アメリカ大統領選とロシア疑惑 新たな政府文書が明かすハッキング事件の裏側

2025/07/20 更新: 2025/07/20

2016年大統領選の最中、FBI(連邦捜査局)とNSA(国家安全保障局)は、ロシアが民主党全国委員会(DNC)のサーバーに対するハッキングおよび盗まれた電子メールの公開に関与したとする情報機関全体の評価に異議を唱えていた。

この内容は、2016年9月12日にアメリカの主な情報機関(インテリジェンス・コミュニティ、IC)が共同で作成した評価報告書に書かれている。この報告書は長い間公開されていなかったが、2025年7月18日に国家情報長官室によって機密指定が解除され、初めて一般に公開された。この評価報告書によれば、FBIとNSAはDNCへのハッキングがロシアによるものだとする見方について、「低い確信」しか持っていなかった、とされている。

「しかし、FBIとNSAは、これらのデータ流出がロシアによるものだと判断することに対しては低い確信しか持っていない」と、その評価報告書には記されている。「両機関は、これらの情報公開がロシアの影響工作によく見られるパターンと一致しているように見えることには同意しているが、インターネット上に投稿された情報をロシア政府が支援する実行者(組織または工作員)と結び付けるための十分な技術的詳細が不足していることを指摘している。」

新たに公開された文書によれば、2016年9月14日付のオバマ大統領向けのメモでは、ハッキングとリークについてロシアに責任があるとされているが、FBIとNSAの異議には言及されていない。

この事実の発覚は、長年続く論争の最新の展開であり、今や否認されているロシア疑惑(トランプ第1期政権成立当初に巻き込まれ、ロバート・ミューラー特別検察官による捜査へと発展した)の根本にある問題だ。ミューラー特別検察官は、ロシアが当時の候補者ドナルド・トランプ氏と共謀して選挙に介入した証拠はないと結論付けた。

DNCへのハッキングはこの共謀疑惑の中心的な事件であった。FBIがこの侵害の背後にロシアがいることに低い確信しか持たなかったことは重要だ。というのも、FBIは評価への異議提出の3週間前に、DNCが雇った民間サイバーセキュリティ企業Crowdstrikeによるハッキング最終報告を受け取っていたからだ。Crowdstrikeの報告は公開されていない。同社の当時の社長ショーン・ヘンリー氏は、2017年末の下院情報委員会で、自社にはDNCのシステムからファイルが盗まれた証拠はないと証言している。

評価書への異議提出から1か月も経たない2016年10月7日、米国はロシアがDNCをハッキングし、ファイルを流出させたことにより「米国の選挙に影響を及ぼすこと」を狙ったと非難した。オバマ氏はこの声明の公表を承認し、国家情報長官室と国土安全保障省の共同リリースという形で発表された。

10月7日は2016年大統領選の中でも特筆すべき日である。この日、アメリカの娯楽情報番組「アクセス・ハリウッド」の収録中に録音されていたトランプ氏の過去の女性蔑視発言を含む音声テープが、主要メディアによって報道された日であり、同時に、当時ヒラリー・クリントン陣営の選挙対策本部長だったジョン・ポデスタ(オバマ政権では大統領補佐官も務めていた)の電子メールが初めて公開された日でもあった。

また同じ日、FBIはまだDNCサーバーのデータを入手しておらず、法科学的な調査を進めようとしている段階だった。そのため、ロシアを非難する公式声明が出される前に、FBIが「低い確信」としていた評価を変更したのかどうかは分かっていない。

新たに公開された文書によれば、2016年12月7日の時点で(ロシアをDNCハッカーと非難して2か月後)、米国ICは依然としてCrowdstrikeの分析に頼っていた。

「DNCおよび民主党選挙対策委員会(DCCC)ネットワークへの侵入の責任がロシアにあるとの米国ICの高い確信は、民間サイバー企業による法科学的証拠およびロシア政府のサイバー活動に関する米国情報機関の知見・理解に基づく」と、委員会会議準備のために作成されたメモにはある。

同メモ作成時点で、DNCの電子メール漏洩の犯人についてIC内で合意ができていなかった。メモには「多くの情報機関が、ロシア関連の組織がアメリカの政治に関する内部情報の一部リークを仕組んだ可能性が高いと、中程度の確信で判断している」と記されている。

その翌日の2016年12月8日、FBIは再び評価への異議を表明した。

「本日午後、FBIは異議書を作成する予定。われわれの署名と共同執筆者としての記載を削除してほしい」と、FBIから大統領向け日次機密報告書(Presidential Daily Brief,PDB)を準備する担当グループ宛てのメールに記されている。オバマ氏は12月9日のPDBをリリースできるよう準備を指示していた。

FBIが評価書からの離脱意向を示して1時間後、国家情報長官室の職員から110名以上の情報機関関係者宛に、PDBの発行延期が通知された。

「新たな指示を受けたため、PDBの公開を延期します。明日は出ませんし、来週まで公開されない可能性が高い」と、国家情報長官室PDB責任者からのメールには記載されている。

PDBの公開は延期されたが、12月9日には予定通りホワイトハウスのシチュエーションルーム(危機管理室)で主要閣僚会議が開かれた。ここには、国家安全保障問題担当大統領補佐官スーザン・ライス氏、国務長官ジョン・ケリー氏、司法長官ロレッタ・リンチ氏、国土安全保障長官ジェイ・ジョンソン氏、CIA長官ジョン・ブレナン氏ら主要閣僚が出席した。

注目すべきは、FBI長官ジェームズ・コミー氏とNSA長官マイケル・ロジャース氏という異議提出機関のトップが出席しなかったことである。代わりに、FBIのアンドリュー・マッケイブ副長官、NSAのリチャード・レッジット副長官が出席していたと、2016年12月9日付の会議結論要旨に記されている。

会議のメモの結論部には、ロシアに対する制裁的措置の推奨リストが記され、最終項目では「侵入およびフィッシング攻撃に関する技術的な情報などを公開し、これらがロシア情報機関によるものであると発表する」ことで合意したと記されている。

この指示は12月19日までに実行されることとなり、FBIとDHSによる合同分析レポートが2016年12月29日に公開された。レポートにはサイバー侵入のマッピング、コード断片、攻撃に使われたIPアドレスが含まれていた。サイバーセキュリティ企業のWordfenceはこのコード断片を分析し、ウクライナ拠点のマルウェア業者にまで遡れることを特定した。

「DHSが提供したIPアドレスは、ロシアのような国家の工作員による攻撃に使われた可能性がある。しかし、ロシアとの関連を示すものではない。特に、IPアドレスの15%は『Tor(トーア)』という匿名通信ネットワークの出口サーバーに割り当てられている。このサーバーは様々な人が使えるため、悪意のある人物やハッカーもよく利用していると考えられる」と、WordfenceのCEOマーク・モンダーはDHSデータの分析記事で記している。

「マルウェアのサンプルは古く、広く使われており、ウクライナ製に見える。ロシア情報機関との関連は見られず、どんなウェブサイトにも侵害の兆候として現れるものだ」

会議以降の数日・数週間で、関係者は2016年選挙へのロシア介入に関する米国IC評価書を準備した。オバマ氏はこの評価を2017年1月9日までに読むよう指示し、後に締め切りを1月3日に繰り上げた。

その計画では、1月3~4日にオバマ氏およびトランプ次期大統領にブリーフィングを行い、1月4日から6日にかけては、アメリカ議会の与野党の主要指導者8人(通称「ギャング・オブ・エイト」)と、上下両院の情報問題を扱う委員会のメンバーに対して説明(ブリーフィング)が行われ、1月6日(議会によるトランプ当選認証日)に評価の一部を一般公開することになっていた。

その成果の一つである2017年1月5日付のIC評価書では、「FBIはロシア大統領ウラジーミル・プーチンが選挙介入を命じ、ロシア情報機関がDNCをハッキングし盗まれたメールを流出させたとの高い確信を持つ」とされている。FBIがどのようにして「低い確信」から判断を変えたかは明確でない。

その後、FBIによるトランプ調査は下院情報委員会、上院情報委員会、監察官室、特別検察官ジョン・ダーラムにより厳しく精査された。

これまでの調査公開報告でDNCメール窃盗・流出の背後にロシアがいたとのさらなる証拠は一切示されていない。代わりに、下院情報委員会、監察官マイケル・ホロウィッツ、およびダーラム特別検察官の調査では、FBI捜査の中核となる証拠が、事実に基づいていないことが後に明らかになった元英国情報将校クリストファー・スティールの報告書に依拠していたことが分かった。

スティールはFusion GPSに雇われ、Fusion GPSは更にパーキンス・コーイ法律事務所を通じてクリントン陣営から依頼を受けていた。この事務所こそがCrowdstrikeをDNCに推薦した事で知られている。

FBIは最終的にスティール報告のいかなる内容も裏付けられなかったが、この報告書は、FBIがトランプ陣営の外交政策アドバイザーだったカーター・ペイジという人物を監視するため、裁判所から監視許可(令状)を得る際の重要な根拠として使われた。のちの監察官の調査で、この監視令状の申請手続きには、担当職員やその上司が重大なミスや不適切な対応をしていたことが明らかになった。

エポックタイムズの編集者。2011年以来、エポックタイムズでさまざまなトピックについて担当。