逆スターバックス効果 中国が外資の知財を吸収し市場から追い出す仕組み

2025/12/03 更新: 2025/12/03

論評

数十年にわたり、安価な労働力と巨大な消費機会に引き寄せられて、西側企業は製造拠点を中国へ移してきた。多くの企業は、中国の低賃金労働を背景に莫大な利益を上げてきた。

11月、スターバックスは中国事業の60%を中国の博裕資本(プライベートエクイティファンド)に売却した。事業価値は約40億ドルで、近年のグローバル消費企業による中国側への売却案件としては最大級のものだ。

だが、これが最後になるのだろうか。

外国の技術革新を吸収する政策

スターバックスが痛感しているように、中国でビジネスをするコストは高く、また様々な面で重くのしかかってくる。中国の現地競合である瑞幸(ラッキン)と庫迪(クディ)は、スターバックスの「ラテ」の価格の3分の1以下に抑えることで、市場シェアを急速に奪っている。

コーヒー企業をのみ込む動きは氷山の一角に過ぎない。

数十年にわたり、中国共産党(中共)は先進的な技術力の高い貿易相手国から、知的財産(IP)、工業設計、デザイン、半導体技術、医薬・製薬の配合、企業機密、独自技術、その他のノウハウなどを盗み取ってきた。

これは偶発的なものではなく、中共による意図的かつ体系的な戦略であり、外国のイノベーション成果を吸収することで自国の技術基盤を構築・拡大し、徐々に外国競争相手を市場から排除し、同時に国内市場を国家に支援された国産企業へと囲い込む狙いがある。

常態化した強制的な技術移転

中国の巨大市場に参入しようとする外国企業は、多くの場合、中国企業との合弁事業を受け入れるしかない。
アメリカ国防大学は、中共は「合弁要求や外資規制といった政策手段を利用し、アメリカ企業に対して技術移転を強制または圧力をかけている」と指摘した。

中国企業は、合弁事業、ライセンス契約、人材引き抜き、さらにはサイバー諜報まで、多様な手段を用いて機微技術を獲得してきた。その多くは中共政府が主導したもの。

これは偶発的な現象ではなく、中国の産業政策に深く根付いた戦略だ。理由は実に単純である。世界最先端の技術を強制的に移転させる、あるいは盗み取ることで莫大な研究開発費を節約できるのであれば、なぜ数十億ドルを投じて自前で開発する必要があるのか。

さらに中共は「中国製造2025」計画において、半導体、鉄道、航空などの重要分野を明確に標的とし、市場参入の条件として外国企業に最重要技術の提供を求めてきた。しかも、こうした政策はこれらの分野にとどまらない。

知的財産の盗用

その典型例はフォルクスワーゲンだ。

2024年11月、同社は新疆の事業を上海の国有企業に売却した。技術共有は中国市場へ参入する「入場料」であり、その結果、フォルクスワーゲンは自社技術と競合する製品を中国市場で相手にすることになった。

複数の報道によると、中国側は20年以上にわたり同社の機密を取得していた疑いがある。

もう一つの悪名高い事例は、アメリカの化学大手デュポンである。これも同様の強制的な技術移転の手口だ。中共当局の規制承認を得るため、独自の化学・顔料製造技術を中国側パートナーへ移転せざるを得なかった。

デュポンは後に中国企業を提訴したが、逆に中共政府が後押しした独禁法調査の標的になった。この調査は2025年に停止されたが、中共が規制権限を圧力の手段としてどのように利用するかを如実に示している。

半導体分野では、マイクロンのDRAM設計情報が狙われた。中共国有の福建晋華集成電路と台湾・UMCの社員らがマイクロンの営業秘密を共謀して盗んだ罪で起訴された。盗んだ設計は、中国側が自国内でDRAM工場を建設するために利用した。 UMCは2024年に6千万ドルの罰金支払いに応じた。

アメリカ司法省が福建晋華による営業秘密の窃取を立証できなかったため、裁判所は福建晋華に無罪判決を下した。ただし同社は依然としてアメリカのエンティティ・リストに掲載されている。

中共による知的財産の盗用は、企業規模や国籍を問わず、ほぼあらゆる分野で組織的・体系的に行われている。2004年には、川崎重工、ドイツのシーメンス、カナダのボンバルディアに対し、高速鉄道技術の共有が求められた。

その後、中国の技術者たちはこれらの技術を逆設計し改良を加え、「和諧号」高速列車として再ブランド化した。今日、中国の高速鉄道は、まさにその技術の源となった企業と世界市場で競合している。

同時に、この数十年の経緯が示しているのは、中共の法制度が西側企業に対し、ほとんど法的保護を提供していないという現実だ。

逆スターバックス効果

ここで挙げた事例は、中国市場への参入と引き換えに、西側企業が自らのビジネスの生命線である知的財産や技術を、自発的あるいは非意図的に中国へ移転している膨大な事例外国企業が中国市場で事業を展開できる期間は多くの場合限られており、中国本土の競合企業が十分に成長した段階で置き換えられるのが一般的である。

いわゆる「逆スターバックス効果」、つまり企業が最終的に中国で知的財産と市場シェアを失う現象は、今に始まったことではない。そのペースは加速している。中国から撤退する西側企業の数は増加しており、そこには世界的に名の通った企業が含まれる。

マイクロソフト、デル、スタンレー・ブラック&デッカー、ブリザード・エンターテインメント、Airbnb、IBM、そしてもちろんスターバックスもその例外ではない。

では、もう手遅れなのだろうか。

中国依存のサプライチェーンは、外国企業を中国の策略や妨害に対して脆弱にしてしまったのだろうか。

少なくともレアアースのような戦略資源については、短期的にその通りである。また、程度の差はあれ各種産業にも同様のリスクが存在する。

もしこの状況に教訓があるとすれば、中国で事業を行う西側企業にとって「スターバックス効果」とは、自らの状況にようやく目を覚まし、コーヒーの苦みを味わい始めたということに他ならない。

『中国危機』(Wiley、2013年)の著者であり、自身のブログTheBananaRepublican.comを運営している。南カリフォルニアを拠点としている。
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