カザフスタンが映す中ロの溝 同盟神話に亀裂

2025/12/15 更新: 2025/12/15

国際社会では、モスクワと北京を同じ文脈で語ることに慣れている。「独裁の枢軸」「無制限の協力関係」といった表現が広く使われるが、必ずしも正確とは言えない。

このことを理解するうえで、カザフスタンほど適した国は少ない。正確な位置を即座に示せる外国人は少ないものの、同国はユーラシア大陸のほぼ中心に位置し、ロシアとは世界最長となる約7600キロの陸上国境で接している。さらに、中国の新疆ウイグル自治区とも、極めて微妙な政治的・地理的境界線を共有している。

中央アジアの地図 (Wikimedia Commons  CC BY-SA 3.0

カザフスタンの歴史と背景

カザフスタンは世界最大の内陸国で、面積は世界第9位に位置する。豊富な資源も特徴で、世界の石油埋蔵量の約2%、ウラン埋蔵量の43%を有するほか、グリーンテクノロジーに不可欠な金属資源の大半も埋蔵されている。

地政学的にも重要な役割を担う。ロシアを迂回してヨーロッパへ至る東西の「一帯一路」鉄道路線や、南北を結ぶ複数のパイプラインが同国を横断しており、国際物流とエネルギー供給の要衝となっている。

ソ連時代は、カザフスタンにとって厳しい時期だった。1930年代、スターリンの集団化政策によりカザフ人の3分の1が餓死し、20世紀における最悪級の人口動態的惨事の一つとなった。さらに、政府主導の移住政策の影響で、1970年代にはカザフ人が自国において少数派に転落している。

1949年から1989年にかけて、ソ連は北東部のセミパラチンスクで456回の核実験を実施し、住民150万〜200万人を何の警告もなく放射性降下物にさらした。避難措置は取られず、一部の住民は「生きたデータ」として意図的に観察・研究されたという。

同様の事態は国境の向こう、中国新疆ウイグル自治区でも起きていた。中国はロプノールで核実験を行い、ウイグル人やカザフ人が居住する地域で計45回、そのうち22回は大気圏内で実施された。

1991年12月に独立したカザフスタンが引き継いだ教訓は二つある。一つは、二度と遠く離れた首都の実験場とならないこと。もう一つは、国境を接する単一の大国を二度と全面的に信頼しないことである。

こうした経験から生まれた外交路線が、全方位外交、あるいは「永続的均衡」と呼ばれる戦略だ。単なる外交上のブランド戦略ではなく、カザフスタンにとっては生き残るための現実的な選択肢なのである。

ロシアと中共の利益相反

カザフスタンは現在、ロシアと中国という二大隣国の影響力に挟まれ、微妙な外交・経済のバランスを迫られている。ロシアは電力の約半分を供給し、石油輸出の8割を担うほか、冬季には北部の都市への暖房供給も行っている。2022年1月には、抗議行動が政府転覆の危機に発展しかけた際、ロシア主導の部隊が数時間以内に空輸され、モスクワの明確なメッセージを示した。「お前たちは常に我々を必要とする」という圧力である。

一方、中国はカザフスタン最大の貿易相手国であり、2025年上半期には投資額が前年同期比で400%以上増加した。新たな鉄道やパイプラインの建設を通じて、両国の経済的結びつきは急速に強化されつつある。北京の姿勢は穏やかだが明確だ。「未来は我々を通って流れる」という戦略的な影響力を示している。

専門家は、ロシアと中国の影響力は補完的ではなく、むしろ相反すると指摘する。ロシアの圧力は露骨で、電力やパイプラインの停止、ロシア系住民が多数を占める北部諸州への影響を通じて直接的な揺さぶりをかける。一方、中国は長期的な経済・インフラ投資を通じ、カザフスタン国内に深く浸透しつつある。

カザフスタン政府にとっての課題は明確だ。どちらの大国にも依存せず、独立した政策を維持することである。しかし現実は、経済・安全保障の両面から常に外圧にさらされる複雑な状況である。

さらに、中国の新疆政策が国際社会で波紋を広げる中、同国の約150万〜180万人のカザフ人は、厳格な政治統制や強制労働、臓器収奪といった問題の影響を受けている。多くのカザフ人は国境を越えた家族関係を持つことから、カザフスタン政府は中国への経済依存を深める一方で、自国民の権利保護という国内からの圧力にも直面せざるを得ない状況にある。

この現実は、中ロ両国が一枚岩であるという見方を覆す。中国による貨物列車のルート変更は、ロシア経由の通過収入を削り、鉱物資源開発などの中国資本プロジェクトは、ロシアの影響力を相対的に低下させる効果をもたらしている。

ロシアは依然として戦略的奥行きを守ろうと警戒を強め、中国側はもはや維持困難な特権に固執するロシアを冷静に見据える。カザフスタンは両国を互いに牽制しつつ、近年再び交渉の場に姿を現した第三の「求婚者」である米国との関係も天秤にかけており、その外交戦略の巧みさが試されている。

米中ロとの微妙なバランス

冷戦終結後の30年間、ワシントンは中央アジアを事実上、後回しにしてきた。関心の中心はアフガニスタンや一部のエネルギー取引に限られ、地域全体への積極的関与は限定的といえる。しかし、2022年以降、状況は急速に変化した。三つの難問に直面している。

一つ目は、ロシアがエネルギーや国境を武器化して影響力を行使すること。二つ目は、中国の「一帯一路」により、カザフスタンがユーラシア陸上輸送の要石としての地位を得たこと。そして三つ目は、中国に依存しない重要鉱物資源の確保競争が国家存立の課題となったことである。

こうした変化の中で、カザフスタンの首都アスタナでは中央アジア5カ国と特定国の枠組み「C5+1」首脳会合が開催され、ユーラシア諸国の指導者がホワイトハウスに招かれ、米国企業とのウラン供給契約に署名する場面も見られた。さらに、米国による開発支援のための資金提供は、トランス・カスピ海の「中部回廊(ミドルコリドー)」を軸に動き始めている。このルートは、中国からヨーロッパへ至る際にロシアとマラッカ海峡の双方を意図的に回避できる唯一の経路とされる。

カザフスタンにとって米国は、三大国の中で唯一、国境を接しておらず、領土的な野心や思想的な圧力も及ぼさない存在として映る。単なる代替選択肢であり、国家主権を強化し得る数少ないパートナーでもある。

専門家は、こうした動きが必ずしも「西側寄り」を意味するものではないと指摘する。全方位外交は一時的戦略ではなく、現時点でカザフスタンの国家運営の基本原理である。首都アスタナは、ロシアからガスを購入し、中国と鉄道を建設しつつ、米国の原子炉向けにウランを販売するなど、複数の経路を同時に維持している。

重要なのは、いかなる単一のパイプラインや鉄道、契約によっても国家が締め上げられないようにすることだ。カザフスタンが目指すのは、常に「選択肢」を持ち続ける外交である。

外交上の有益な教訓

中央アジアの広大な大草原地帯をめぐる歴史には、西側諸国の政策立案者がいまだ十分に理解しきれていない教訓が隠されている。

清朝、ロシア帝国、ソ連といった歴史上の大国は、この地域で常に同じ選択を迫られてきた。辺境を搾取と規律の対象として扱うのか、それとも取り込み、尊重すべきパートナーとして遇するのか、その二者択一である。後者の道は時間も労力も要するが、長期的な安定をもたらすという点で格段に優れている。

歴史はその答えを示している。7世紀、唐の太宗は突厥系の将軍を最高位に登用し、娘たちを大草原の諸氏族に嫁がせることで、外交上の信頼関係を築いた。しかし現代の北京とモスクワは、この教訓をほぼ忘れているかのようだ。

一方、カザフスタンは異なるアプローチを取る。同国の指導者たちは、大国が辺境の民を「使い捨て可能」と見なした場合に何が起きるかを熟知している。飢饉、収容所、さらには世代を超えて現れる健康被害、歴史が繰り返してきた悲劇である。

だからこそ、カザフスタンは自らを誰にとっても不可欠な存在と位置づけ、いかなる大国にも従属しない独立の道を選んでいる。

米国をはじめとする西側諸国が、大草原の民に対して忍耐と敬意をもって関与すれば、アスタナは単なる資源供給地や輸送路の交差点にとどまらない。信頼に足る長期的なパートナーとなると同時に、ロシアと中共の間に潜む亀裂を際立たせる戦略的拠点となり得るのだ。

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