尖閣諸島 中共の野望と日米同盟の試練

2025/09/16 更新: 2025/09/16

東シナ海に浮かぶ8つの無人島の周辺では、中国当局による領域侵犯が絶えない。尖閣諸島は、次なる大戦の契機になってしまうのか。

5月3日、日本の航空自衛隊南西航空方面隊は尖閣諸島沖合の領空を侵犯した中国ヘリコプターに対応するため、那覇基地から戦闘機を緊急発進(スクランブル)させた。ヘリコプターは中国海警局の船から飛び立ち、領土防衛姿勢をとるような形で尖閣諸島周辺を飛行していた。

日本が長きにわたって統治し、アメリカからも日本の領土として認められている尖閣諸島が、今や、対立する日中関係および米中競争の火種になりつつある。

それは、単なる無人の島をめぐる争いではない。尖閣諸島は、台頭する中国ナショナリズム、日本の戦略的脆弱性、そして同盟国に対するアメリカの信用の3つがめまぐるしく交錯する場所だ。

中国共産党の究極目標

尖閣諸島の掌握は中国軍の対米A2AD戦略(接近阻止・領域拒否)を強化し、中国の排他的経済水域(EEZ)拡大に寄与する。しかし、中国共産党(中共)の最終目的はアジアにおけるアメリカの同盟関係を瓦解させ、自らアジアの覇権を握り、アメリカを世界の超大国の地位から叩き落とすことだ。

日中関係は長くにがい歴史を持つが、尖閣諸島(中国語で魚釣島)は2012年まで衝突の火種になることはなかった。ところが、対中強硬派として知られた当時の石原都知事による尖閣諸島購入の意思表示をきっかけに日本政府が動き出し、2012年に尖閣諸島の3島を国有化した。その後、中国国内では反日デモが全国に広がり、尖閣諸島をめぐる対立が国家の威信問題にまで発展した。

ただしこの反日デモは、長年くすぶっていた反日感情が無人島の国有化によって自然発生的に表面化したものではなく、中共が裏で手ぐすねを引いていた。大衆の抗議活動が抑圧されるような国で、中共は人々に怒りを発散するよう促したのである。愛国主義を掻き立てることで、中共は一見すると国民感情に答えて「不可侵な領土の一部」である尖閣諸島を重視しはじめたように見えた。しかしその裏には、大国としての力の誇示と戦略的野望が隠されていた。

中共が2012年に尖閣諸島重視の政策へと転換したことは偶然ではない。2008年の世界的な金融危機がアメリカ経済を襲った際、高度経済成長で自信をつけていた中共はアメリカが弱体化したと認識し、それを戦略的好機と捉えた。経済的、軍事的に力をつけた中国は、習近平という新たな指導者のもとで長年の「韜光養晦(能力を隠し、力を蓄える)」戦略を捨て、目標達成をより積極的に追い求める攻撃的な外交政策へと転換しはじめた。

中共が尖閣諸島にこだわるのは、島そのものの価値というより、将来的なアジアの地域秩序に関係している。アメリカの介入なしに日本の領土主権を脅かすことができれば、アメリカの安全保障はもろく、揺れ動くものだと示すことができる。中共の最終目標は、尖閣諸島の対立を通じて日米同盟の脆弱性を露呈させ、アジアにおけるアメリカの関与を土台から揺るがすことだ。「中華民族の偉大なる復興」を目指す習近平は、その障害となるアメリカの同盟システムを崩していかなければならない。

中国共産党の消耗戦略

2012年以降、中共はそれまで触れてこなかった尖閣諸島問題で戦略的な威圧作戦を展開するようになった。目的は、圧力を徐々に強めていくことで日本の領土主権を蝕み、日米同盟に対する信用を失わせることにある。

海上では、中共は継続的なプレゼンスの維持に力を入れている。日本の海上保安庁のデータによると、2023年に中国当局の船舶が尖閣諸島周辺の「接続水域」を航行した日数は352日に上り、2008年以降の記録では最大となった。それに加え、中共の海上戦力の一部を構成する「中国人民軍海上民兵」はしばしば日本の漁船に妨害行為を仕掛け、海上保安庁の巡視船の後を追跡する。

中国海軍も存在感を強めている。中国海軍の駆逐艦、巡洋艦、監視艦などが尖閣諸島周辺で常時パトロールを展開し、島周辺の作戦環境を調査・把握するとともに自国のプレゼンスを常態化させている。今や世界一の規模をもつ中国海軍の活動は頻繁になり、複雑化している。

空の領域では、中共は2013年に尖閣諸島を含む防空識別圏を東シナ海に設定した。日本とアメリカは反応を示さなかったが、防空識別圏の設定は中共が同領域を自国のものとみなしている証左だ。中国空軍は頻繁にJ-11戦闘機やH-6K爆撃機、無人航空機などを尖閣諸島周辺に飛ばしており、日本の自衛隊は毎年数百回に及ぶ緊急発進を余儀なくされている。

中国軍の海と空における威圧行為は、3つの影響をもたらす。1つ目は戦力の疲弊だ。元々規模で劣る日本の自衛隊は中国の挑発行為に対応するため、防衛力に余裕のない状態が続く。

2つ目は国内向けの宣伝効果だ。中国共産党は歴史的文脈から領土主権を主張し、それを防衛することは正当な行為として国内にプロパガンダを宣伝し、同時に外交目標も達成する。

3つ目はアメリカの信用失墜だ。中国による毎回の侵入行為はアメリカの抑止力の限界を探るものだ。もし、アメリカの介入なしに日本の主権を脅かすことができれば、中共は血を流さず、日米同盟への不信を植え付けることで勝つことができる。

このような威圧作戦は、小さな妨害・侵入行為を積み重ねて最終的に現状変更を試みる「サラミ戦術」に相当する。尖閣諸島は不毛の地であるが、その象徴的・戦略的価値ゆえに、地域秩序をめぐる争いにおいて重要な舞台となっている。

アメリカへの影響

アメリカは日本の尖閣諸島に対する主権を認めており、双方が共通の危険に対処することを定めた日米安全保障条約第5条が適用される。事実上、中共が尖閣諸島を武力で占領した場合、アメリカには条約に基づいて対応する義務が発生する。

日米安保第5条は敵の攻撃に対する即時の軍事報復を保証するものではない。しかし、アメリカ政府は中国に対し、「仮に軍事侵攻をする場合アメリカは軍事介入を行う」という明確なメッセージを大統領、国防長官、インド太平洋軍司令官を含む超党派で長年発信し続けてきた。このようなコミットメントに加えて、約6万人の在日米軍の存在がアメリカの抑止力を支えている。

しかし、中国の威圧作戦はアメリカの抑止力を土台から徐々に崩そうとするものだ。度重なるパトロール行為、領空侵犯、地形・島・岩礁に対する命名行為は、日本が弱体化したように見せ、アメリカに介入をためらわせるためだ。もし中国が戦争をせずに日本に事実上の統治力を失わせ、アメリカの介入を防げたなら、他の同盟国はアメリカの安全保障を条件付きのものだと疑うようになる。この不信感は東シナ海を越えて伝播するが、アメリカはそれを許すわけにはいかない。

例えば、フィリピンはセカンド・トーマス礁でのアメリカの援助を見直すかもしれない。アメリカの安全保障に対する本気度について台湾の信頼が揺らぐかもしれない。オーストラリアや韓国はアメリカの安全保障コミットメントを考え直すかもしれない。アメリカが主導する地域秩序は、血の流れる戦争で一気に失うのではなく、徐々に蝕まれるということだ。

また、不信感の高まりは軍拡競争をも招く。日本の新たな国防戦略はアメリカとの緊密な連携を前提としているが、仮に尖閣諸島の防衛に失敗すれば、日本政府は国防の自立性を追求し、長らくタブー視されてきた核武装の選択肢すら再検討しかねない。

武力紛争を起こさずにインド太平洋の秩序を作り替えようとする中共の試みを阻止するには、アメリカが中共の暴走を抑止するための海軍力と政治的なコミットメントを維持しなければならない。それは、公共と民間セクターの両方で、「アメリカは尖閣諸島が日米安保条約第5条の適用範囲内にあると認識している」と日本を安心させ続けることを意味する。また、日本政府による尖閣諸島および領海の主権を維持するための防衛活動を、パトロールや訓練を通じてアメリカが支援することだ。

要するに、尖閣諸島をめぐる対立はアメリカの同盟システムの威信、インド太平洋における抑止戦略、そして「法と秩序」と「修正主義」の間の争いを象徴する重要な問題であるということだ。

終わりに

2021年、アメリカのシンクタンク「新アメリカ安全保障センター」は、中国軍が尖閣諸島に侵攻するシナリオでウォーゲームを行った。シナリオでは、中国軍が尖閣諸島に上陸し、艦船、潜水艦、航空機、ドローンなどで周囲80キロ圏内を航行・飛行禁止区域として封鎖し、日米両国の出方を挑発した。その後、中国軍と日米軍は「東シナ海の殺戮」と表現される高強度な戦争に引き摺り込まれていく。

中国共産党は本当にアメリカと戦争を起こし、尖閣諸島をめぐって大量の血を流す覚悟があるのだろうか。アメリカの政策立案者はその答えが「Yes」だと想定しなければならない。中共が現状を覆すために取りうる手段のすべてが、愛国主義的な国民感情を満たし、アジアにおけるアメリカのプレゼンスを脅かすという国内外の利益に資することは明らかだ。

米中戦略競争の引火点である尖閣諸島問題は、政治エリートと国民の強烈な感情という危険な混合物と、多数の武装戦力が組み合わさった極めて危険な状況である。中共はおそらくアメリカとの実際の軍事衝突を避けようとするだろうが、東シナ海における領土的野心は衰えることはなく、その過程でアメリカに対応を強いる可能性も高い。

RealClearWireより

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