中共軍部の対日威嚇 かえって弱点を露呈【実力検証】(上)

2025/12/01 更新: 2025/12/01

中国共産党(中共)軍の対日軍事示威が続く中、潜在的な実力差や装備面の限界、日米連携による日本側の強みが浮き彫りになっている。背景にあるプロパガンダや情報戦の狙いと、今後の日本の安全保障課題をわかりやすく解説する。

11月27日、中共国防省の報道官は、高市早苗首相の「台湾有事」に関する発言に対し、「正面から痛撃を加える」と反発した。同日、中共中央テレビ(CCTV)は、各種のミサイル、爆撃機、長距離ロケット砲などを映した一連の動画を公開し、「島礁作戦」にも言及した。最近では、中共軍は黄海海域での実弾射撃演習を相次いで発表している。

中共軍部は、あたかも再び「日清戦争」を始めることも恐れないかのように振る舞い、反日感情をあおっているようにみえる。しかし、1894年の日清戦争は中国の清朝軍の脆弱さを完全に露呈させた。仮に現在、中共軍が日本との戦争に踏み切れば、その軍事力の実態もまた露呈することになるだろう。果たして中共は本当にそのような冒険に踏み出すのか。

日中海軍の実力比較

中共海軍は過去20年以上にわたり巨額の資金を投入し、艦船数ではすでに世界一となり、アメリカを上回っている。しかし、日本と海上で対決する場合に主力となるのは、現役の055型駆逐艦8隻と052D型駆逐艦32隻である。それ以外の旧式駆逐艦や054A型フリゲートの戦闘力は限定的であり、3隻の空母も名目上は参戦可能という位置づけにとどまる。

中共海軍は三つの艦隊に分かれている。東部戦区の東海艦隊の主力艦は浙江省舟山に配備されており、052D型駆逐艦10隻を保有する。浙江省寧波には039型ディーゼル電気潜水艦10隻とキロ級潜水艦8隻が駐留している。

中共海軍が軍事的な挑発行動に出るとすれば、地理的に日本に最も近いのはこの東海艦隊であるが、駆逐艦も潜水艦も数は限られている。

北部戦区の北海艦隊は近年、日本を意識した活動を頻繁に行っており、遼寧の空母や駆逐艦が毎年のように日本周辺で行動している。北海艦隊には1隻の空母、055型駆逐艦4隻、052D型駆逐艦11隻、原子力攻撃型潜水艦4隻、039型ディーゼル潜水艦13隻があり、青島や大連・旅順に配備されている。

北海艦隊が日本周辺で挑発行動を取る場合、黄海を通過して東シナ海に入る必要がある。

中共が本格的に対日開戦に踏み切るのであれば、最も現実的な海戦の戦場は東シナ海である。この場合、中共の艦艇が宮古海峡や対馬海峡を通過して日本列島を大きく迂回するのは極めて困難である。事前に第一列島線の外側に展開している艦艇であっても、戦時下でこれらの海峡を安全に通過して帰還するのは難しく、日本列島近傍の狭い海峡をさらに越えていくことはほぼ不可能に近い。

南部戦区の南海艦隊は日本からの距離が遠い。空母打撃群がバシー海峡を通過して日本本土や南西諸島の東側へ迂回展開する可能性はあるものの、補給面で深刻な課題を抱えることになる。しかも、南シナ海の防衛が手薄になることも避けられない。中共の空母は、実戦で確認された本格的な対艦・対地攻撃能力をまだ示しておらず、無理に参戦させれば自らが攻撃目標となるリスクが高い。その際には、アメリカ軍空母打撃群による迎撃にも直面するとみられる。

中共海軍が日本に挑戦するなら東海で戦う必要がある。南部戦区の海軍は日本から遠く離れている。(大紀元製図)

日本の海上自衛隊は、イージス艦を含む8隻の大型駆逐艦(護衛艦)のほか、約6千トン台の汎用・防空駆逐艦を20隻前後、5千トン級の旧式駆逐艦を少数、そして23隻の攻撃型潜水艦を保有しており、艦艇数では中共海軍に劣る。

しかし、中共の北海艦隊と東海艦隊を合わせても、055型駆逐艦(1万トン級)は4隻、052D型駆逐艦(7千トン級)は21隻にとどまる。北京の玄関口である渤海・黄海や、上海などの防衛も担わなければならず、全艦を前線投入することはできない。

言い換えれば、中共が新たな「日清戦争」を仕掛けようとしても、駆逐艦戦力に限れば日本の海上自衛隊に対して優位に立つことは難しい。日本側の主力艦は多くが出動可能であり、さらにアメリカ第七艦隊も日本本土防衛に加わる。

現在、日中双方の主力駆逐艦はともにアメリカ海軍の駆逐艦をモデルとしている。日本の駆逐艦の装備は、同時期のアメリカ駆逐艦と同等あるいは類似の水準にある一方で、中共の駆逐艦は設計や外観こそアメリカ駆逐艦に近いものの、艦載システムの水準には大きな差があり、とくに防空・対潜能力の弱さが指摘されている。

日本のまや型護衛艦の1番艦「まや」(JS Maya)(日本海上自衛隊)

日本の駆逐艦はアメリカのゼネラル・エレクトリック社製のガスタービンを採用しており、アメリカ駆逐艦と同系統の動力システムを備える。一方、中共の駆逐艦は旧ソ連技術に基づくウクライナ製ガスタービンを模倣したもので、外観はアメリカ駆逐艦に似ているものの、主要な動力システムは依然としてソ連系技術に依存している。

日本の駆逐艦のレーダーはアメリカ海軍と同種のものを採用しているが、中共駆逐艦のレーダーは「アメリカ駆逐艦に肩を並べる」と宣伝しているものの、実際の性能差は小さくないとみられる。中共軍の公式メディアでも、レーダー修理任務が頻繁に生じていると報じている。

日本の新型駆逐艦はアメリカ駆逐艦と同様にスタンダードSM-2、SM-3、SM-6防空ミサイルを装備し、対艦ミサイルもハープーンから17式対艦ミサイルまで幅広く配備している。現在では「トマホーク」巡航ミサイルの導入も始まっている。中共駆逐艦の艦砲や各種ミサイルは、基本的にソ連とロシア兵器の派生型であり、防空兵器として最も高性能なものでもS-300を模した「HHQ-9」にとどまる。

7月3日、中共の艦艇が香港で一般公開され、新華社は055型駆逐艦について「世界の先進水準に到達した」と報じたが、「先進国を凌駕した」とまでは述べなかった。これは裏を返せば、アメリカや日本、韓国などが運用する米艦準拠型駆逐艦より劣ることを事実上認めた形とも読める。また、新華社は主力の052D型駆逐艦についても「統合作戦能力が際立つ」と表現するにとどめ、「世界先進水準」という表現は避けている。中共側もその性能評価には慎重な姿勢を崩していないといえる。

2025年7月3日、香港の海域に入港する中共の052D型駆逐艦「湛江」(艦番号165)。標語を掲げている。(Peter Parks/AFP=Getty Images)

中共は多くの潜水艦を保有しているが、その性能は日本の潜水艦に大きく劣り、探知されやすい。日本の海上自衛隊はアメリカ軍との連携訓練を通じて対潜戦能力を高めており、対潜能力では中共を大きく上回る。さらに、中共が多数保有する054A型フリゲートは航行速度が遅く、搭載する「YJ-83」対艦ミサイルは旧式で、防空能力も低いため、実戦では主力というより囮や攪乱要員としての役割にとどまる可能性が高い。

現代の海戦は、もはや近距離での砲撃戦ではない。水上艦艇同士の対艦ミサイルの撃ち合いも、視界外で行われる戦闘の一部にすぎない。戦局を左右する鍵は、いかに相手に航空攻撃を仕掛け、逆に敵の空襲を防ぐかにある。

潜水艦戦は不確定要素の多い領域であるが、東シナ海は水深が十分深い海域ではなく、潜水艦が対潜哨戒機の追跡を完全に振り切るのは難しい。中共潜水艦が宮古海峡を通過することも容易ではない。

仮に日中間で武力衝突が起きれば、最初に主導権争いの舞台となるのは東シナ海上空であり、その後、航空攻撃によって相手艦隊をどこまで叩けるかが勝敗を大きく左右する。中共の艦艇は防空能力が十分とはいえず、空襲による損害を受けるリスクが高いだけでなく、陸上および海上発射の対艦ミサイル攻撃にも対応しにくい。一方、日本軍艦のミサイル防御能力はアメリカ軍と同等水準にある。

2025年9月3日、北京の天安門上空を飛行する中共の戦闘機、J-16(右)、J-20(中)、J-35(左)(Greg Baker/AFP)

空中戦力の比較

中共の東部戦区にあるいくつかの空軍基地は、日本に最も近い位置にあり、現在、4個のJ-20旅団を編成している。それぞれの旅団は一般的な編制からみて2個の大隊で構成しているとみられ、少なくとも80機以上のJ-20を配備していると推定。駐屯地は安徽省蕪湖市、浙江省湖州市、福建省武夷山市、浙江省衢州市であり、いずれも東シナ海に近接しているが、同時に台湾海峡方面も念頭に置いた配置となっている。

中共の東部戦区には、4個のJ-16旅団も編成しており、総計で約120機のJ-16を保有すると推定される。駐屯地は上海市、杭州市、江蘇省如皋市、江西省南昌市で、そのうち3個旅団は主として東シナ海方面を向き、1個は台湾海峡方面も兼ねる。また、ロシアから輸入されたSu-30は97機が浙江省台州市に駐留しているが、機体はすでに老朽化が進んでいる。

東部戦区にはさらに2個のJ-11旅団があり、それぞれ江蘇省蘇州市と連雲港市に駐屯している。J-11は退役が視野に入る段階にある。また、1個のJ-10旅団が広東省汕頭市に、1個のJH-7旅団が浙江省義烏市に駐屯しており、主に台湾海峡方面の任務を担っている。

北部戦区には2個のJ-20旅団があり、それぞれ山東省曲阜市と内モンゴル自治区赤峰市に駐屯している。第3の旅団は遼寧省鞍山市にあり、ここにはJ-35も配備している。これら3個旅団は北京防衛の任務を負っており、他戦域への大規模な転用は難しい。4個のJ-16旅団は黒竜江省斉斉哈爾市、吉林省四平市、遼寧省大連市、山東省濰坊市にそれぞれ駐屯し、これらも担当防衛区域を離れて東部戦区を広範に支援することは困難である。また、1個のJ-11旅団が遼寧省丹東市に、3個のJ-10旅団が吉林省延辺、内モンゴル自治区フフホト市、山東省威海市に駐屯し、1個のJH-7旅団が山東省煙台市に配置している。一部の航空部隊は東部戦区を支援し得るものの、その規模や効果は限定的とみられる。

中部戦区には2個のJ-20旅団があり、それぞれ河南省鄭州市と河北省張家口市に駐屯している。このうち1個旅団が東部戦区の作戦を支援できる可能性がある。中部戦区にはJ-16は配備していないが、J-11旅団が1個、J-10旅団が4個、JH-7旅団が1個あり、一部戦力が東部戦区支援に回る余地はあるものの、やはり決定的な戦力増強となる規模ではない。

南部戦区と西部戦区の航空戦力は、アメリカ軍、インド、東南アジア諸国への対応を求めており、東部戦区に対して大規模な戦力抽出を行うのは難しい。北部戦区と中部戦区からの支援も規模面で限定され、結果として東部戦区は東シナ海上空での作戦をほぼ単独で支えざるを得ない構図となる。孤注一擲として、台湾海峡方面を一時的に手薄にし、大部分の戦闘機を東シナ海に集中投入するという選択肢も理論上はあり得るが、一度大きな損失を被れば、台湾海峡での作戦計画を延期せざるを得なくなるリスクが高い。

2025年2月6日、日本航空自衛隊のF-35戦闘機1機が太平洋上空で米軍の空中給油機とドッキングした(アメリカ印太司令部)

日本はF-35Aを少なくとも38機受領しており、F-35Bについても2025年から順次受領が始まっている。航空自衛隊は約200機のF-15J/DJと約90機のF-2A/Bを運用しており、その多くが即応態勢にある。

中共東部戦区と比較すると、日本側の第5世代戦闘機の数は劣勢であるが、第4世代戦闘機の数はほぼ同水準であり、日本の保有機は大半が稼働可能状態を維持している。これは、日本本土防衛にアメリカ軍が継続的に関与していることも背景にある。

日本はE-2C/D早期警戒機を10機前後運用しており、空中警戒と管制を効果的に行える体制を整えている。また、KC-767などの空中給油機を数機保有し、今後KC-46Aの導入によって空中給油能力を拡充する計画だ。

さらに、アメリカ軍の早期警戒機、給油機、電子戦機、地上支援、衛星なども支援に加わることができるため、日本の戦闘機は長時間にわたり空中待機を維持しやすく、統制のとれた作戦運用が可能となり、戦術面での優位性を十分に発揮し得る。

日本の自衛隊は、長年にわたりアメリカ軍との共同訓練を重ねてきており、訓練水準は総じて高い。中共軍のパイロット訓練は示威や演出の性格も強いとされ、実戦的な訓練の質の面では両者の間に大きな差がある。

沈舟
関連特集: 百家評論