10月30日、トランプ米大統領と中国共産党の習近平が韓国で会談を実施。NVIDIAのAIチップ「Blackwell」は議題に上らず、アメリカ議会や専門家はAI半導体の対中輸出継続に警戒感を示している。
トランプ大統領は韓国訪問を終えた後、帰国する空軍専用機「エアフォース・ワン」内で記者団に対し、習近平とはエヌビディア(半導体メーカー)による中国向けチップ販売について協議したものの、その後の動向や同社が中国市場への参入を今後も続けるかどうかについては「北京側の判断に委ねる」と述べた。さらに、エヌビディアの輸出制限版チップ「Blackwell B30A」や、性能を引き下げたフラッグシップGPUの輸出を容認するかどうかについて両者が話し合ったか問われると、「Blackwellについては話していない」と答えた。
この発言は、トランプ氏が10月29日に示唆していた「Blackwellチップをめぐる協議が行われる可能性」を打ち消す内容となった。当時、トランプ氏はBlackwellチップ問題を米中首脳会談の議題に含める可能性を示唆しており、アメリカがエヌビディアによる対中輸出制限版チップの販売を承認するのではないかとの観測を呼んでいた。仮に実現すれば、北京に対する重要な譲歩となり、長年にわたり中国のAI開発を抑制してきたワシントンの政策を覆すことになるとみられていた。
一方、エヌビディアは自社の最上位チップの縮小版を、アメリカおよび中国双方の承認を得た上で販売したい意向を示している。
アメリカ議会 トランプ氏に輸出制限維持を要求
多くの専門家は、BlackwellチップをアメリカがAI分野における計算能力優位を維持する上での「鍵」と位置づけている。中国がその縮小版を入手する可能性が浮上すると、ワシントンでは直ちに強い反発が起こった。
アメリカ議会の共和・民主両党の議員らは、たとえ縮小版であっても、中国がアメリカの最先端AIチップ技術の核心部分を得るおそれがあると警告している。
下院「対中共特別委員会」のジョン・ムレナール委員長(John Moolenaar)はX(旧Twitter)上で、「中国にエヌビディアの最先端AIハードウェアを販売するのは、イランに兵器級ウランを渡すようなものだ」とし、「最新かつ最高性能のAIチップを、国家の主要な敵対国に売るべきではない」と投稿した。
さらにムレナール氏は、「これらのチップは、アメリカのAI主導的地位を長期的に強化しようとするアメリカ国内企業に提供されるべきであり、中国の軍事力強化に利用される未来をつくるべきではない」と述べた。
また、上院民主党のチャック・シューマー院内総務(Chuck Schumer)をはじめ、11人の民主党上院議員もトランプ大統領に対し、習近平とのいかなる貿易交渉においても同チップの輸出制限を解除すべきではないと訴えた。
シンクタンク「B30Aを倍購入すれば同等性能に」
ワシントンのシンクタンク「インスティテュート・フォー・プログレス(進歩研究所)」の先端技術政策部門ディレクター、ティム・フィスト(Tim Fist)氏は、「もしB30Aの輸出を認めれば、アメリカがAI分野で中国に対して保っている主な優位性が大きく損なわれる」と警告した。フィスト氏によれば、B30Aは基本設計がBlackwellチップとほぼ同一であり、異なるのはパッケージ形態だけであるという。
同氏はまた、「中国はチップを2倍の数量購入するだけで、ほぼ同じ計算能力を得ることができ、価格も現在と大差ないだろう」と指摘した。
フィスト氏が共同執筆した報告書では、9つの輸出シナリオを分析している。その中で最良のケースでは、来年に中国へ高性能チップを一切輸出しない場合、アメリカのAI計算能力は中国の30倍に達するとしている。
逆に最悪のケースでは、アメリカがB30Aチップや他の米企業製の類似製品を輸出した場合、中国は2026年までにアメリカを上回る計算能力を得ると分析している。その他の中間的なシナリオでも、アメリカの優位性は維持されるものの、その差は4倍程度にまで縮小するとしている。
国家安全保障分野の技術アナリスト、クリス・マグワイア(Chris McGuire)氏も同様の見解を示し、「このチップの輸出が許可されれば、AIチップの輸出規制は実質的に形骸化する」と警鐘を鳴らした。
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