英国のキア・スターマー首相は、移民制度の抜本的な見直しを進める意向を示し、保守党がブレグジット(英国の欧州連合離脱)後に進めた「国境開放政策」が現在の状況を引き起こしたと厳しく批判した。
11月28日、純移民数が2023年に過去最高の90万6千人に達したことを受け、スターマー氏は記者会見で「前政権の移民政策は失敗だった」と断じた上で、移民数削減に向けた計画を白書として近く公表する考えを示した。
英国国家統計局(ONS)の最新データによると、2023年6月までの1年間の純移民数は当初の推計74万人から16万6千人上積みされ、過去最高の90万6千人に修正された。同期間中、移民制度にかかる費用は前年比3割増の50億ポンド(約9776億9869万円)に達し、記録的な水準となっている。
保守党新党首、「私たちは間違っていた」
保守党のケミ・ベーデノック新党首は、移民問題への取り組みについて「過去数十年にわたる集団的な失敗」を認め、保守党を代表して、新党首である私が責任を受け止めると述べた。
「この問題に対する国民の怒りは十分に理解できる。私も同じだ」。
しかし、労働党のスターマー首相はベーデノック氏の発言を「言い訳の合唱に過ぎない」と一蹴し、同党が移民政策の混乱を招いたと指摘した。
労働党による移民制度改革案
スターマー氏は記者会見で、労働党がポイント制移民制度を改革し、外国人労働者を雇用する企業に国内人材の育成を義務付ける方針を明らかにした。また、ビザ制度の悪用取り締まりを強化する意向を示した。
「前政権は皆さんを失望させたが、現政権はそうしない。前政権は移民数を増やした。我々はそれを減らすつもりだ」と断言した。
イラクとの協定で密輸対策を強化
28日、英国イヴェット・クーパー内務大臣は、イラクとの「画期的な協定」を発表。国境警備や密輸対策の強化を目的に最大30万ポンドの支援を行うほか、新たな国境管理タスクフォースを設立する計画を明らかにした。
しかし、影の内務大臣クリス・フィルプ氏は、純移民数は「依然として非常に高い」と述べ、英国はより厳しい国境管理が必要だと主張した。
純移民数は減少傾向も依然高水準
2024年6月までの1年間で、英国への移民は120万人と推定された。一方で出国者は47万9千人となり、純移民数は前年比20%減少した。これに対し、2023年6月までの1年間に英国に到着した人は130万人、出国した人は41万4千人となっている。歴史的には依然として高水準だ。移民減少の主因は、非EU圏からの学生ビザに付随する扶養家族数の減少によるものとされる。
ONSのディレクターであるメアリー・グレゴリー氏は2021年以来、英国への長期的な国際移民が「前例のないレベル」に達していると述べた。その背景には、ウクライナ紛争やブレグジット後の移民制度が影響しているという。
外国人労働者への過度の依存
内務省は「移民制度の秩序回復を図り、国際採用への依存を減らす」とし、国内労働力の育成を強化すると述べた。また、2025年には電子渡航認証制度を導入し、非欧州圏の訪問者は同年1月8日から、欧州圏の訪問者は4月2日から適用対象となる予定だ。
クーパー氏は「純移民数は前回の議会冒頭時点の4倍に達しており、削減が必要であることは明白だ」と述べた。そのため、ビザ規制を継続するとともに、国内での人材育成やスキル習得の仕組みと連携させる新たな計画を策定し、ここ数年で急増した海外採用の問題に取り組む方針を示した。
英国政府は今週、すべての対象となる非欧州圏の訪問者が電子渡航認証(ETA)を申請できるようになったと発表した。この認証は、2025年1月8日以降に英国を訪れる際に必要となる。一方、対象となる欧州圏の訪問者は、2025年3月から申請を開始でき、同年4月2日以降の渡航に適用される予定である。
今回の一連の改革が移民数削減にどの程度寄与するのか、今後の動向が注目される。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。