「癌を抱えた臓器」を移植 証言者が語るアメリカの「壊れた臓器移植システム」

2025/12/08 更新: 2025/12/08

ヘザー・ナックルズさんの結婚式の日、朗報が届いた。ベッドから起き上がれず、肝臓と腎臓が限界に達していた彼女の母に、適合する臓器が見つかったのだ。

その日は人生で最も幸福な日だったとナックルズは語る。新しい人生を思い描き、微笑む母の姿を覚えている。

しかし、そこから悪夢が始まったと彼女は言う。

ナックルズの母、メアリー・アン・ホリスは、2022年10月30日に肝臓と腎臓の移植手術を受けた。だが手術から5日後、医師は家族に、提供された肝臓に報告されていなかった問題──まれで致命的な癌──があったと告げた。

ホリスはすぐに肝臓を再置換する2度目の手術を受けた。4時間に及ぶ手術で、彼女は極めて衰弱し、精神錯乱状態に陥った。

クリスマスの頃には、もう自力で食事をする体力がなく、チューブによる経管栄養で命をつないでいた。家族は彼女のベッド脇に集まって、開封する体力すら残っていない彼女の代わりにプレゼントを開けた。3週間後、体内に固形腫瘤が形成され、彼女は亡くなった。

死因は癌──未分化腺癌──であり、ナックルズによれば、本来移植対象として認められるべきではなかった提供者からのものだった。

3年後、米国の臓器移植システムと調達プロセスに全国的な注目が集まる中、彼女は今、説明責任を求めている。

「誰も、母や私たち家族が経験したようなことを味わうべきではない」と、彼女は12月2日の議会公聴会で議員らに語った。この公聴会は、臓器提供と移植を担う非営利団体である臓器調達機関(Organ Procurement Organizations :OPO)への調査の一環である。

彼女の事例は決して例外ではなかった。

「非人道的」

公聴会では内部告発者が、提供臓器が廃棄され、医療ミスの懸念が黙殺され、明らかな生命兆候を示す患者から臓器摘出が進められそうになった現場を目撃したと証言した。

証人の1人は、ケンタッキー州の臓器提供団体「Kentucky Organ Donor Affiliates」で臓器保存コーディネーター(臓器移植の裏方で、臓器の質と安全性を守る専門家)を務めていたニコレッタ・マーティン氏である。同団体はのちに別のOPOと統合され、2024年10月に「希望のネットワーク(Network for Hope)」となった。

2021年、TJ・フーバーという男性が心停止状態で病院に搬送され、数日間反応がなかった。しかし、臓器の状態を手術室で確認していた最中、彼は突然目を覚ました。だがマーティンによれば、医療スタッフは直ちに手術を中止する代わりに、フーバーの動きを止めるため彼を鎮静したという。この行為に、スタッフの一部は「非人道的」「人間の安楽死のようだ」と強い懸念を示した。

Network for Hope は、移植のための臓器回収を担う米国に55あるOPOの一つである。

7月の連邦調査では、100件以上の事例で患者がまだ生命兆候を示している段階で臓器調達が開始されていたことが判明した。その後、保健福祉省は問題のあった臓器調達団体の認証を取り消し、これは「他のOPOに対する警告でもある」と説明した。

米国科学者連盟で臓器提供政策を担当する上級研究員ジェニファー・エリクソン氏は、米国が「OPOにおける国家危機レベルの腐敗」に達していると述べた。

「税金で運営されているOPOは、ほとんど説明責任を負っておらず、悲しみに暮れる家族に圧力をかけ、最も恐ろしい事例では、まだ死亡していない患者を標的にしている」と彼女は議員に語った。

内部告発者は、OPO内で「特に地方の経験の浅い医師を標的にし、フェンタニルなどの緩和薬を過剰投与することで患者の状態を悪化させるよう訓練されている」と証言しているという。

ドン・バイアー下院議員(民主・バージニア州)は、この点に立ち戻り質問した。

「これは本質的に、臓器を得るために人を殺そうとしているのではないか?」

エリクソン氏は答えた。「絶対に明確にしておきたいが、ここで語られている行為は犯罪である。『危険なのはその州の住民だけではない。そこをたまたま通過するすべてのアメリカ人も危険にさらされている』ということだ」。

米国で最も長く臓器移植コーディネーターを務め、今夏に亡くなったチャールズ・ビアーデン氏は、かつて「危険なOPOが、生存可能な患者に害を加えるのを止めるため、自身の身体で患者を覆って守った」とエリクソン氏は述べた。

「臓器提供と臓器収奪を隔てる線は『同意』である。生存可能な状態で臓器摘出のために運ばれることに同意する家族などいない。しかし、それが今、全国で起きている」と彼女は述べた。

沈黙させられた声

フーバーさんの件の後、マーティン氏によれば、複数のスタッフが当局への報告を望んだ。しかし、OPO側は「内部で処理する」として報告を許さなかったという。

「TJフーバーさんの記録を確認することを許されず、私たちは事実上、声を上げることを封じられた」と彼女は証言した。

マーティン氏はこの件の対応に抗議して退職し、その後、新しい勤務先であるOPO「Buckeye Transplant」からも、公に発言したことを理由に解雇された。

彼女はまた、下院歳入委員会監視小委員会がメディケア詐欺の懸念から調査している米ニュージャージー州に拠点を置くOPO「New Jersey Organ and Tissue Sharing Network」への書簡を読んだ際に、同じパターンがあると感じたという。

十数名以上の内部告発者が、生命兆候を示す患者に対し臓器調達を進める指示や、記録削除に関する深刻な疑惑を告発していた。委員会によれば、OPO内部のExcelシートには、「研究目的」と称して大量の膵臓が収集された形跡があるが、実際には指標を良く見せるための操作だった可能性があるという。

自らの経験と、この書簡での内部告発の内容は「明らかに重なっている」とマーティン氏は述べ、「すぐに責任追及と改革が求められる、深刻なシステムの欠陥だ」と指摘した。

全国の臓器待機リストとマッチングシステムを管理するUNOS(The United Network for Organ Sharing:全米臓器共有ネットワーク)は、以前の下院公聴会で証言した者に対して法的措置を示唆したと、地元メディアの報道をエリクソン氏は引用した。

UNOSは12月2日の声明で、「内部告発者保護法を遵守しており、内部告発者への報復を容認しない」と述べた。

「UNOSは違法行為に関与したことはない。これに反する主張は不当であり、法的措置の対象となる」と声明は述べた。

エポックタイムズの問い合わせに対し、UNOSは、モーリーン・マクブライドCEOによる7月の議会証言を指し示した。マクブライドCEOは、誰でも迷わず問題を報告できるように、「どこに相談しても受け付けられる」仕組みの安全通報システムを新たに設けるべきだと提案していた。

ナックルズさんの母の事例は「非常に衝撃的だ」とマクブライド氏は述べつつも、UNOSはOPOや移植病院を規制しておらず、臨床判断にも関与していないと付け加えた。

Network for Hopeのバリー・マッサCEOは、公聴会での主張は「統合後のNetwork for Hopeがもたらしてきた前向きな成果を反映していない」と述べた。

「Network for Hopeは議会および監督機関と協力して取り組んできた」とマッサ氏は語り、「臓器提供プロセスにおける透明性、説明責任、継続的改善に尽力している」と述べた。

「私たちは、提供者とその家族に対し、安全で思いやりある提供プロセスを最優先にする」という使命を掲げていると彼は繰り返した。

OPOで働く人々に向けて、マーティン氏は「恐れてはならない」と助言する。

「私たちは最前線に立っている。私たちは患者の擁護者である。それこそが皆がこの仕事に就く理由だ。守られる仕組みもある。しかし最終的には、私たちは皆、命を救うためにここにいる。これ以上、こんなことを続けさせてはならない」と彼女は述べた。

Eva Fu
エポックタイムズのライター。ニューヨークを拠点に、米国政治、米中関係、信教の自由、人権問題について執筆を行う。
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