【大紀元日本3月8日】「今年の両会を波立たせていることが2つある。1つは1月14日に台湾で行われた総統選。ネット中継を見た中国のユーザーは『台湾の総統はその日にならないと分からないが、われわれのトップは10年前にすでに分かっている』と揶揄する。もう1つは2月6日に王立軍が米総領事館に駆け込んだことで引き起こした重慶事変。この事件はアメリカにまで波紋を広げている」
3日付のドイツ国家放送ドイチェ・ヴェレが掲載した中国のベテラン・ジャーナリスト高瑜氏の評論では、このように今年の「両会」を分析した。
改革VS雷鋒
亡命騒ぎを起こした重慶市元公安局長・王立軍は今回の「両会」の1つ、全人代の代表。だが、大会開催の3日前、「両会」のもう1つ、全国政治協商会議(政協)のスポークスマン・趙啓正氏が、王の全人代欠席を明らかにした。
これについて、高瑜氏は、全人代が開催される前に、政協のスポークスマンが慌てて全人代代表の欠席を発表するのは前代未聞の出来事であると指摘。それはまさに王立軍事件の処理をめぐって、指導部が困惑している証拠だと分析した。また、王事件に関するマイクロブログ・微博での書き込みが封鎖されていないことも、当局が世論の動向を窺っているためだと見ている。
「明らかに王立軍事件は(10月開催の)十八大前の新たな権力闘争を引き起こしている」。その闘争は今、こう着状態であると高氏は分析し、事件の着地がいつになるかは「未知数」だとしている。
渦中の薄煕来は事件後、守勢から攻勢に転じようと躍起になっている。中国人民解放軍の模範兵士で精神教育のモデルとされていた雷鋒の没後50周年記念は、薄煕来にとって、またとない「お家芸」を披露するチャンスとなった。重慶市は全国に先駆け、「雷鋒に学べ」キャンペーンを派手に展開し、薄自らも雷鋒の戦友に会うなど、全国メディアを踊らせた。
メディアの注目を集めるのが得意な薄煕来の「健在作戦」とは対照的に、改革派の動きは少し地味だ。劉少奇元国家主席の息子の劉源・上将は「官位が脅かされても、腐敗幹部と戦い通す」と発言し、先月、解放軍の総後勤部副部長の谷俊山・中将を失脚に追い込んでいた。
また、2月23日の人民日報は、「危機に陥るよりも、批判にさらされる方がよい」と題する署名記事を発表し、「改革しない危機よりも、完璧でない改革がよい」と、党の機関紙として初めて明確に「政治改革」の必要性を述べた。実は、人民日報のこの内容は胡錦濤主席の発言であると高瑜氏は指摘し、「こういった内容以外にも、腐敗についての厳しい見解があったが、公開されていない」という。
「両会」まぢかの「改革ブーム」対「雷鋒ブーム」。混戦する様相を呈しているが、薄煕来を突然襲ったこの事変は、十八大に向けての椅子取り合戦をさらに熾烈にしたことは間違いない。
民生と民心
そんな指導部の立ち回りよりも、庶民が関心を寄せているのは、社会保障、収入配分、医療改革などといった民生問題。これらの問題の解決をしきりに唱える胡温政権こそが、実はこれらの問題を悪化させた政権でもあったと高瑜氏は指摘する。
ブルームバーグ紙は先月末、「中国の億万長者による人民代表大会は(米)議会を貧困に思わせた」と題する記事を掲載。それによると、2011年の全人代に参加したもっとも金持ちの70人の総資産は898億ドルを上っているに対して、米上下両院議員、大統領、各省長官および最高裁判所の判事9人、合わせて660人の高官の総資産は75億ドル。一方、中国の一人当たりのGDPは米国の15分の1に過ぎない。
さらに衝撃的な数字も発表されている。北京天則経済研究所によれば、2011年の中国のGDPは約50兆元で、その半分に当たる25兆元は政府に納められている。その内訳として、13兆元の税収と、3兆元の国有企業の利益配当、3兆元弱の没収収入、3兆元前後の社会保障基金、さらに2~3兆元のグレー収入が数えられる。「(中国の)政府は世界一金持ちだ」と同研究所は結論づけている。
劉少奇息子の劉源氏の支持を受ける中国の学者・張木生氏はこんなことを話したことがある。「治安維持や強制弾圧に政府は7、8千億元を使っている。実際はその半分のお金で社会保障や農民の問題が解決できるのだ」
政権維持のための強剛手腕はまた新たな社会危機を生む。民心と直結するのは民生。だが民生は政権や政権関係者の利益と矛盾する。指導部内部の対立に加え、指導部と民心の対立も着地点が見出せない。
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