アメリカ農地に対する中国企業の所有について 知っておくべきこと

2025/08/18 更新: 2025/08/18

ホワイトハウス上級通商顧問ピーター・ナバロ氏は先月の記者会見で、孫子の「兵法」を引用し、「戦いの極意は一発も撃たずして勝利することだ」と述べた。同席した農務長官ブルック・ロリンズ氏は、アメリカ農業を国家安全保障の重要な要素と位置付ける「国家農業安全保障行動計画」を発表した。ロリンズ氏は「農業とは家族を養うことだけでなく、我が国を守り、農地を買い進める外国の敵対勢力に立ち向かうことだ」と語った。

両氏が言及したのは、中国投資家によるアメリカの広大な土地(しばしば軍事基地近隣)の購入に関してである。これらの土地取得は州および連邦の両レベルでますます反発を呼んでいる。

米農務省(USDA)の報告書によれば、2023年12月31日時点で中国系企業はアメリカの農地277,336エーカーを保有している。農地には森林地や耕作地の両方が含まれるが、USDAは農地に分類されない外国所有地については記録していない。1978年制定の「外国農業投資開示法」により、アメリカ農地を持つ外国人所有者は、所有者の氏名や国籍、その土地の用途を報告しなければならない。

中国によるアメリカ農地の主な集中地域は、テキサス州(123,708エーカー)、ノースカロライナ州(44,263エーカー)、ミズーリ州(42,905エーカー)、ユタ州(33,035エーカー)、フロリダ州(12,798エーカー)の5州で、これらが中国系所有農地の93%を占めている。

さらにUSDAのデータによれば、現在30の米軍基地から100~150マイル以内に中国所有の農地がある。14区画は軍事基地と同じ郡に位置する。中国によるアメリカ農地所有は、少数の企業に集中している。

中でもマーフィー・ブラウン(Murphy-Brown)は、ミズーリ支社の43,091エーカーを含む合計132,310エーカーを所有し、最大となっている。同社はアメリカ大手養豚会社であり、スミスフィールド・フーズ(Smithfield Foods)の子会社だが、そのスミスフィールドは中国国有のWHグループの傘下にある。2番目の所有者はブラゾス・ハイランド・プロパティーズ(Brazos Highland Properties)の86,994エーカーである。トップ5社(Harvest Texas:29,705エーカー、U.S. AgriChemicals Corp.:11,263エーカー、Syngenta Seeds:2,452エーカー)で、中国系所有土地の95%を占めている。

 

中国によるアメリカ農地所有は過去30年で3度急増している。1989年、中国国有化学企業シノケム(Sinochem)がU.S. Agri-Chemicals Corp.買収によりフロリダ州に11,263エーカーを取得。2013年にはWHグループがスミスフィールド買収を通じ130,000エーカー超を獲得(主にノースカロライナ、ミズーリ、ユタ州)、その後の追加購入を経て合計132,442エーカーに拡大した。

WHグループはスミスフィールド傘下のMurphy-Brownを通じ、アメリカにおける中国所有地の48%を保有している。ノースカロライナ州では100郡のうち24郡に約45,000エーカーを所有。スミスフィールドの土地2区画はフォートブラッグ陸軍基地とチェリーポイント海兵隊基地と同じ郡にある。ノースカロライナ州レイフォード市でスミスフィールドはフォートブラッグから25マイル以内に農場を所有し、隣接するブラーデン郡には同基地から30マイル圏内に食肉加工工場も有する。チェリーポイント空軍基地のあるクレイヴン郡にも81.5エーカーの農地を持つ。

2017年にはケムチャイナ(中国化工集団)がシンジェンタ・シーズ(Syngenta Seeds)を買収し、2,453エーカーのアメリカ農地を取得。規模は小さいものの、インディアナ州フォートウェイン空軍州兵基地やカンザス州フォート・ライリー陸軍基地のある郡に保有地が存在することが注目された。

2017年から2019年にかけて、元中国軍人の孫広信(Sun Guangxin)は、ブラゾス・ハイランド・プロパティーズおよびハーベスト・テキサスを通じてテキサス州ヴァルベルデ郡に116,699エーカーを取得した。孫広信の土地所有は、中国系のアメリカ農地の42%を占める。ヴァルベルデ郡は米墨国境に位置し、ラフリン空軍基地がある。

米インディアナ州フォートウェインの第122戦闘航空団で、アメリカ空軍のF-16ファイティングファルコンが2025年6月7日に誘導路を走行する。中国による広大な米国農地の購入(しばしば軍事基地近隣)は、州および連邦レベルでますます強い反発を招いている。Senior Airman Halley Clark/U.S. Air National Guard

世界最大の豚肉生産企業

WHグループは2013年9月、スミスフィールド・フーズを総額71億ドル(47億ドル+債務)で買収した。中国国有の中国銀行が、この買収のためWHグループに40億ドルの融資を提供した。WHグループ会長の万洪(Wan Long)は、中国共産党(中共)と密接な関係を持ち、1998年~2013年に中国全国人民代表大会でも役職に就いていた。

WHグループは国有企業であることを公式に明らかにしている。2024年の年次報告書では「万会長の指揮の下、当社の事業は河南省の地方国有企業から多大陸にまたがる国際企業へと成長した」とある。また中国市場の子会社である双匯発展(Shuanghui Development)の企業プロフィールには、万会長が国務院から模範労働者に選ばれ、特別手当を享受し、「改革開放40周年企業家百人」に選出されたと記されている。

ナバロ氏は7月の記者会見で、スミスフィールド買収に関して「これには本当に困惑した。彼らは今や世界の豚肉供給の約8分の1を実質的に支配している」と懸念を示した。

 

元中国軍人によるテキサス土地買収

新疆出身の富豪・孫広信は元中国人民解放軍の将校である。彼は2017~2019年の2年間で、子会社を通じヴァルベルデ郡の土地を取得し、風力発電所を建設し同州の電力網に接続する計画を持っていた。だが2021年6月に施行された「ローン・スター・インフラ保護法」により、テキサス州の企業や自治体が中国、ロシア、北朝鮮、イランの外国企業との重要インフラ関連の取引を禁じられ、孫広信の事業継続は不可能となった。結果として孫広信は風力発電事業をスペインのグリーンエネルギー企業グリナリア(Greenalia)に売却したが、傘下のGH America Energy(GHAE)は契約を通じてプロジェクトへの利害関係を保持していた。

2024年7月には、GHAEが契約不履行を理由にグリナリアを提訴したが、2025年3月26日に連邦地裁は訴えを却下した。

中国国有企業による種子企業買収

2017年には中国国有の中国化工集団(ケムチャイナ)が、スイス本拠の大手種子・化学メーカー、シンジェンタ・シーズを430億ドルで買収。当時シンジェンタは世界第2位の種子・農薬企業であり、アメリカ国内でもシカゴに北米本部を構えるなど存在感が大きかった。

ナバロ氏は7月8日の発言で「我々は新たな世界に直面している。もはや敵対国の第一の選択肢は軍事衝突ではない」と述べた。

 

「彼らは種子を送り込む、あるいは種子を盗もうとする、あるいは種子を変えようとする。農業サプライチェーンを掌握し、軍事基地隣接地でスパイ活動拠点を設けることも含まれる。種子こそが世界の食糧を支える革命につながる可能性があり、中国はその重要な一部を手にした」とナバロ氏は続けた。

ケムチャイナ初代社長の任建新は全国人民代表大会の代表であり、同社の本社内には中国共産党の事務所もある。2021年5月にはケムチ

2025年7月9日、ウィスコンシン州クリントン近郊の農場の前に、色あせた「売農地」の看板が立っている。米農務省の報告によれば、2023年12月31日時点で中国系団体はアメリカの農地277,336エーカーを保有していた。Scott Olson/Getty Images

ャイナとシノケムグループが合併し、新たにシノケム・ホールディングスが発足、シンジェンタもその傘下となった。シノケム・ホールディングスは、中華人民共和国国有資産監督管理委員会(SASAC)の監督下にあり、同委員会は共産党中央委員会の指示を受ける。シノケム公式サイトには、李凡栄董事長が党書記を兼務すると明記されている。

ウォルトングローバルと米軍基地

ウォルトン・グローバルは1979年にカナダのアルバータ州で創業し、現在は世界中に拠点を持つ不動産投資・土地管理会社である。USDAのデータによれば、ウォルトンの保有地は中国資本が中心であり、直接中国出資の3社子会社と、二次的中国出資の5社子会社が、コロラド、テキサス、フロリダ、アリゾナ、メリーランドの各州で合計1,216エーカーの農地を取得。

その中の一つ、チェサピークビュー(Chesapeake View)は、米陸軍アバディーン試験場のあるメリーランド州ハーフォード郡で107エーカーを取得している。また、ウォルトンは少なくとも15マイル圏内に米軍基地が存在する用地を23件保有しており、その中には大統領専用機の拠点であるメリーランド州のジョイント・ベース・アンドリュース付近2カ所も含まれる。

同社広報担当者は、2024年時点で「ウォルトンが軍事基地近隣に持つ用地のうち、中国資本比率が90%を超える2件は、アメリカ農地に分類されていないためUSDAデータベースに記載されていない」とウォール・ストリート・ジャーナル紙に語った。

ウォルトン・グローバルは販促資料でもたびたび軍事基地近接の立地を強調している。メリーランド州の大型複合開発プロジェクト「ウェストファリア・タウンセンター」は「ジョイント・ベース・アンドリュース・ナバルエア・ファシリティのすぐ向かい」とうたわれている。別プロジェクト「キャンタークリーク」も「同基地の南1マイル」と説明されている。

 
 

ウォルトンはプレスリリースでも地域成長や雇用創出上の利点として軍事基地近接を強調。2024年4月にはアリゾナ州ツーソンの「レッドフォード・エステーツ」をデービスモンサン空軍基地へのアクセスの良さで宣伝。同年8月発表のデラウェア州インディアンポイント・プロジェクトでも、周辺のドーバー空軍基地の利便性がアピールされた。10月取得のマーシャルズ・ランディング用地も「ジョイント・ベース・アンドリュース等の主要施設近隣」と強調されている。

ウォール・ストリート・ジャーナル掲載のWeChatスクリーンショットによれば、同社はコロラド・スプリングスの開発を中国顧客向けに宣伝する際、北米防空司令部(NORAD)、米宇宙軍、米北方軍など重要軍施設立地を強調していた。

国家安全保障を守る動き

USDAは7月に国家農業安全保障行動計画を公表し、アメリカ農業を国家安全保障の要と位置付け、外国勢力、サイバー攻撃、バイオテロ、サプライチェーン脆弱性への対策を目指す。同計画策定に国防総省・司法省・国土安全保障省も参加した。今年は36州と連邦議会で計149本の外国所有規制関連法案が提出されている。

連邦レベルでは、2025年に外国所有・投資規制関連の法案19本が提出中。下院提出のHR458法案は「外国の敵対国・テロ支援国による不動産取得を禁止」するもので、2025年1月から下院外交委員会で審議されている。

2024年4月18日、メリーランド州アバディーンにある米陸軍アバディーン試験場での記念式典において、M10ブッカー戦闘車両のデモンストレーションが行われた。中国資本の子会社チェサピーク・ビューは、この試験場が所在するハーフォード郡で107エーカーの土地を購入している。Christopher Kaufmann/U.S. Army

州レベルでも外国所有規制立法が急増している。2023年1月~2024年7月の間に最低22州が外国人による所有権を規制または禁止する法律を制定。今年は全州の過半数で同趣旨の法案が提出されている。

中国所有農地面積が最多のテキサス州ではグレッグ・アボット知事が2025年6月、SB17法に署名し、中国・ロシア・イラン・北朝鮮を出自とする個人・法人による不動産取得を禁止した。新法は9月1日施行予定。ノースカロライナ州でも軍事基地25マイル(約40.23キロメートル)圏および農地の取得を外国勢力に禁じるSB394が州上下院で可決され、州下院規則委員会で審査中。ミズーリ州では外国人による農地全般を禁じる憲法改正案が審議中。ユタ州では、2023年と2024年に制定・強化された州法に基づき、中国資本による土地買収を州政府が2025年7月に阻止した。フロリダ州では2023年7月1日施行のSB264により、中国国籍または永住権を有しない中国系法人・個人による不動産取得が原則禁止されているが、現在法廷闘争が続いている。

Sylvia Xu