中国製EV カナダで安全保障リスク浮上 関税引き下げに専門家が警鐘

2026/10/07 更新: 2026/10/07

カナダでは、中国製コネクテッドEVの流入拡大が見込まれるなか、貿易問題に加え、国家安全保障や重要インフラへの影響を懸念する声が出ている。

低価格の中国製EVは一部の欧米市場で存在感を強めている。価格を重視する消費者にとっては手頃な選択肢となる一方、国家安全保障上の重大なリスクを抱える可能性があると専門家は指摘する。

カナダ・オタワに拠点を置くシンクタンク、マクドナルド・ローリエ研究所は今週、「安い車、高い代償 中国製EVの安全保障リスク」と題する約90分の討論会を開催した。業界や政策の専門家が、カナダと中国製EVをめぐる合意がもたらす影響について議論した。

カナダ政府は、中国製EVに対して2024年に導入した100%の追加関税を撤廃した。この措置は当時、米国と歩調を合わせて導入したものだ。その後、カナダは中国製EVへの関税を100%から6.1%に引き下げ、中国側もカナダ産キャノーラへの関税を引き下げた。

合意では、まず年間4万9千台を上限に、中国製EVへ低い関税を適用する。輸入枠は今後、段階的に拡大する見通しだ。

中国製EVが抱える安全保障リスク

中国問題の専門家で、オタワ大学上級研究員のマーガレット・マクウェイグ=ジョンストン氏は討論会で、中国製EVには安全保障上の懸念があると指摘した。

同氏によると、中国製ソフトウェアを搭載したEVは、車載カメラやマイク、位置情報などのデータを収集し、中国へ送信する可能性がある。こうした情報が中国共産党(中共)に渡れば、「われわれの街路の細部に至るまで」把握されかねないという。

マクウェイグ=ジョンストン氏はまた、米エネルギー省が2025年1月に公表した「車両と電力網の統合評価報告書」を挙げた。同報告書は、EVと電力網を接続するシステムがサイバー攻撃にさらされる恐れがあると警告している。

同氏は、中共がEVの車載OSの脆弱性を利用し、充電中の多数の車両から一斉に電力を放出させるなどして、電力網に急激な負荷をかける危険性もあると指摘した。

こうした攻撃によって電力網が不安定化し、北米の広い範囲でブラウンアウトが起きる恐れがあるという。ブラウンアウトとは、電力系統の電圧が一時的に低下する現象を指す。

遠隔操作で車両停止の懸念も

討論では、遠隔操作によって車両を停止させる「キルスイッチ」も懸念材料として挙げられた。

マクウェイグ=ジョンストン氏と、米海軍大学院の研究職教員でエネルギー安全保障の専門家でもあるブレンダ・シャファー教授は、車載ソフトに組み込まれたキルスイッチが外部から操作されれば、車両を突然停止させることもできると警告した。

地政学的な危機や外交上の対立が起きた際、多数の車両が同時に停止すれば、交通網が麻痺し、大都市圏で深刻な渋滞を引き起こす恐れがあるという。

「こうした脅威は理論上のものでも、単なる誇張でもない。実際に、さまざまなキルスイッチや遠隔操作機能を発見している研究機関がある」

マクウェイグ=ジョンストン氏は、低価格を理由に中国製EVを選ぶ一般のカナダ人にとっても、こうした問題は無関係ではないと指摘した。

同氏は「中国製EVを購入しようとする一般のカナダ人にとっても、これは現実的な問題だ」と述べたうえで、消費者の中にはプライバシーより価格を優先する人もいるかもしれないと指摘した。

また、車内で交わされる日常会話からも、機密性の高い情報が収集される可能性があるとした。例えば、夫婦が銀行口座などについて話す場合も考えられる。

同氏は中共側がこうしたデータを利用しないと考えるのは「甘い」と指摘した。

シャファー氏も同様の懸念を示した。

英国国防省が、スパイ活動やデータ送信への懸念から、中国メーカーや中国系サプライチェーンと関係するEVの車内に警告ステッカーを貼る措置を取ったことを例に挙げた。

シャファー氏は「それにもかかわらず、カナダは今年、こうしたリスクを認識しながら中国製EVの輸入開始を決めた」と述べ、「意外な判断だ。カナダは他国の失敗から学べたはずだ」と指摘した。

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経済面のリスク

カナダ自動車製造業者協会(CVMA)のブライアン・キングストン会長も討論会に参加した。キングストン氏は、カナダ政府による中国製EVへの関税引き下げに以前から強く反対している。

同氏は、中国製EVをめぐる通商政策や規制について、カナダは米国と足並みをそろえる必要があると指摘した。

米国は、中国製EVに対して通商法301条に基づく100%の追加関税を維持しているほか、コネクテッドカー技術にも国家安全保障上の規制を設けている。米政府は、カナダが中国製EVへの関税を引き下げたことにも批判的で、北米市場全体への影響を懸念している。

カナダと米国の間では貿易摩擦が続いているものの、キングストン氏は、自動車分野で合意することは双方の利益になるとの見方を示した。カナダは、米国にとって世界最大の自動車輸出市場だ。

「米国が中国製自動車を締め出す政策を取るのであれば、われわれも同じ対応を取らなければならない。そうでなければ、米国市場へのアクセスが損なわれる恐れがある」

キングストン氏は、自動車産業は60年以上にわたり、米加両国にまたがる緊密なサプライチェーンに支えられてきたと指摘した。

また、中国はカナダにとって公平な貿易相手とは言えないとの見方を示した。中共当局は、カナダ経済の基盤となるルールに基づく貿易や投資の原則を守っていないと主張した。

さらに、中国の製造業は政府から大規模な補助金を受けており、カナダ国内の自動車工場が公平な条件で競争することは難しいと指摘した。

「これは中国が以前から用いてきたよく知られた戦略だ。しかも、その目的については多くの場合、かなり明確に示している」

キングストン氏は「中国はこうした方法で経済成長を進めてきた。しかし、われわれがそのモデルを受け入れ、その結果として自国の産業が破壊されるようなことを許してはならない」と語った。

キングストン氏は、中国をめぐるリスクを「甘く見た」例として欧州を挙げた。

同氏によると、中国製EVは欧州市場で急速にシェアを伸ばし、現在約10%を占めている。2030年には、この割合が約2倍になるとの予測もあるという。

同氏は、こうした中国製EVの急増も一因となり、欧州の自動車産業では2024~25年に10万人を超える雇用が失われたと述べた。

また、「EUは中国から約100万台の自動車を輸入している一方、中国への輸出は約16万台にとどまる。つまり、欧州の自動車産業は中国との競争によって徐々に弱体化している」と指摘した。

キングストン氏は、中国では労働規制や環境規制がカナダほど厳しくないため、より低いコストで自動車を生産できることも競争上の優位につながっているとした。

「多くの場合、労働者の権利はほとんど保障されていない」

カナダでは、自動車産業の労働組合ユニフォーに加盟する従業員の時給が44.50カナダドルに達する一方、中国では同程度の賃金を支払う必要がないと指摘した。

また、中国では比較的安価な石炭火力発電を利用できる一方、カナダでは低炭素電源を中心とした電力網を利用しており、こうした違いも生産コストの差につながっているという。

こうしたコスト面の優位を背景に、中国では国内需要を大幅に上回る数のEVを生産している。一方、キングストン氏によると、北米では年間約400万台分の供給不足があるという。

キングストン氏は「中国では国内需要の約2倍の自動車を生産している。では、その余剰分はどこへ行くのか。世界各地の市場に大量に流れ込んでいる。われわれが直面しているのは、まさにこうした状況だ。カナダ経済、とりわけ自動車産業にとって大きなリスクとなる」と語った。

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