日本の大手企業による「脱チャイナ」が加速している。中国現地法人への設備投資額は7四半期連続で縮小し、ヨーロッパへの投資額を下回っている。中国共産党が中国国内の内需が振るわず、積極的に外資を誘致したい一方で、日本企業の中国撤退・縮小が相次いでいる状況だ。
今年6月に日産が常州の工場を閉鎖。7月にはホンダが広東省の工場を閉鎖し、湖北省の工場での生産を一時停止する計画を発表した。また、日本のDIC(旧 大日本インキ化学工業)は年内に中国の液晶材料事業から撤退する予定で、「味の素」は冷凍食品工場3社を再編・売却する計画だ。
「資生堂」も高級スキンケアブランド「BAUM(バウム)」の中国での販売を停止、ハンバーガー店「モスバーガー」を展開するモスフードサービスも中国市場から撤退した。
経済産業省の統計によると、4〜6月までの日本企業の中国現地法人の売上高は、7四半期連続で前年同期を下回った。
先月、在中国日系企業などで構成する「中国日本商会」の調査によると、調査に回答した中国の日系企業の60%が、今年の中国の経済状況は昨年よりも「悪化する」と考えているという。
今年7月には、中国日本商会は中国にある日本企業8千社を対象にアンケート調査を実施し、1760件の回答を得た。調査結果によると、60%が今年の中国の経済状況は昨年と比べて「悪化」または「やや悪化」していると回答。5月の調査の50%から大幅に増加した。日本経済新聞の記事によると、2024年4月から6月の間に、日系企業の中国および香港における設備投資は前年比で16%減少した。
中国には約3万1300社の日本企業がある。報道によれば、日本企業は2023年にアジアへの投資額が17兆3千億円に達する見込みだ。過去10年間で新たな高値を記録した国々には、シンガポール、ベトナム、インド、フィリピン、そして台湾が含まれている。しかし、対中投資については、多数の日本企業がより一段と慎重になっており、2019年と比べて、投資額は20%減少している。
産経新聞の前台北支局長・矢板明夫氏は、日系企業の中国撤退の理由を3つ挙げ、「リスクの高さ、現地の態度の悪さ及び収益率」だと指摘している。
矢板氏は、「今年6月に蘇州で起きた日本人学校スクールバスへの襲撃事件と9月に深センの日本人学校に通う男児が反日暴徒に襲われた事件、また昨年、北京では日本の製薬会社の幹部がスパイ容疑で逮捕されたが、中国側はスパイ事件の詳細を未だに日本側に伝えておらず、これらが日本企業の中国における日本人の安全に対する懸念を深めている」と述べている。
8月、中国で日本企業の幹部が中国共産党によってスパイ罪で起訴される事件が発生した。学者たちは、多くの人々が中国の将来に対して非常に悲観的であることを認識しており、『反スパイ法』が人々にさらなる不安を引き起こしているため、中国市場からの撤退の傾向は今後も続くと考えている。
反スパイ法に加え、広東省深セン市で発生した日本人男児刺殺事件や、江蘇省蘇州市でも6月に日本人の母子が切り付けられる事件が発生したことで、日本企業の中国における事業に委縮効果をもたらしている。
日本企業撤退の3大理由
台湾国立政治大学国際事務学院の教授、李世暉氏は、大紀元に対して、日本企業が中国から撤退する主因が3つあると考えていると述べている。
まず第一に、中共の政策は不透明であり、不確実性が高いため、日本の企業は政治的な影響を受けやすく、これが経営上の困難を引き起こす。
第二に、日本は「経済安全保障」を強力に推進していること。供給チェーンが中共の支配下にあることは、日本の経済や国家の安全にとって非常に不利になっている。
第三に、過去2年間で円が大きく下落したこと。この影響で、日本国内のコスト競争力が向上し、多くの日本企業が中国での生産コストと日本での生産コストを比較し始めている。
日本企業が中国から撤退する傾向について、台湾大学経済学部の樊家忠教授は大紀元に対し、「これは国際市場全体が中国市場の将来に対して非常に悲観的であることを示している」と述べた。
「中国国家外貨管理局のデータによると、中国の対外直接投資は増加している一方で、外国から中国への投資資金はますます減少している。今年の第2四半期には148億ドルの損失が発生し、これは当初計画されていた投資がキャンセルされた可能性があるため、修正されたと考えられている」
「外国からの資金撤退がますます深刻な状況になっており、その勢いは衰える気配もない。そのため今後数四半期、少なくとも来年の見通しにおいて、状況は非常に楽観的ではないことが明らかとなった」
樊家忠氏は、日本の状況が特別ではなく、もともと中国に多く投資していた国々が撤退していること、さらに中国自身の企業も撤退していることを強調した。
その原因として、今年のアメリカの大統領選挙は非常に不確実性が高いことがあげられる。多くの企業、特に中国の企業はトランプ氏が当選する可能性に備えているためだ。このため、今後中国の外資企業が国外に撤退する状況はより一層深刻化すると予想される。これは、トランプ政権で予想される対中関税の問題を回避したいという理由からだ。
なぜ拘束されたか伝えられない「反スパイ法」 ビジネスマンにリスク
昨年7月、中国共産党は「反スパイ法」を改訂し、国家安全部およびその地方部門に前例のない執行権を与えた。このため、外国人従業員が中国で直面する身体拘束のリスクがより一段と際立っている。
日経アジアの報道によると、2014年に中共が新たに反スパイ法を施行して以来、少なくとも17人の日本国民が中共によって拘束されている。北京にいる日本人のある従業員は率直にこう述べた。「もしあなたがスパイの罪で拘留された場合、解放されるのは非常に困難だ」
そのうえ、具体的な拘束理由は明かされない。
昨年3月、アステラス製薬会社で働いていた日本人男性(50代)が北京で中共により「スパイ罪」で逮捕された。この男性は中国で20年以上の職務経験を持ち、中国日本商会の副会長を務めたこともある。
中共外交部は、今年8月にこの日本人従業員をスパイ罪の疑いで起訴した。この行動は日本のビジネス界に委縮効果を引き起こし、中国にいる日本企業の関係者の身の安全に対する懸念を一層強めた。
陳文甲氏は、日本企業が中国で反スパイ法による高いリスクに直面していると考えている。また経営の不確実性が高まることで、運営やビジネスの機密保護に影響が出ており、その結果、日本企業は中国市場に対する懸念を一層強めている。そのため、多くの企業は資本を売却したり、事業規模を縮小したりすることで、いつでも調査や拘束されることからのリスクを軽減できるようにしている。
経産省が補助金提供で、日本企業の中国撤退を支援
2020年7月、経済産業省は、中国に拠点を置く日本の製造業に対して700億円の補助金を提供することを発表。87社の企業が中国から生産ラインを移転し、東南アジア諸国や日本国内に戻ることを支援する。日本の中国への依存を減らし、柔軟なサプライチェーンを構築することを目指している。
年内までに約150社から200社が一部または全ての生産活動を日本に戻すことを決定しており、この数字は今後も増加する見込みだ。
これに対して、台湾・国策研究院の上級顧問・陳文甲氏は記者に対し、帰国する企業は主に半導体、電子部品、医療機器などの高技術と高付加価値の製造業に集中していると述べた。これらの産業が日本に戻ることは、日本の技術競争力を向上させるだけでなく、日本政府の「経済安全保障」政策の方針にも合致している。
また陳文甲氏は「この傾向は、日本が世界のサプライチェーンの再編成において重要な役割を果たしていることを示しており、企業が中国の経済環境に対する懸念を強めていることを反映している」との見方を示した。
樊家忠氏は、中国経済のリスクが年々増加しているため、日本政府は国民に対してリスク回避のための対策を講じるよう促すべきだと考えている。
海外大手企業の撤退も相次ぐ
アップルは中国からの生産拠点の移転を加速させている。ブルームバーグの4月の報道によれば、2023年にインドで組み立てられたiPhoneの生産価値は、約140億ドルに達する見込みで、アップルが生産拠点を多角化しようとしており、同時に中国市場からの撤退を加速させていることを示唆している。
現在、アップル製品の約14%がインドで生産され、全体の約7分の1に相当する。この変化は、地政学的な緊張が高まる中で、アップルが中国に依存したサプライチェーンを縮小する必要に迫られたことによるものである。
昨年11月、米資産運用大手のバンガード・グループが、中国市場からの撤退と中国事務所の閉鎖を発表。中国で企業向けコンサルティング事業などを行っていた米調査会社ギャラップも昨年11月、中国事業から撤退。中国経済の減速や中共当局による情報統制が原因だ。
昨年11月、米国の投資銀行JPモルガン・チェースの最高経営責任者(CEO)、ジェイミー・ダイモン氏は、米政府が中国からの撤退を命じる場合、その指示に従うと述べた。
JPモルガン・チェースは、約1世紀にわたり中国で業務を運営し、様々な投資、企業銀行業務、支払い処理、資産管理サービスを展開している。中共が「ゼロコロナ」政策の制限を解除した後、ダイモン氏は4年ぶりに中国を訪問し、JPモルガン・チェースは、中国で世界的な投資家会議を開催した。
ダイモン氏は、「現地で、米国の銀行を設立し、中国を含む各国の多国籍企業の成長を支援することは良いことだが、何らかの理由で米政府が『これ以上続けてはならない』と言えば、私たちはそれに従う」と述べた。彼はまた、米国がメキシコやカナダと良好な関係を維持している一方で、北京は「周辺国家をすべて怒らせている」と指摘した。
今年4月、在日ドイツ商工会議所は在日ドイツ企業景況調査「日本におけるドイツビジネス2024」の結果を発表し、ドイツ企業が生産・管理を中国から日本へ移転する動きを加速していることが分かった。
在日ドイツ商工会議所 (AHK Japan)とイギリスの保証有限責任会社KPMGドイツが共同で行った調査は472社を対象に実施し、164社(35%)から有効回答を得た。回答したドイツ企業の38%が生産拠点を、23%が経営機能を中国から日本に移転している。アジア統括本部を日本に置いている企業は26%で、シンガポール(28%)、中国(26%)とトップ3に入った。日本を拠点とする主な理由は、販売の潜在力 (81%)、トレンド調査 (62%)、競合調査 (57%)だった。
“脱チャイナ”のその先、東南アジアが有効的な選択肢に
日経アジアの報道によると、政治的安定性と巨大な市場潜在力により、東南アジア諸国は、特に米中からの外国資本の注目を集めている。東南アジア諸国では、2022年の外国直接投資総額は過去最高の2225億ドル(約32兆5千億円)に達した。
米国サウスカロライナ大学エイケン校ビジネススクールの謝田教授は、「中国が2001年に世界貿易機関(WTO)に加盟した後、国際資本が中国市場に流入し、欧米諸国も中国に市場を開放した。これによって中国は20年にわたる経済成長の恩恵を受けた。現在、このような恩恵は無くなり、労働力価格が上昇し、生態環境、社会環境、投資環境も悪化している」と指摘している。
「さらに、中国共産党(中共)による私企業や外資企業への圧迫と敵視、中共政権の国際的な逆行行為により、国際資本が中国から流出し、東南アジアに入っている」
2017~22年にかけて米中関係が悪化している間に、東南アジアの11か国が誘致した海外直接投資は、40%も上昇した。
台湾民間シンクタンク・台湾経済研究院の邱達生研究員は、米中貿易緊張の継続につれ、脱中国化という動きは続くだろうと分析した。邱研究員は香港のケースを上げ、中国経済は香港の株式市場を通じて外の世界とつながっているが、2018年に香港ハンセン指数が3万ポイントに達した後、明らかに弱気トレンドに入ったと指摘。
邱研究員によると「今回、国際的な投資資金がアジアの株式市場に流入しているにもかかわらず、香港の株式市場だけがその流れから外れている」という。
謝田氏は、「資本の流れはすでにシフトし始めている」「米国が中国に課した関税によって、すでにベトナムで生産を始めることができるのに、あえて生産ラインを中国に戻して高い関税を支払って生産しようとする者はいない」と述べた。
サプライチェーンの対外移転の流れを受け、多くの中国企業も、中国本土を離れて東南アジアに投資するため、調整のペースを速めている。
マレーシアは今年7月、中国自動車大手の浙江吉利集団がマレーシア西部のペラ州に100億米ドル(約1兆4541億円)を投資し、自動車生産基地を建設すると発表した。
中国本土の企業でさえ、東南アジアへ投資する方が中国への投資よりも費用対効果が高く、利益も大きいと感じている。
その理由について、邱達生氏は「外国人投資家と同じ理由だ。彼らは自信を失い、別のサプライチェーンを探しているのだ。中国企業は外国人投資家とともに、より適切な国にサプライチェーンを移転させている」と語った。
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