに米国とNATOが戦略資源を提供し続ける中で、ゼレンスキー大統領が12日に召集した最高司令部会議で述べたように、年内に戦場の状況が大きく変わる可能性がある。その後、軍事交渉や外交交渉が始まるかもしれない。

ウォール・ストリート・ジャーナルによると、ウクライナがロシアのクルスク州に進攻し、領土を迅速に占領したことは、プーチン氏の威信を大いに傷つけ、ウクライナ軍の士気を高めたとされている。しかし、ウクライナの高官は、戦果を拡大するために、さらなる兵力と軍事装備を投入する価値があるかどうかという難題に直面している。

鄭欽模氏は、最新の海外メディアの報道に基づいて、ウクライナがクリミアとヘルソンの境界にあるキンバーン砂州で反攻を開始していることを明らかにした。これにより、ウクライナ東部での大反攻がクリミア奪還から始まる可能性があると指摘している。

ウクライナ、無視できない軍事力に

鄭氏は、ウクライナが現在ヨーロッパで無視できない軍事力となっていると述べている。西側諸国からの武器供給に加え、ロシアが2014年からクリミアを占領し、ウクライナ東部のドンバス地域で独立を目指す勢力を支援し続けており、これに対してウクライナ政府軍は長期にわたる戦闘を強いられてきた。10年以上にわたり戦火が絶えず、特に2022年のロシアの侵攻以降の900日以上の戦闘により、ロシアは知らず知らずのうちにウクライナを、自らに匹敵する強力な軍事勢力に鍛え上げてしまったといえる。これにより、ロシアにとって将来的に大きな国境の脅威が生まれた。

一部の評論家は、現在のウクライナ軍はモスクワからわずか450キロの距離にあり、昨年6月にプリゴジン氏が試みたように、モスクワを目指して進軍する可能性があると予測している。

しかし、鄭氏は、ウクライナにはその力が不足しており、西側諸国も第三次世界大戦を引き起こす恐れがあるため、これを許さないだろうと考えている。ウクライナの主な目的は、ウクライナ東部の軍事的圧力を軽減し、現在占領している地域でロシアのエネルギー施設を破壊し、さらにロシア経済を圧迫することにあると彼は述べている。

7月に開催されたNATOサミットでは、加盟32か国が全会一致でウクライナのNATO加盟を承認した。この宣言では、中国がロシアのウクライナ攻撃を助長していることも直接名指しされている。鄭欽模氏は、中国がロシアを支援する非常に重要な勢力であり、ロシアが中国に対してさらなる援助の要請をしているとの報道もあるため、国際社会は今後の中国の対応に注目していると述べている。

鄭氏は、現在、プーチン大統領を支援できる唯一の人物は習近平だと語った。習近平がプーチン政権の崩壊を見過ごすのか、それとも西側諸国と対立するのかは注目されている。

もし支援するならば、すでに厳しい中国経済がさらに悪化する可能性がある。このため、習近平もまた大きなプレッシャーに直面していると鄭氏は述べている。総じて、ロシアとウクライナの戦争は現在、大きな転換点にあり、世界の地政学的な構図に大きな影響を与えることは必至である。

 

斐珍
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