水素の未来を中国共産党に独占させてはならない

2025/06/19 更新: 2025/06/20

水素の覇権争いが進む中、アメリカは後れを取りつつある。

中国共産党政権は、水素を中心とする次世代エネルギーの分野で主導権を握るべく、サプライチェーンの掌握に向けた大規模かつ組織的な取り組みを進めている。国際エネルギー機関(IEA)によれば、中国共産党(中共)は2024年だけで約6800億ドルをクリーンエネルギー分野に投資しており、その規模は米国と欧州連合(EU)の合計額にほぼ匹敵する。

2020年当時、中共の水素関連製造能力は世界全体の10%にも満たなかったが、現在では60%以上を占めるまでに急成長を遂げている。中共当局は今年3月、水素および持続可能な燃料インフラの「着実な開発」を各省に正式に指示し、太陽光発電と同様に水素市場でも主導権を握るべく、明確かつ協調的な戦略を打ち出した。2025年に入ってからのわずか4か月間で、中共当局が受注した水素電解槽の数は、2024年通年の総受注数をすでに上回っている。

アメリカが水素分野で主導権を握るには、独自の戦略を堅持することが不可欠であり、その第一歩となるのが内国歳入法45V条で、クリーン水素製造に対する税額控除の維持である。この制度は、すでに発表されている数十億ドル規模の投資を国内にとどめるだけでなく、さらなる新規投資を呼び込む原動力となる。

CRESフォーラムの最新調査によると、現在開発中のブルー水素プロジェクトが稼働すれば、2025年から2035年にかけて全米で年間約6万2200人の雇用を支え、年間120億ドル以上のGDP寄与が見込まれる。

これは単なるエネルギー政策ではなく、明確な産業戦略だ。

水素は非常に汎用性の高いエネルギー資源であり、アメリカ経済の多様な分野で燃料や原材料として活用されている。長期保存が可能で、必要な時に必要な場所へエネルギーを供給できるという特性も持ち合わせている。この分野への投資が撤回されれば、資金・技術・雇用が他国へ流出する恐れがある。

そのため、EUから日本、韓国に至るまで世界的な需要の拡大が不可欠であり、これがアメリカの水素輸出に新たな市場機会をもたらしている。水素は従来のエネルギー産業を超えた成長を促し、エネルギー経済の多様化を実現する可能性を秘めている。

賢明な政策の下で、アメリカは天然ガスなど豊富な天然資源を活用し、国内製造の拡大と輸出の増加を図ることで、世界のエネルギー分野におけるリーダーシップを確立できる。

水素は国内のサプライチェーン強化にも大きな可能性を秘めている。パイプラインや船舶による輸送が可能で、多様な形態での貯蔵も実現できる。また、エンジンやタービン、燃料電池を通じて効率的にエネルギーに変換することも可能だ。このように、水素は化学、鉄鋼、食品、医薬品、重量物輸送など多岐にわたる産業の経済成長を支え、アメリカ国内の製造業やインフラ整備、雇用創出を後押しする。結果として、国内の水素産業を飛躍的に発展させる起爆剤として期待されている。

内国歳入法45V条が効果的に実施されれば、よりクリーンで安全かつ国際競争力のある水素経済を構築できる。我々には依然として、そのリードを維持するための資源、創意工夫、政策手段が備わっている。しかし、それは「今」行動する場合に限られる。すなわち、内国歳入法45V条を適切に設計・導入し、普及を促進するインセンティブを速やかに機能させることが不可欠なのだ。

今こそ、その瞬間だ。躊躇すれば、単に後れを取るだけでなく、21世紀における最も重要なエネルギー市場のひとつから締め出され、エネルギーが「力」を意味する時代において、海外のサプライチェーンに依存せざるを得なくなる。今日の決断が、アメリカが世界の水素経済をリードするか、追随するかを決定づける。

市民団体「責任あるエネルギー・ソリューションズ(CRES)」の代表
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