高市早苗首相は第81回国連総会の一般討論演説で、国際情勢が厳しさを増す中、「法の支配」に基づく国際秩序を維持・強化する必要性を訴えた。日本の国連加盟70周年の節目を踏まえ、国連改革や経済安全保障、核軍縮・不拡散、気候変動、人工知能(AI)など幅広い課題で日本が国際社会への貢献を強化する方針を示した。
高市首相は、国連憲章に残るいわゆる「旧敵国条項」について、「早急に削除されるべきだ」と要求した。2005年の国連首脳会合成果文書では、加盟国が国連憲章の「敵国」への言及を削除することを決意している。高市氏は、日本が国連加盟後70年間にわたり国際社会に貢献してきたとして、条項削除を改めて訴えた。
さらに、ロシアによるウクライナ侵攻などを念頭に、武力による一方的な現状変更を認めない姿勢を強調した。国連安全保障理事会が十分に機能していない現状を指摘し、国際司法裁判所(ICJ)や国際刑事裁判所(ICC)、国際海洋法裁判所(ITLOS)などを通じた法の支配の重要性を訴えた。
紛争の平和的解決に向けては、日本政府が3月に設置した国際和平調停ユニットを活用し、外交的な関与を強める考えを示した。また、ホルムズ海峡やバブ・エル・マンデブ海峡などでの航行の自由を重視し、国際的な物流やエネルギー供給の安定確保に取り組む姿勢を示した。国際和平調停ユニットは3月17日付で外務省に設置されている。
経済安全保障では、「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」の下で、エネルギーや重要鉱物を含むサプライチェーンの強靱化を進める方針を表明した。各国が他国からの威圧に左右されず、自らの将来を選択できる環境づくりを重視する考えである。高市氏は渡米前にも、エネルギーをはじめとするサプライチェーンの強靱化やグローバルサウスとの連携を一般討論演説の主要テーマに挙げていた
具体策として、グリーン・トランスフォーメーション(GX)を通じてエネルギー・資源供給を強化する「POWER GX」や、アジア地域の備蓄や供給能力の強化を図る「POWER Asia」を推進する。中東・湾岸諸国とも経済・エネルギー供給の強靱化に向けた包括的な協力計画を進め、世界的なエネルギー供給の安定につなげる考えを示した。
重要鉱物では、特定国への過度な依存を避けるため、サプライチェーンの多角化を進める。日本は世界銀行グループと進める「RISE(強靱で包摂的なサプライチェーンの強化)パートナーシップ」を拡充し、新たな支援枠「RISE+」に2千万ドルを拠出する。鉱物産出国でのインフラ整備や民間投資を促し、採掘から精錬までの供給網強化につなげる狙いである。
安全保障分野では、唯一の戦争被爆国として「核兵器のない世界」の実現を目指す立場を改めて示した。核兵器不拡散条約(NPT)体制の維持・強化や核戦力の透明性向上を重視し、核軍縮・不拡散に向けた国際的な取り組みを主導する考えを表明した。
北朝鮮については、核・ミサイル開発に加え、ロシアとの軍事協力や暗号資産窃取を含むサイバー活動への警戒を示した。日本人拉致問題については「一刻も早く解決しなければならない」と訴え、日朝平壌宣言に基づき諸懸案を解決し、国交正常化を目指す考えを示した。その上で、日朝首脳会談を念頭に「対話し、具体的に行動する用意がある」と表明した。
地球規模の課題では、防災や脱炭素、AIを重点分野に位置付けた。高市氏は、日本が蓄積してきた防災の技術や知見を国際社会に共有・貢献するため、内閣改造で新たに「国際防災リスク削減協力担当大臣」を設置したことを紹介。自身が2015年に総務大臣として出席し採択された「仙台防災枠組」の推進を重要課題に掲げ、その一環として2027年10月に仙台市で「アジア太平洋防災閣僚級会議(APMCDRR)」を主催する方針を表明した
気候変動対策では、2050年ネットゼロを見据え、グリーンスチールや高効率ガス火力、省エネルギー型データセンターなどの技術を活用し、脱炭素と経済成長の両立を目指す。「アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)」などを通じ、各国の事情に応じたエネルギー転換を後押しする考えを示した。
AIについては、技術革新が大きな利益をもたらす一方、偽情報やプロパガンダの拡散など安全保障上の課題にもつながると指摘した。「広島AIプロセス」などを通じて、安全で信頼できるAIの国際的なルール形成を進め、「AIサミット」の早期日本開催を目指す方針を改めて示した。
国連改革では、安全保障理事会の常任・非常任理事国双方を拡大し、現在の国際社会をより適切に反映した組織へ改革する必要性を強調した。
高市氏は、国連が国際社会の平和と繁栄を支える役割を果たせるよう、日本が改革に積極的に関与する姿勢を強調した。法の支配を軸に、経済安全保障、防災、脱炭素、AIなどを組み合わせ、より強靱な国際社会の構築に貢献する考えを示した。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。