中国共産党の「民族団結と進歩の促進に関する法律」は7月1日に施行された。これは強制的同化政策を公然と法制化し、越境弾圧を合法化するものである。しかし、単に同化と言うよりも重要なのは、何へ同化させるのかという点である。「中華民族共同体」は単なる隠れみのにすぎない。
文化宣伝 党の指導と社会主義
7月1日、中共が打ち出した「中国民族団結と進歩の促進に関する法律」が正式に発効した。中共系メディアによれば、同法は初めて法理の面から「中華民族共同体意識の確立」と「中華民族共同体建設の推進」を説明したものだという。しかし、中華民族共同体とは何かについて、「促進法」は説明していない。
だが同法の中には、実際には間接的な説明がある。それは中共の党の指導と社会主義核心価値観である。
同法が求める民族文化の宣伝教育の順序は、中共の歴史、いわゆる新中国史、すなわち中共の執政史、改革開放史、社会主義発展史であり、最後にようやく中華民族発展史が置かれている。しかも、この中華民族発展史も中共が編さんした版である。
つまり、空疎な「民族」という概念は、中共と社会主義という具体的な内容に置き換えられているのである。
強権で党文化を推進 中華文化ではない
言語規範の面では、「促進法」は国家共通語・文字を強調している。これは不思議なことではない。多くの国には一つの公用語があり、米国であれば英語である。もっとも、以前は法律上の公用語ではなかった。しかし、米国の公的機関は他の言語を排斥せず、強制的におとしめたり差別したりすることはない。多くの新移民は米国に来た当初、子どもを学校に通わせる際、学校側から、児童の英語については学校が責任を持つが、家庭では子どもの母国語を維持してほしいと伝えられた経験を持つ。
中共のいう国家共通語・文字とは、簡体字と標準中国語「普通話」であり、実際には中共によって改造され、党文化に満ちた言語と文字である。
これは少数民族に対する強制的同化であり、漢化ですらない。党化である。なぜなら漢族地域でも、中共は同じように地方の方言や文化を強制的に抑圧しているからだ。中国の多くの方言は、各時代の官話が変化して伝わったものであり、長いものでは2000年の歴史を持ち、いずれも無形文化遺産に申請できるものである。
実際、中国の歴史上、最も重要だったのは人種や民族への帰属意識ではなく、文化的帰属意識であった。そして、この文化的帰属意識は中華文化の魅力に依拠したものであり、権力による強制ではなかった。
「促進法」における香港・マカオ政策が依拠するのは権力であり、台湾政策が依拠するのは統一戦線工作である。文化の面から見れば、台湾こそが真の中国伝統文化を継承している。行政上の帰属を論じないとしても、民族文化の面において、中共は正統ではない。
域外管轄権 越境弾圧の合法化 海外華僑も中共法に従うのか
この「促進法」で最も露骨なのは域外管轄権である。第6章第63条は、国外の組織または個人を明確に対象とし、中国本土の外で民族団結と進歩を破壊し、分裂をつくり出す行為を行った場合、法に基づき法的責任を追及するとしている。
これは主に、ただしそれに限らず、チベット人とウイグル人の亡命コミュニティーを指しているとみられる。彼らは海外に亡命した最大の少数民族集団を構成しているからである。
しかし、ここで問題となるのは、どのような行為が民族団結と進歩の破壊に当たるのか、誰がそれを定義するのか、基準は何かという点である。国外で行われる活動は、所在国の法律に従えばよい。法に基づき追及するというが、どの国の法律に基づくのか。中共の法律なのか。
これは中共が一時の思いつきで口にしたでたらめではない。この「促進法」の中でも、指導思想の筆頭に置かれているのは依然としてマルクス・レーニン主義である。マルクス主義は、世界全体で共産主義を実現しようとするもので、冷戦終結後、中共は共産主義運動の旗振り役を引き継ぎ、共産主義を最後まで進めると誓った。
中共にとって、共産主義運動に国境は存在しない。現在なおかろうじて国際ルールを守っているのは、単に力が不足しているためにすぎない。
中共の海外警察拠点はその一例である。2022年9月、非政府組織「セーフガード・ディフェンダーズ」は、中共が53か国に100か所以上の「海外警察拠点」を設けていたとする報告書を最初に公表した。その後、米連邦捜査局(FBI)が捜査に入り、同年秋にはニューヨークの中共警察拠点が閉鎖され、事件に関わった親中共系の華僑団体幹部2人が逮捕され、最終的に有罪判決を受けた。しかし、中共は米国でつまずいたからといって、自ら世界各地の海外警察拠点を縮小したわけではない。
フランスにあった9か所の中共警察拠点は、2025年5月にフランスの防諜機関によって摘発されるまで運営を続けていた。事件に関わった者は国外退去処分を受けた。他国にある中共警察拠点も、その国の当局によって取り締まられていない限り、居座り続けるとみられる。中共は他国の主権侵害を当然のこととみなしており、現行犯として摘発されても平然としている。
中共が域外管轄を法律に書き込んだことは、越境弾圧を合法化し、他国の主権と国際法に公然と挑戦するものである。国際社会に取り得る対応は一つしかない。正面から強く対抗することである。しかも、一度で解決できると期待すべきではない。中共は波状的に攻撃を仕掛けてくるため、少しでも気を緩めれば対応を誤ることになる。
少数民族に圧力をかけ「民族同化政策」を合法化
中共はなぜ今、この法律を打ち出したのか。主な目的は、中共のいわゆる民族同化政策を合法化することにある。全国人民代表大会副委員長の李鴻忠が示した公式説明によれば、それは「民族工作の強化と改善に関する習近平の重要思想、とりわけ『中華民族共同体意識を確立する』という理念を国家意思に転化する」ことだという。さらに当然ながら、新疆の強制労働、チベットの寄宿学校、少数民族の言語・文字の消滅などをめぐる海外からの批判に対抗する役割もある。
しかし、この法律は海外の見方に反論するものではない。なぜなら、法律は実際にはこうしたやり方の存在を否定しておらず、立法という形で外部に口を閉ざさせようとしているからである。
チベットの寄宿学校を例に取ると、今回の国務院新聞弁公室による「促進法」に関する記者会見で記者の質問に答えた中共統一戦線工作部副部長の段毅君は、寄宿制は中共が民族平等を堅持していることを反映するものだと述べた。義務教育法は、県級政府が必要に応じて寄宿学校を設置すると定めているからだという。これはまさに、寄宿学校が中共の必要に基づくものであり、チベット人の必要に基づくものではないことを示している。段毅君はさらに、チベット人は子どもを寄宿学校に入れる意欲が強いとも述べた。これもまた、中共がチベット文化を消滅させる行為を行っていることを証明している。
チベット人の伝統教育は学校ではなく寺院で行われてきた。家庭から1人の子どもをラマにすることは、1977年頃の中国本土で一家から1人の大学生が出るのと同じほど盛大な出来事であった。しかし中共はさまざまな手段でこれを制限し、寺院の僧侶数に厳格な定員と審査を設け、時には定員を強制的に引き下げ、18歳未満の青少年が寺院に入って出家することを厳しく禁じている。さらに主要寺院には公式の工作チームや「駐寺幹部」を派遣している。
これは行政手段によって伝統的な寺院教育制度を断ち切り、チベット人を中共の運営する教育制度へ移行させるものである。
中共の二つの手法が民族対立を深める
中共の民族政策はソ連から学んだものだが、ソ連とはやや異なる道を歩んだ。ソ連は構成共和国という方式を用い、ロシア人以外の地域をソ連に加盟させて併合した。連邦制であったため、後にソ連が崩壊すると、少数民族に属する多くの構成共和国が再び独立した。
中共は、人口が多く集住している少数民族に対し、少なくとも名目上は民族自治という方式を採用した。広西、チベット、新疆、寧夏はいずれも自治区である。そして少数民族に対する政策は、アメとムチの二つの手法であり、平等ではあり得ない。アメは多くの優遇政策を与えることであり、進学、就業、さらには犯罪の量刑にまで優遇がある。ムチは、問題が起きれば武力で強力に鎮圧することである。
この二つの手法を用いた結果は、民族対立を緩和するのではなく、むしろ深めるものであった。しかし、これは中共の分断統治政策に非常によく合致している。異なる民族が互いに争うことに忙殺されていれば、中共は自らの統治が安定したと考えるのである。しかし、中共統治下の民族問題は、この法律によって解決されることは決してない。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。