グローバル化とグローバリズム

2025/03/02 更新: 2025/03/02

グローバル化とグローバリズムは異なる2つの概念だ。トランプ2.0が展開するグローバル秩序の再編は反グローバル化が目的ではなく、「グローバリズム」という変異したイデオロギーに対するものだ。

第二次トランプ政権がスタートするやいなや、国際秩序に激震が走った。旧いルールは急速に崩壊し、新たな秩序が整然と構築されつつある。戦略的な視点では、トランプ氏のグリーンランドとパナマ運河に対する発言が世界を震撼させ、地政学的な要衝が再編を迎えている。

貿易では、均衡を失った国際貿易を正すため、グローバルサプライチェーンに再編圧力がかかっている。

トランプ氏は気候変動に関する国際的な枠組み「パリ協定」、世界保健機構(WHO)、国連人権理事会(UNHRC)などを脱退し、国連諸機関のグローバルな影響力は弱まっている。米国際開発局(USAID)も一時閉鎖した。国連教育科学文化機関(UNESCO)に対する参画状況をふまえ、脱退する準備も進んでいる。

トランプ政権による一連の動きによって、グローバル化、もしくはグローバリズムが終わりを迎えたと考える者も多い。しかし実際には、グローバル化とグローバリズムは別の概念だ。グローバル化とは、人間の物質的な生活がその構造や制度的枠組みにおいて方向性が一致したものであり、一方のグローバリズムは、グローバル化のプロセスを説明する際の理念や政治的主張といったイデオロギーである。

トランプ氏が進めるグローバル秩序の再編は、価値観が変異したグローバリズムというイデオロギーに対するもので、反グローバル化を目指すわけではない。むしろ、グローバリズムが力を失ってはじめてグローバル化の本当の力が発揮される。

グローバル化  文明の進歩がもたらした生活構造の収斂

グローバル化とは、文明の発達が一定の段階に達した際に、世界が物質的に深く融合した現象である。経済領域からスタートしたグローバル化は、科学の発展にともなってその他の領域へと拡大していった。

グローバル化の端緒は大航海時代まで遡れるとされる。航海技術の進歩によって文明同士を隔離していた大洋を行き来し、経済と科学技術の領域で密な交流・協力が始まった。20世紀後半には、通信、情報、インターネットなどが登場し、世界中が現代の通信・交通網の中に密接に結びつけられ、「地球村」という概念が現実となった。グローバル化は未曾有のレベルに到達している。

グローバル化の核心は「経済」であり、主に自由貿易、多国籍企業、金融市場の融合、およびサプライチェーンのグローバル化に現れている。低関税でモノ・サービス・カネの国際移動を促し、生産資本の最適配置により国際分業が成立し、国際投資と貨幣市場が相互に影響して資本の流動性が向上し、原料調達、生産、消費がグローバルに拡大する。

グローバル化は、科学技術、文化、政治、社会といった領域にも浸透している。ハイテク商品がもたらした生活様式の画一化。文化領域で進む食、好み、娯楽の画一化。人権規約や貿易協定といった国際制度の構築。移民、留学、国際結婚がもたらす人口流動の増加と社会生活の画一化などがあげられる。

グローバル化の進展は、異なる文明の精神的、文化的な交流を促進する。もし、人類が伝統的な信仰と倫理的価値観を維持できるなら、グローバル化は、文明同士の普遍的な価値観が深く融合する助けになり、人類全体の道徳レベルを向上できるだろう。

しかし不幸なことに、現代のグローバリズムは、人類の伝統的な信仰や倫理観とは相反する思想を用いてグローバル化を歪曲している。特に21世紀に入ってから、グローバリズムの支持者は、巨大な利益集団として世界の文化、テクノロジー、経済、政治、社会を左右できる力を持つに至った。

グローバリズム 政治の画一化から文化的マルクス主義へ

グローバル化が文明の物質的な側面が画一化されるプロセスを指すのに対し、グローバリズムとは、人類のグローバル化を定義しようとする多くの思想、観念、政治的主張の集合体だ。

「グローバリズム」という言葉の登場は20世紀初めまで遡れるが、広く使われ始めるのは1940年代のアメリカからだ。世界の覇権国となったアメリカは強大な経済力と軍事力を維持できるよう、世界経済の融合を通じて新たな国際政治経済を構築しようとした。同じ頃にグローバリズムをめぐるイデオロギーも形成されたことから、最初のグローバリズムとは、世界に新たな政治的枠組みをつくり、第二次大戦後の国際秩序を構築しようとするアメリカ政府の理念であった。

ところが、20世紀後半に共産主義や文化的マルクス主義が広まるにつれ、教育機関、メディア、芸能界、非政府組織、政府機関、そして教会までもが文化的マルクス主義の浸透を受けた。21世紀には、アメリカが主導する「グローバリズム」は当初の理念を失い、様々な文化的マルクス主義のイデオロギーに取って代わられた。このような変異したグローバリズム(以下、現代グローバリズム)の流れの中で、アメリカは大きな被害を被った。

文化的マルクス主義とは、共産党が西洋文明を転覆するための「プランB」だ。暴力革命を唱えず、浸透や文化の破壊といった方法で社会主義、共産主義へ誘導し、西側の資本主義国家を破滅に追い込む。

プランBによる転覆計画を掲げた人物の1人に、イタリア共産党の創設者「アントニオ・グラムシ」がいる。グラムシが唱えた最も核心的な理論は、「西洋文明の破壊こそが資本主義制度の破壊につながる」というものだ。1930年代にグラムシは2千ページを超える大綱を起草し、アメリカのユダヤ文化、キリスト教文化をいかに内側から瓦解させるかについて詳細に述べている。この大綱は後にアメリカの共産党によって実行に移された。

1958年、作家のクレーオン・スカウセンが『裸の共産主義者(The Naked Communist)』を出版した。この本には、50年代の共産党がアメリカを破壊するために掲げた45の目標が列挙されている。学校と教育協会をコントロールし、カリキュラムを緩め、教育から社会主義を浸透させる。新聞、メディアに浸透し、マスメディアや映画界を乗っ取る。官能的な書籍、雑誌、映画を通じて道徳水準を低下させる。同性愛、性的倒錯、性の乱れを「普通で、自然で、健全」なものだと唱える。宗教界に入り込み、啓示に基づく宗教を社会的な宗教で置き換え、聖書への信念を喪失させる。「政教分離」を口実に、学校での祈りを禁止する。不貞行為を助長し、離婚を容易にすることで、家庭への信頼を失わせる、等々だ。

さらに、70年代にはアメリカの共産主義勢力が気候変動を議題にイデオロギーの転換を進め、過度な環境規制を通じて企業の発展を阻害した。文化的マルクス主義の旗の下、「グリーンイデオロギー」が形作られた。

2010年代に入り、アメリカの学者は共産党の「プランB」のほとんどが実現されていることに驚いた。文化的マルクス主義に由来する、アメリカを転覆するための観念や変異した思想が今や「主流」の世論となり、「政治的正しさ」すなわちポリティカル・コレクトネス(ポリコレ)のラベルを纏っている。

科学の飛躍的な発展により、21世紀初頭のグローバル化は急速に進んだ。文化的マルクス主義もグローバル化の波に乗り、グローバリズムの旗を掲げて全世界へと広がった。地球温暖化、環境保護、Woke(差別への目覚め)等々がグローバリズムと結びついた。

グローバリズムは様々な名目で道徳的相対主義を提唱する。映画、マスメディア、国際機関などを通じて打ち立てられた「ポリコレ」という画一的なイデオロギーは、婚姻、家庭、倫理、宗教といった各国の伝統の根幹にある価値観を弱らせ、道徳観と倫理観に深刻な打撃を与えた。

現代のグローバリズムは複雑な様相を呈しているが、その根源が文化的マルクス主義であることは揺るがない。それは、人類の伝統的な信仰と価値体系を破壊する。

アメリカの「現代グローバリズム」は国内の伝統的な価値を蝕み、国力を削ぐ。対外的にはアメリカの印象を貶め、国際的な影響力を弱らせた。文化的マルクス主義は伝統価値に取って代わる新しいイデオロギーをつくりだし、ディープステート(闇の政府)を通じて数十年間アメリカ社会を支配した。

トランプ2.0の反撃

トランプ氏が政権復帰後にまずメスを入れたのは、アメリカ社会、政府に蔓延っていた性の多様性とDEI(多様性、公平性、包括性)文化だった。「現代グローバリズム」の蔓延を根元から断ち切るべく、性別の原則を確認し、常識(コモン・センス)へと立ち返る文化復興運動を推し進めている。

トランプ氏は1月20日の就任演説で、「アメリカ政府は今後、男性と女性という二つの性別しか認めない」と話した。軍隊内で推進されていた性の多様性、DEI、Woke主義などについては、「大統領命令を発動し、勇敢な兵士たちが職務期間中に過激な政治理論や社会実験の標的になることを禁止する。そのような政策を直ちに終了させ、軍が敵を打ち砕くことに集中できる環境をつくる」と宣言した。

2月5日、トランプ大統領は、トランスジェンダー女性がスポーツの女子競技に参加することを禁止する行政令にサインした。「今日をもって、女子スポーツに対する攻撃は終わった。これから、女子スポーツは女性にのみ属する」トランプ氏は、女性アスリートを危険に晒す「Woke主義者の荒唐無稽なふるまい」と「過激な性の多様性イデオロギー」を除去しているところだ、と語った。

米国際開発局(USAID)が公金を利用し、世界中で「進歩主義」と「Woke主義」を提唱していることを受け、トランプ大統領は2月7日からUSAIDの職員1万人を休職処分とした。600人ほどのスタッフが残り、400億ドル(約6兆円)の資金は現在凍結されている。

トランプ氏はさらに、アメリカの伝統的な信仰を復興させ、文化的マルクス主義が浸透した社会を抜本的に変えようとしている。2月7日、トランプ氏はホワイトハウスに「信仰局」を設置する大統領令に署名した。「自治体や礼拝所などの組織・団体が、よりいっそう家庭やコミュニティに貢献できるよう支援する」とした。信仰局は国内政策委員会の管轄下に置かれ、政策に合わせて宗教専門家に助言を求めながら「アメリカの価値観との一致」を目指す。

トランプ政権開始から1か月あまりで国際情勢が大きく変化し、グローバル化は方向修正を迫られている。初めに述べたように、グローバル化とグローバリズムは異なる概念だ。現代グローバリズムは、文化的マルクス主義の変異した思想がアメリカで破壊的な浸透に成功したことで生まれた。

「現代グローバリズム」の真の根源は共産主義

文化的マルクス主義は、共産主義者がアメリカを破壊するための「プランB」だ。暴力革命を通じた破壊は「プランA」にあたる。

共産主義そのものが一種のグローバリズムである。ただし、共産主義はグローバリズムという言葉を用いず、「全人類の解放」を唱えた。『共産党宣言』に記されているように、共産党は伝統的な家庭、民族、国境を破壊し、武力をもって世界に革命を輸出する。最終的な目標は世界の覇権だ。

共産主義者こそが、もっとも初期のグローバリズムかもしれない。『共産党宣言』における「無産者に祖国はない」「万国の労働者よ、団結せよ!」といったマルクスの叫びは、革命を通じて世界を共産主義で包み込もうとする一種のグローバリズム運動だ。グローバリズムの含意から考えるに、共産主義こそがその源流だと言える。

暴力革命を提唱する共産主義は、ソ連の崩壊とともに消え去ることなく、中国共産党によって引き継がれた。中共政権が掲げる「人類運命共同体」もその本質は「全人類の解放」であり、表面的な言葉の違いにすぎない。

グローバル化の波に乗った中国は急成長し、世界第二位の経済、軍事、技術大国となった。アメリカのグローバル主義者が文化的マルクス主義を世界に押し広める一方で、中国共産党は「講好中国故事」(しっかりと中国の話をしよう)の看板を掲げ、暴力革命の輸出を進めてきた。

トランプ政権が国内のグローバリズム勢力を除去すると同時に、外からやってくるもう一派のグローバリズムにいかに抵抗できるか。未来のアメリカの存亡がかかっている。

結語

「伝統への回帰」「アメリカ・ファースト」を核心とする第二次トランプ政権。その改革は文化、政治、経済、科学、社会などの各領域の深いレベルにまで及ぶ。本稿では、グローバル化とグローバリズムという特殊な視点から、トランプ政権の政策傾向を分析する上での重要な手がかりを整理した。

筆者の見解では、「現代グローバリズム」と共産主義の究極的な目標は一つ──「アメリカの消滅」だ。共産主義と文化的マルクス主義がグローバル化の過程で合流し、さまざまな分野で呼応しながらグローバル化を変異させ、その発展の方向性を捻じ曲げた。

グローバル化そのものは物質文明の発展がもたらした必然の結果だ。グローバリズムのイデオロギーは、文明の成果をいかに利用するかを決定づける。

トランプ大統領は、政府のレベルから「伝統的な価値観に立ち返る」文化復興の波をつくりだし、世界中の信心深い団体や個人に支えられ、文化的マルクス主義が生み出した「現代グローバリズム」の逆流に終止符を打とうとしている。信仰と伝統的価値観に支えられたグローバル化の発展は、トランプ政権が中国共産党という脅威に対抗する上でも大きな力となるだろう。

惠虎宇
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