台湾・漢光42号軍事演習 分散指揮 通信制限 予備役動員で検証した社会全体の防衛体制

2026/08/14 更新: 2026/08/14

台湾で最大規模の年次軍事防衛演習「漢光42号」の実動演習が8月5日から14日まで実施された。分散型指揮や予備役動員、通信回線の制限、重要インフラ防護、海上封鎖への対抗訓練などを通じ、中国共産党による侵攻やグレーゾーン圧力を想定した台湾の総合防衛態勢を検証した。

「漢光42号」の実動演習が、8月5日から14日までの10日間9夜にわたり実施された。台湾本島では実際の部隊を投入する一方、実弾射撃は行わず、離島では一部で実弾も使用する形式を採った。

今回の演習では、分散型指揮の強化、米軍の「リバース・ブリーフィング」制度の導入に加え、携帯電話回線の通信速度を意図的に低下させる初の試験も行われた。軍、政府、企業、民間が連携し、戦時の危機に対処する能力を検証する狙いがある。

分散型指揮とリバース・ブリーフィングで現場判断を強化

漢光演習は1984年の開始以来、中国共産党による武力行使の脅威に備える台湾の重要な防衛訓練として位置づけられてきた。今年4月には14日間13夜に及ぶコンピューター兵棋演習を終え、8月に実動演習へと移行した。

国防部は今年、統合兵科運用、リバース・ブリーフィング、後方支援訓練、戦闘訓練、標準作業手順(SOP)の検証などを重点項目とした。

このうちリバース・ブリーフィングは、命令を受けた現場の指揮官や幹部が、任務の内容と実施構想を改めて上官に説明する仕組みである。上級指揮官と現場部隊の双方が、作戦の意図を同じように理解しているかを確認するための制度である。

通信が途絶したり、指揮系統が妨害されたりした場合でも、第一線の部隊が上級指揮官の意図に基づき、自律的に判断して迅速に行動できるようにすることが目的である。また、戦場で得られた情報を部隊間で横断的に共有することも重視される。

国防部によると、演習は想定外の事態を随時追加する、台本を設けない方式で実施された。陸海空、宇宙、サイバー空間など複数の領域で敵の行動を阻止する「多領域拒否」と、攻撃を受けても防衛機能を維持する態勢の強化に重点を置き、実戦に近い環境で部隊の対応力を高めることを目指した。

「漢光42号演習」は6日、2日目を迎えた。台北市内の各所では、演習任務に当たる雲豹装輪装甲車が市街地を走行する姿が見られた。(中央通信社)

予備役動員・通信制限・供給網を含む社会全体の防衛訓練

今年の漢光演習では、軍事指揮にとどまらず、民間の動員、通信の代替手段、医療救護、交通規制、物資配分、防衛産業の供給網まで、検証の範囲が広げられた。

軍は武器工場や生産ラインの移転を想定し、戦時に民間の防衛関連請負企業が軍需生産へ転換できるかを検証した。また、「同心36号演習」と連動し、北部の台北予備役旅団と南部の第137旅団で旅団規模の動員を実施した。5,000人を超える予備役を招集し、招集手続き、部隊の再編・戦力化、担当地域での作戦遂行能力を確認した。

政府は都市部を対象とする防空・危機対応演習の期間中、初めて30分間にわたり携帯電話回線の通信速度を低下させる試験を行った。通信が制限された環境で、軍と民間が代替の通信手段をどの程度確保できるかを検証するためである。試験中も、ATM、交通信号、固定電話、SMSなどのサービスは維持された。

軍は同時に、報道関係者が軍の活動に同行して取材する仕組みを初めて導入した。戦時における情報発信の迅速性を検証し、偽情報や認知戦への対応力を高めることが目的である。

斬首作戦を想定 総統府・空港・重要インフラを防衛

台北市の博愛特区では8月5日夜、「斬首作戦」への対抗を想定した退避演習が実施された。賴清徳総統は憲兵の即応部隊の護衛を受け、雲豹装甲車に乗車し、総統府から円山指揮所へ移動する状況を想定した。演習の目的は、政治・軍事上の意思決定中枢が突発的な攻撃を受けた場合でも、指揮機能を維持できるかを検証することにある。

演習では、重要な交通インフラや基幹施設の防護も重視された。陸軍第53工兵群は淡江大橋と淡水河の水路に障害物を設置し、敵軍が八里や台北港の方向から台北市内へ進入するのを阻止する状況を想定した。

桃園国際空港では、敵の空挺降下を想定した対空挺作戦訓練が行われ、M1A2T戦車と雲豹装甲車が空港内に配置された。敵軍による滑走路や兵站拠点の奪取を阻止する想定である。

陸軍航空部隊はCH-47SDチヌークとUH-60Mブラックホークの各ヘリコプターを用い、南部の兵力を北部へ迅速に輸送した。南北をまたぐ増援と機動展開の能力を確認するためである。

2026年8月8日、賴清徳・中華民国(台湾)総統が、「漢光42号演習」の「沿岸打撃・近岸防衛」訓練を視察した。(中華民国総統府提供)

海上封鎖にどう対抗するか 沿岸防衛と船団護衛を訓練

台湾は中国との軍事力格差を踏まえ、近年、非対称戦力を活用して敵の海上進出を阻む戦略を急速に整備している。7月1日に編成された海軍沿岸作戦指揮部は、今回初めて漢光実動演習に参加した。機動式レーダー、地上配備型対艦ミサイル、無人システムなどを組み合わせ、沿岸への打撃と近海防衛に関する訓練を実施した。

今年は初めて、海上封鎖への対抗を想定した船団護衛作戦も重点項目に加えられた。台湾軍と海上警察海巡署は西太平洋で物資の中継輸送や船団護衛の訓練を行い、海上交通路の安全確保と重要物資の輸送を維持する能力の向上を目指した。

台湾は雄風2型・3型対艦ミサイル、ハープーン対艦ミサイル、沱江級コルベットの配備を続ける一方、無人機や無人艇の運用も加速させている。こうした戦略の核心は、全面的な制海権の獲得ではない。分散配置され、高い機動性を持ち、継続的に運用できる火力によって、敵艦隊が台湾海峡や沿岸海域へ進入する際の負担を増大させることにある。

「漢光42号」実動演習は7日、3日目を迎えた。同日午前、陸軍第53工兵群は、淡水河の航路を阻害する障害物を設置する訓練を実施した。河川内には3重の障害物が設置され、第1層には固定式の漁網、第2層にはドラム缶を用いた浮き、第3層には上陸阻止用の鋼製障害物「チェコ・ヘッジホッグ」を取り付けたドラム缶製の浮きが配置された。(中央通信社)

中国共産党のグレーゾーン圧力と台湾の安全保障課題

台湾が防衛態勢を強化する一方、中国共産党は軍事演習を繰り返すほか、中国海警局の船舶、調査船、漁業調査船などを活動させ、継続的に圧力をかけている。法律戦、情報戦、グレーゾーン行動が組み合わさった複合的な脅威となっている。

7月には、中国農業農村部が漁業調査船「藍海201号」を台湾東部の排他的経済水域(EEZ)に派遣し、中国海警局の船舶がこれに同行した。これに先立ち、調査船「向陽紅22号」も台湾が設定する制限・禁止水域に進入し、台湾側から退去を求められた。

台湾の海巡署は、こうした行動が台湾の主権を侵害していると批判している。また、中国側が継続的な活動を通じて行政権の行使を既成事実として積み重ね、係争海域における管轄権の主張を段階的に拡大しようとしているとの見方を示した。

漢光42号演習の意義は、単に新型兵器や軍事動員を示すことにあるのではない。通信の途絶、重要施設への攻撃、海上輸送路への脅威、認知戦が同時進行する状況下で、台湾が政府機能、社会秩序、持続的な防衛能力を維持できるかを総合的に検証する点にある。

程木蘭
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