愛される国宝パンダ 映画主人公とは異なる 悲しき運命

2011/06/24 更新: 2023/03/17

【大紀元日本6月24日】6月中旬に封切られた「カンフーパンダ2」は、アメリカをはじめ中国、ロシア、韓国、インドの映画界で大ヒットを記録している。映画の主人公パンダ・ポーは、カンフーの達人たちと平和の谷の住民に愛され、楽しく暮らしている。しかし実際、パンダは中国の外交エージェントとして、商売道具として海外へ送られ、多くはその地で子を持たぬまま死ななければならない運命にある。

生殖機能の弱い、デリケートなパンダ

四川省や陝西省など中国のごく限られた地域にだけ生息し、笹を好むパンダ。ユニークな白黒模様を持つ、でっぷりとした愛嬌ある姿のこの動物は、世界中の多くの人々に愛されているはずだ。

しかしそのパンダは大変脆弱な生殖能力とデリケートな性格であるため、子供を産ませるには、高度な技術と環境条件が求められる。雄の70%には交配意欲がなく、90%は無精子だ。さらに雌のパンダの排卵は年に一度だけで、受胎が可能な期間は数日ほどである。

四川省で笹を食べて平和な生活を楽しんでいる期間以外、パンダは「外交エージェント」として海外赴任し、その国の気候条件や食物、自然環境に適応することを強いられる。統計によると、1984年までに外交目的で海外に贈られた24匹のパンダのうち、自然死を迎えられたのはごくわずかで、ほとんどが消化器系の病気で死亡した。現在、ドイツの1頭とメキシコの3頭だけが子孫を残すことに成功している。

80年代末、絶滅危惧の声が国際社会の中で高まって以降、パンダは「外交エージェント」から「学術研究」という商売道具として扱われている。先進国で飼育され、2、3カ月から10年まで期間契約されるレンタルパンダは、まだ生殖の問題が解決されていない。パンダは異性であっても仲間に対して非常に気難しく、多くは孤独でいる。その上、人工授精の成功率はきわめて低い。

これらの繊細な条件は、外国の動物園の頭を悩ませている。たとえば日本のリンリンは、交配目的でメキシコへ3度も輸送された上、一度も成功しないまま2008年に死亡した。ドイツ・ベルリン動物園は、雌のイェンイェンの生殖のため、中国に長く出張していたが2007年に死亡。2010年には、海外へレンタルされたパンダが計4頭死んだ。うち2頭の死因は流産によるものだ。

パンダ外交の歴史

パンダが外交道具として扱われてから、すでに70年の歴史を数える。1941年に、蒋介石夫人の宋美齢氏がつがいのパンダをアメリカ政府に贈ったのが初めてとされ、続いて1946年、イギリスにも贈っている。その後パンダは中国の国家的寄贈品として扱われるようになった。初来日は1972年、当時の田中角栄首相が中国周恩来首相から受け取ったランラン(蘭蘭)とカンカン(康康)で、当時、日本に熱狂的なパンダ旋風を巻き起こした。

中国は、アメリカの東西両岸から中米メキシコ、旧ソ連、欧州はイギリスやドイツ、フランス、スペイン、そしてアジアは日本と朝鮮と、1982年までに、友好関係にある国・国交樹立したい国に、生きたパンダを延べ24頭・9カ国に贈っている。当時、最も強大な共産主義国であったソビエト連邦には2度贈られ、北朝鮮には1965年から1980年までの15年間に5回、寄贈の申し込みをしている。

1982年を境に、多数の国際自然生態保護団体がパンダの絶滅を危惧したため、パンダ外交の禁止を訴えた。現在では、ワシントン条約等に基づいて、学術研究目的以外での生態取引は困難になり、外国の動物園は貸与の方式、科学研究交換の名義でパンダを中国からレンタルする形を取っている。

しかしそのレンタル料は高額であり、つがいで年間1億円程度、自然死であると証明できない死亡の際の賠償額は5千万円程度で契約される。日本では2010年10月、神戸王子動物園のパンダ「シンシン」が麻酔注射から目が覚めず死んだため、中国野生動物保護協会に賠償金50万ドルを支払った。

現在、パンダを飼育している国は中国を除いて日本、アメリカなど6カ国のみで、韓国は高いレンタル料を払えず、1999年にパンダをすべて返還している。日本は今年2月に更に2頭のレンタルパンダが上陸しており、当時の前原誠司外相は「賃貸料は結構高い」と発言していた。

不透明な管理側の数字 近親交配が原因で早死に?

中国政府にとってパンダレンタルは、莫大な交換収益を上げている。パンダレンタル事業は中国野生動物保護協会によって運営されており、傘下の動物園はパンダにより多額の財産を作った。農業部(日本の農林水産省にあたる)も、この有利なビジネスの継続を望んでいる。そのため繊細な野生パンダの捕獲と飼育・繁殖を続け、金銭目的で海外に送りこんでいる。このパンダレンタル事業から得られた資金は、中国の高層ビル、鉄道、道路建設・修繕費用など多くのインフラにも用いられた。

パンダレンタル事業を管理する農業部と中国野生動物保護協会は、実際のパンダ捕獲数を公表していない。近親交配の可能性も否定されておらず、これが原因で海外に送られたパンダは早死にしている、との専門家の指摘もある。中国パンダレンタル事業は、少なくとも何頭かの野生パンダの狩猟により成り立っている、という可能性は否定できない。パンダは国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定され、狩猟は禁止されている。

北京在住のパフォーマンス・アーティスト、趙半狄氏は「カンフーパンダ2」のボイコットを訴えている。趙氏曰く、映画は中国最愛の可愛らしいパンダのイメージを傷つけるという。可愛いパンダがいいか、カッコいいパンダがいいかはさておき、その実人生は、決して世界的ヒット映画の主人公・ポーのように明るく楽しいものではないことを、私たちは知っておくべきだろう。

(佐渡 道世)

日本の安全保障、外交、中国の浸透工作について執筆しています。共著書に『中国臓器移植の真実』(集広舎)。
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