米下院可決 2026年度国防法案 対中抑止強化 9060億ドル予算・DEI廃止でトランプ路線鮮明

2025/12/11 更新: 2025/12/11

米下院は12月10日夜、2026会計年度の国家防衛権限法案(NDAA)を可決し、総額9060億ドル(約135.9兆円)という過去最大級の国防予算を承認した。 法案には、中国企業からの物資調達禁止、現役軍人の4%昇給、国防総省における多様性・公平性・包摂(DEI)プログラムの全面廃止など、対中強硬と「反リベラル」アジェンダが色濃く盛り込まれた。

法案はすでに上院に送付されており、上下両院指導部は一本化作業を進めている。 クリスマス休会前までに上院での審議を終え、トランプ大統領の署名を経て成立する見通しである。 採決は賛成312票、反対112票で可決され、共和党から18人、民主党から94人が反対に回った。 手続き投票では民主党が一枚岩で反対しつつも、最終的には超党派多数で押し切られた構図である。

強硬保守の不満とトランプ統制条項

強硬保守派の一部は、毎年4億ドル(約6千億円)のウクライナ支援を今後2年間継続する条項が盛り込まれたことや、連邦準備制度理事会(FRB)による中央銀行デジタル通貨(CBDC)創設を禁じる規定が採用されなかったことに反発した。 彼らは、CBDC禁止こそプライバシーと市民的自由を守る最後の防波堤だと訴え、政府発行のデジタル・ドルが国民の取引監視や資産凍結に直結しかねないと警鐘を鳴らす。 それでも最終局面では、一部の保守強硬派が賛成に転じ、トランプ政権との協調を優先する現実路線に回った。

法案には、トランプ大統領自身の裁量を縛る条項も含まれた。 ヨーロッパおよび韓国駐留米軍の兵力削減や、ウクライナへの武器供与停止を厳しく制限する規定が盛り込まれ、大統領の一方的な「撤収カード」を使いにくくしている。 さらに、国防長官ピート・ヘグセスの出張予算の4分の1を一時凍結し、国防総省がベネズエラ近海での麻薬密輸容疑船攻撃の「未編集映像」を議会に提出するまで解除しないと定め、行政府への監視と締め付けを強めた。

外交・安保で中国包囲網を制度化

下院議長マイク・ジョンソンは、現役軍人の昇給、DEIプログラムの完全廃止、反ユダヤ主義対策、約200億ドル(約3兆円)に上る「時代遅れプロジェクトと官僚的経費」の削減、中国共産党(中共)に対抗する複数の強硬策を「目玉」として列挙した。

対中封じ込めの中心に据えられたのが、新設される「対外投資審査メカニズム」である。 アメリカ企業や投資家が中国など「懸念国」のハイリスク技術分野に投資する際、財務省への事前報告を義務づけ、当局が取引を禁止したり、議会への年次報告を通じて牽制したりできる仕組みだ。 さらに、国防総省による中国の遺伝子解析・バイオ企業との契約を禁止し、中国など懸念外国企業からの先進電池、光電子部品、コンピュータ・モニター、重要鉱物の調達も断つ。 「中国抜きサプライチェーン」への長期シフトを、国防法の名の下に制度化する構図である。

外交面でも、中国監視の網を広げる条項が並ぶ。 各地のアメリカ大使館・領事館に「地域中国問題担当官」を新設し、中共の商業・技術・インフラ分野の活動、とりわけ「一帯一路」を常時モニターする。 さらに2年ごとに、世界各地での米中両国の外交的プレゼンスを比較する報告書の提出を義務づけた。

同時に、1992年と2002年の対イラク武力行使承認を廃止しつつ、2001年9月11日後の対テロ戦争承認(AUMF)は維持した点も象徴的である。 「テロとの戦い」は残しながら、中東大型戦争の法的根拠を整理し、同時に中国との長期対立へと戦略資源を振り向ける意図がにじむ。 2026年度NDAAは、トランプ政権下のワシントンが「反中・反DEI・反官僚肥大」を掲げて進む、新たな安全保障とイデオロギーの戦線布告といえよう。

高杉