台湾の中国国民党の党首 鄭麗文氏は7日、訪問団を率いて中国を5日間にわたり視察するため出発した。現職の中国国民党(以後、国民党)党首が訪中するのは10年ぶりで、10日には各方面が注目する「鄭習会談」が予定されている。
専門家は、中国共産党(中共)政府が鄭麗文氏を招待した目的は台湾を弱体化させることであり、台湾島内の親中勢力を表舞台に引き出そうとする意図があると分析している。ただし、国民党は「統一も独立もせず現状維持」という台湾の主流民意から明らかに乖離しており、年末の選挙での審判を経て、国民党内の親中派と親米派が分裂する可能性があるとしている。
鄭麗文氏が7日午前11時30分に松山空港から中国へ出発したことを受け、一貫して台湾独立の実現を掲げる政党「台湾基進」は早い段階から声明を発表していた。台湾基進、台湾独立建国連盟、台湾国家連盟、経民連、台湾国の各団体は午前10時に松山空港に現れ、「鄭麗文は台湾を代表できない、台海の平和は国際問題だ」と題した抗議記者会見を開いた。
「鄭習会談」 台湾弱体化と親中勢力煽動を画策
中華民国の行政院長・卓榮泰氏は最近、いかなる団体も対岸との交流において公権力に関わる事項を扱ったり、政治的協定に署名したりしてはならないと厳重に警告した。台湾の中国大陸・香港及びマカオに関する業務(両岸問題)を担当する特別行政機関である大陸委員会も国民党に対し、中共の統一戦線工作による分断の罠に陥ってはならないと注意を促した。
国民党主席・鄭麗文氏の訪中招待に際して、中共の意図は何か。
台湾国防大学政戦学院前院長の余宗基氏は大紀元の取材に対し、中共が「鄭習会談」を設定したのは、台湾の親中勢力を表舞台に出させるためだと述べた。もし国民党が民進党政権を迂回して中共と直接、両岸交渉を行えるようになれば、台湾政府を孤立させると同時に、島内の親中勢力を勢いづけることができる。そのため今後、両岸の路線対立はさらに激化するとし、これは台湾を一層弱体化させるための政治的計算だとも述べた。
鄭麗文氏の訪中日程を見ると、搭乗した航空機が中国籍航空会社であるだけでなく、メディアの取材申請も国務院台湾事務弁公室を通じてしか行えない。余宗基氏はこれを、中共政府側の「内政化」の枠組みをそのまま受け入れたものだと批判し、台湾の主権を貶め、台湾を中国の一省と同列に扱うことになると指摘した。
民進党の立法委員・王定宇氏は5日、中共は「鄭習会談」を通じて「台湾が北京の定義する一つの中国を支持している」という構図を強化しようとしていると公表した上で、鄭麗文氏がまだ出発していない段階で既に台本は書き上げられており、役者が舞台に上がって演じるだけの状況だと指摘した。その後の政治的影響として、台湾人がいかにして中共の論調に同調するこうした政党や政治家を淘汰するかが焦点になるとも述べた。
連戦氏の子息・連勝文氏が鄭麗文氏に「言行を慎むよう」とブログに投稿したことについて、王定宇氏は、鄭氏が中共に過度に媚びることで年末の九合一選挙に影響が出ることへの懸念、台湾の法律の一線を犯すことへの懸念、あるいは2005年の「連胡会談」(連戦・胡錦濤)の歴史的権威に便乗しているとの見方を示すものではないかと述べた。
台湾大学政治学科名誉教授の明居正氏は、中共と交渉すること自体は否定しないとしつつも、問題はいかなる立場・基軸で臨むかだと述べた。中共は「反台湾独立」をただの駒として利用し、台湾内部に打ち込んで分裂させようとしているのだとし、その点が分からずに「反台湾独立」を掲げて交渉に向かうのは極めて笑止なことだと語った。
明居正氏はまた、中国共産党政府は台湾が武器を購入していることに不満を示し、中国と戦争するためだと非難しているが、中共政府自身が武器を購入しているのは台湾を攻撃するためではないかと指摘した。毎日のように軍用機や軍艦を台湾近海に送り込んで威嚇しているにもかかわらず、そのことすら指摘できないようでは、あまりにも情けないと受け取られるだろうと述べた。
中共は今回の機会を利用して台米関係を破壊しようとしている
中共政府が5月中旬に予定される「トランプ習近平会談」に先立ち鄭麗文氏を招待したことについて、明居正氏は新唐人の番組「新聞大破解」の中で、中共政府はこれを通じて交渉カードを作り出し、トランプ大統領に「反台湾独立」を盛り込んだ第4の共同コミュニケへの署名を求める可能性さえあると述べた。
明居正氏は、中共が中南米や中東で進めていた布石が米国によって次々と崩されている中、「トランプ習近平会談」前に一枚の切り札が必要であり、それが「鄭習会談」だと指摘した。中共政府はこれにより、両岸間に既に平和が実現しているかのように主張し、トランプ氏に対して台湾への武器売却を思いとどまらせようとするとも述べた。
余宗基氏は大紀元の取材に対し、国民党は与党ではないが国会の多数党であり、多数の民意を代表しているとして、中共がこうした操作を意図的に行っていると述べた。
さらに余宗基氏は、国民党が現在、台湾の対米武器購入を阻止するために中共に協力している状況の中で、中共は当然この機会を利用し、台湾の多数党党首である鄭麗文氏という立場を通じて、台湾の民意が米国製武器の購入を望んでいないことを米国側に伝達しようとしていると述べ、米国が反論する余地をあらかじめ封じ込めるための布石だと指摘した。
余宗基氏はまた、これは明らかに米台関係を破壊しようとするものであり、米国に手がかりを与えないための策略でもあると述べた。中共はこれを中国の内政問題として位置付け、中共政府による台湾への浸透が国家の重要政策に影響を及ぼし得る水準に達していることを示そうとしているとも述べた。
「鄭習会談」が成果なければ、国民党内部が分裂する可能性
鄭麗文氏の訪中出発を前に、米セント・トーマス大学国際研究の招聘教授・葉耀元氏はBBCチャイニーズの取材に対し、鄭麗文氏の親中・疑米路線は明確だが、党内で2028年の総統選出馬を視野に入れる台中市長の盧秀燕氏や他の幹部は、親米・ハト派の戦略路線を採っていると述べた。
葉耀元氏は、「鄭習会談」が最終的に実質的な成果を得られず、むしろ逆効果となった場合、盧秀燕氏を代表とする「中華民国派」の比較的親米な派閥が、選挙後に徐々に表面化し党内で巻き返しを図る可能性があると指摘した。
両岸の動向に詳しい国民党関係者が日経アジアに語ったところによると、米国が国民党に対して頼清徳政権の国防予算凍結解除を求める圧力をかける中、前主席の朱立倫氏や台中市長の盧秀燕氏ら党内の重鎮は国防費支出への支持を相次いで表明しており、朱立倫氏に近い一部の党員が鄭麗文氏と距離を置き始めているという。
前主席の朱立倫氏は3日、「鄭習会談」が国民党にとって大きなプラスになるかを問う記者団に対し、両岸間の対話や交流はいずれも良いことであり、全てが順調に運ぶことを願うとだけ述べた。
台中市長の盧秀燕氏は3月21日、米国訪問の招待日程を終えて帰台した。民進党所属の台中市議員・江肇国氏は30日の議会の専案報告で「鄭習会談」と藍営(国民党およびその関連政党・勢力)の路線について盧秀燕氏に質問したが、盧氏は多くのコメントをせず、「市政以外の議題には回答しない」との姿勢を繰り返し強調した。
また、民視新聞網が3月28日に報じたところによると、立法院長・韓国瑜氏と鄭麗文氏は同じ交流イベントに参加したが、両者の様子はどこかぎこちないものだった。同じテーブルに座りながらも間には見えない壁があるようで、鄭麗文氏が歩み寄って会話を試みたものの、普段は人懐っこい韓国瑜立法院長はほとんど反応を示さず鄭麗文氏と距離を保ち、もう一人入れるほどの間隔があった上、視線さえも逸らす場面があったという。
余宗基氏は、盧秀燕氏を中心とする国民党の親米派には、蔣万安氏、張善政氏、韓国瑜氏らも含まれると述べた。鄭麗文氏の訪中が中共に同調して対米武器購入を阻止し、台湾の国防予算を最後まで断固として否決するという結果に終わった場合、国民党内の親米派と親中派の決裂は避けられないとも述べた。
国民党の分裂の可能性について、賴榮偉氏は、国民党は内部の派閥争いや路線対立に事欠かないとした上で、「鄭習会談」以降、特に年末の選挙を見据えて、党内の勢力・路線争いは一層二極化するだろうと述べた。
一つは、現実志向の本土派(ローカル志向)であり一つの中国を認めつつ解釈は各自という「九二共識」の立場を堅持し、さらに中華民国としての主体性(国家アイデンティティ)を重視する立場である。もう一つは、将来的に本土志向の「深藍」勢力(親中寄りの保守層)が形成される可能性があり、加えて中国市場と利害関係を持つ層が、そちら側へと接近していく動きも排除できない、という見方である。
賴榮偉氏はまた、百年の歴史を持つ国民党が年末の選挙で期待外れ、あるいは大敗した場合、離党して新党を結成する動きが出ることも珍しくなく、路線の整理が行われた後に新たな人材が台頭してくるだろうと述べた。
世論調査 国民党主席・鄭麗文氏、台湾の主流民意から乖離
美麗島電子報が4月1日に発表した3月の最新世論調査によると、国民党主席・鄭麗文氏を信頼するとの回答は23.9%(うち「非常に信頼する」3.7%、「まあ信頼する」20.2%)にとどまった一方、不信任は54.5%(うち「非常に不信任」38.4%、「やや不信任」16.1%)に上った。
これについて台湾の東海大学政治学科教授の張峻豪氏は台湾メディアの取材に対し、国民党は「トランプ習近平会談」に向けた中共政府によるいわゆる「一つの中国」宣伝のツールと化していると指摘した。国際化が進む現実の中で、鄭麗文氏が「一つの中国・九二共識」を唱え、対米武器購入反対を声高に主張することは、台湾の民意や台湾の利益から遠ざかるだけでなく、国民党内の主流的な考え方からも遠ざかっていると述べた。
世論調査ではまた、国民党への反感度は新北市で61.1%と藍営の執政地域の中で最も高く、全台湾でも高雄・屏東地区に次ぐ高さとなった。
張峻豪氏は、新北市は都市型の高度に多様な地域であり、南北各地から多くの人口が流入する場所として、いわば台湾の縮図ともいえると述べた。新北市の有権者は政治的なイデオロギーよりも経済的利益を重視しており、鄭麗文氏が自らの政治的イデオロギーを極端な方向で強調し続ければ、強い反発を招くのは当然だと述べた。
台湾励志協会執行長の賴榮偉氏は大紀元の取材に対し、台湾の主流民意は「統一も独立もせず現状維持」であり、急進的な統一路線や鄭麗文氏の「私は中国人だ」との主張を支持しないと述べた。鄭麗文氏が唱える九二共識は「各自表述(それぞれが独自に表明・解釈する)」の部分を取り除き「一つの中国」原則の堅持だけを残したものであり、国民党内部および台湾の多数の有権者の反発を招いているのは当然だと述べた。
賴榮偉氏はまた、鄭麗文氏のこうした姿勢は習近平に迎合するためのものであり、中共の意図的な操作のもとで、台湾の民意が「台湾は中国の一部」を支持していると国際社会に誤解させかねないと懸念を示した。
余宗基氏は、台湾の圧倒的多数の民意は鄭麗文氏を支持しておらず、一般市民はとっくに、習近平が権力を掌握して以来、中華民国が存在しうる空間は完全に失われたと見切りをつけていると述べた。
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