トランプ米大統領は今月1日、地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」から離脱することを発表したことで、国際社会に大きな波紋を投じた。世界各国政府関係者や学者や主要メディアが相次いで、トランプ大統領の決定を強く非難した。
欧州など他加盟国から辛辣な批判は避けられないと予見していたはずのトランプ大統領は、なぜ、あえて離脱したのかとの疑問が残る。また世界第2経済大国の中国当局は、国内大気汚染や環境汚染問題に一度も真剣に取り組んだことがないのに、パリ協定への支持を強くアピールしたのも非常に不可解で、何かの企みすら読み取れる。
トランプ大統領の「再交渉」で各国はなぜ怒るのか
トランプ大統領は1日、ホワイトハウスで演説し、パリ協定は米国経済、産業、労働者、国民と納税者の利益に大きな害を与えると指摘した。大統領は、米国家経済研究協会の調査結果を挙げて、2040年までにパリ協定が原因で、米国の国内総生産(GDP)に3兆ドルの損失をもたらし、650万人の雇用を失うとの見解を示した。
また、この協定には参加国に対して法的拘束力がなく、各国の二酸化炭素などの温室効果ガス(以下、CO2など)削減目標も大きく異なるため、トランプ大統領は「米国に不公平だ」として再交渉を望むと述べたが、フランス・ドイツ・イタリアの首脳は共同声明で、米国の再交渉を拒否する姿勢を示した。
英BBC放送は、米国はこの協定の重要な資金源と技術提供者であり、トランプ政権の離脱表明は首脳たちを怒らせたと報じた。ではなぜ、各国の首脳は米国のパリ協定離脱に激怒したのか?
パリ協定の内容によると、2025年までに先進国は毎年発展途上国に対して、エネルギー構造や工業化の技術向上を支援するため、約1000億ドルを資金提供しなければならない。
在米中国人作家の何哲氏は新唐人テレビに対して、同協定内容によると、締結した150以上の国の中で「米国だけが毎年、全体の約75%を負担し、750億ドルを拠出しなければならない」と述べた。
また、中国経済学者の何清漣氏も大紀元に寄せた評論記事で同様に、パリ協定では、温暖化対策の目的で設立される「緑の気候基金(Green Climate Fund」の運営資金1000億ドルのうち、7割以上は米国が負担することになるとの見方を示した。
これはトランプ大統領が「不公平だ」と主張する最大な理由だとみられる。
温室効果ガス削減目標は国によって違う
トランプ大統領が協定が「不公平」と強調するもう一つの理由は、協定が各国に求めるCO2など削減目標がそれぞれ違うことにある。
特に、CO2など排出量世界1位の中国の削減目標は合理的ではないとした。
日本の全国地球温暖化防止活動推進センターのデータによると、2014年世界のCO2排出量が約330億トン。その内訳をみると、中国は全体の28.3%を占め、約93.39億トンを排出した。2位の米国はその15.8%を占め、約52.14億トン。
パリ協定では、米国は2025年に、2005年に比べて26~28%削減との目標を打ち出した。これは、米国の毎年約50億トンのCO2など排出量のうちの約16億トンが削減されるとの試算になる。
しかし中国当局は、2030年にCO2など排出量がピークを迎えるように努力し、また2030年までにGDP当たりのCO2排出量を2005年に比べて60~65%削減との目標を出した。言い換えれば、2030年までCO2などの量を減らさないで排出し続けるということだ。
また目標数値をみると、中国は米国より多く削減すると思いがちだが、実際そうではない。中国当局は「GDP当たり」を強調している。つまり、GDP成長率が縮小すれば、経済活動も縮小し、その影響でCO2などの排出量が減り、これによってCO2など削減量も減るという仕組みになる。したがって、一部のメディアは中国当局が「数字の独り歩き」をしていると指摘した。
いっぽう、米国はその削減目標数値を達成していくには、エネルギーを使うことを減らさなければならない。それに伴い、工事建設や製造業などの生産活動を減らし、CO2など排出量の大きい自動車の利用や電子機器の使用を制限せざるをえない。さらに、石炭・石油産業に対してより厳しく規制強化を実施したりして、関連企業が廃業に追い込まれる事態が現れると予想できる。このような措置では、現代社会において米国のみならず、どの国にとっても正常な経済活動に大きな打撃を与えるに違いない。
トランプ大統領は、パリ協定では中国とインドなどは少なくとも今後13年間において、CO2などの排出を制限なく続けることができる一方で、米国は経済的な負担を負いながら、排出量の削減に努めなければならないとして、「協定は詐欺だ」と反発した。
インドも2030年までにGDP当たり2005年比で33~35%削減との目標を掲げた。
米メディア「フォックスニュース」の報道によると、スコット・プルーイット環境保護庁長官は、「パリ協定に基づき、インドは2兆5000億ドルの資金援助を取得して、はじめて(CO2などの)排出削減を実施する。中国については、2030年までに排出量削減の必要がないとされている」と発言した。
プルーイット長官によると、2000~14年まで、米国は約18%の排出量削減に成功した。「それでも、前(オバマ)政権はパリで各国に謝罪した」と不満を示した。
未知数なパリ協定の将来
パリ協定の最大の欠点は、各国が設定したCO2など排出量削減目標に法的な制約力がないことだ。
パリ協定によると、各国が設定したCO2削減などの目標達成はすべて、各国の自主性に委ねられる。目標が達成されなかった場合、ペナルティーはないのだ。また5年ごとに各国の実施状況を確認して、目標達成できなかった国に対して交渉を通じて圧力をかけていく。これでは、協定が目指す「産業革命前からの気温上昇を2.0度未満に抑制。1.5度未満に収まるよう努力」することが達成されるかどうかは不明だ。
パリ協定に法的な拘束力がなく、さらに中国をはじめとする一部の国が排気量削減目標を達成できるどうかは不明で、それに加えて協定の下で自国経済に大きな負担をもたらすこともあるなら、国民の幸せを守っていきたいとの信念を持つ国の指導者であれば、協定から離脱するとの決断に至ったのは不思議ではない。
中国国内誌「財新週刊」の于達維・記者はこのほど、自身のブログで、「協定だけでは、地球を救うことは難しいだろう。人類史上、発生したすべての危機は協定や約束によるものではなく、技術によって乗り越えられたのだ。ワクチンが感染病から救い、トウモロコシで飢餓を解決できた」と指摘した。
(つづく)
(翻訳編集・張哲)
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