アリババ馬雲氏の日本向け100万枚マスク 二階・自民党幹事長と対日政商が手配

2020/05/11 更新: 2020/05/11

コロナ禍の最中、中国共産党および中国企業は「マスク外交」を展開している。需要の高いマスクや防護服など医療資源を輸出することで、国際的な評判を高めることを狙っている。日本に対しても3月、中国大手電子商取引・アリババの創業者で共産党員の馬雲ジャック・マー)氏から100万枚のマスクが寄贈された。これを段取りしたのは中国共産党政治局の名誉職の肩書を持ち、対日政商として知られる蒋暁松氏と日本政界の重鎮である二階俊博・自民党幹事長だった。2人には20年来の交友関係がある。

マスクの配布実務を請け負ったのは、蒋氏が代表を務める「日本医療国際化機構」(東京)だ。同機構は、寄贈の経緯を発表している。それによると、中国での新型コロナウイルスの蔓延が最も深刻化した2月初旬、馬氏は同機構を通じて二階幹事長と連絡を取り、防護服を確保してくれれば買い取ると伝えた。二階氏は「無償で寄贈する」と申し出た。最終的に、小池百合子・東京都知事が10万着を東京都からの寄付を決定し、ほか2万着あまりをアリババ・グループが買い取った。日本の防護服は2月9日、中国に到着した。

2月、デュポンや3M、東レなどが製造する医療用の防護服は、コロナ禍に見舞われる中国からの発注が急増し、また中国が医療品を輸出制限していたことで、日本国内では品不足が起きていた。さらに、向こう数カ月でウイルス肺炎流行の恐れがあるにも関わらず、東京都では防護服の備蓄が減少。東京都福祉保健局は2月12日、医療従事者向けの防護服の備蓄状況を公表した。2019年12月の段階で220万着の備蓄があったが、新型コロナウイルス感染症発生後、中国へ十数万着の提供で備蓄数が減少していた。

馬氏は3月2日、防護服の返礼として、馬雲氏が設立した「馬雲公益基金会」と「アリババ公益基金会」によって調達されたマスク100万枚を、二階幹事長側に寄贈した。送付先は、日本医師会など医療関係機関とされる。

公的年金運用で圧倒的な優遇 「グリーンピア南紀」

 

蒋暁松氏と二階氏とは、少なくとも20年前から親しい。それを象徴する出来事が、年金運用のために年金福祉事業団が全国13カ所に設置した大型保養施設「グリーンピア」をめぐる優遇契約だ。施設の1つは、二階氏の選挙区である和歌山県那智勝浦町に建てられた「グリーンピア南紀」。同施設は2003年に経営難に陥り、閉鎖した。

すると、蒋氏が代表を務める中国企業「香港BOAO(ブルー・オーシャン・アジアン・オリエンテーション・リミテッド)」が、町から再開発を請け負い、「南紀ボアオ」として再スタートさせることになった。グリーンピア跡地の大半が公募で請負先を決めているが、南紀では地元選出議員の二階氏が、中国企業を町側および年金資金運用基金に紹介するという異例の契約だった。

朝日新聞2007年4月14日付によると、「蒋氏は、二階議員の『友人』として、町長の最高幹部らと面会し、再生事業の請負先に選ばれた。(略)二階議員は蒋氏を関係者に紹介し、契約書への署名の場にも同席した」という。

しかも、その契約内容は、蒋氏側にかなり優遇されたものだった。香港BOAOが町側に賃借料1億5000万円を10年支払い、賃借期間が終わる2015年には、360ヘクタールもの土地権利を香港BOAOに譲渡するという。年金運用のための「グリーンピア南紀」には、122億円もの資金が投じられている。

同記事は、香港BOAOは事業実態のない、いわゆるペーパーカンパニーだという。また「蒋氏が別に経営する海南島のリゾート開発会社は昨年度の収入ゼロの赤字企業で、負債は約5億2000万元(約80億円)にのぼっている」と指摘。「南紀ボアオ」事業の先行きを懸念した議会や元区長らは、断食を含む強い抗議を行い、最終的に香港BOAOによる再開発は中止となった。

江沢民に書簡 ボアオ・フォーラムの始動

「マスク外交」の日本実務を担った蒋暁松氏は、中国南部の海南島のリゾート開発「ボアオ・グループ」を立ち上げた実業家として知られている。蒋氏は、中国全国政治協商会議委員といった名誉職を持つ。母は中国映画協会副主席も務めた女優の白楊氏で、白氏は周恩来・元首相や江沢民主席とも交友があり、蒋氏もまた、中国人脈の恩恵を受けている。

蒋氏は90年代末、欧州のダボス会議「アジア版」とする国際経済会議、ボアオ・アジア・フォーラムを海南島のリゾートで開催することを、江沢民元主席や胡錦涛元主席に呼びかけた。2001年からスタートした同年次フォーラムは、習近平主席や李克強首相、王毅外相らも毎回出席する国際経済会議となった。

人民日報系の雑誌「人民文摘」2010年第6期には詳細な記述がある。「蒋氏は、APEC組織の創設者の一人である豪ホーク元首相を誘い、ボアオで『アジア版経済フォーラム』を考案した。その後、江沢民主席(当時)に手紙を書いた。日本の細川護熙元首相やフィリピンのラモス元大統領の意見も交え、アジアのためのボアオ・フォーラム(BFA)設立構想を成熟させた」とある。

ボアオ・アジア・フォーラムは2001年2月27日に初開催され、江沢民主席ら世界26カ国から20人以上の高官や経済会の要人が参加した。

2010年、福田康夫元首相がボアオ・アジア・フォーラムの理事長を務めた。2018年からは、前国連事務総長である韓国の潘基文(パン・ギムン)氏が同理事長を務める。2015年11月、同フォーラムを支援する日中友好団体として「日本ボアオ会」が結成され、会長に自民党総務会長の二階俊博が就いた。

ボアオ・アジア・フォーラムでは、これまでに「ドルに代わる新しい国際通貨、アジア共通通貨の必要性」または「一帯一路を通じたアジア共同体の構築」などが議論されている。

中国官製紙・中国網によると、潘氏は2020年2月、中国共産党による中共ウイルスの対応について「中国の特色ある社会主義制度の優位性、手を携え協力し危機に対応する各国共通の責任感」を唱え、中国を称賛し、中国発のウイルスにもかかわらず世界各国の連帯責任を呼び掛けた。

これらのことから、ボアオ・アジア・フォーラムは、中国共産党の対外プロパガンダおよび、共産党を中央とするイデオロギーを置く国際経済ネットワークを構築する役割を担っているといえる。

3月、アリババの馬雲氏から自民党幹事長・二階氏へマスク100万枚を仲介した、蒋氏の「日本医療国際化機構」の前身は「ボアオ概念設計室」だった。対日政商・蒋氏が日本における中国共産党による浸透工作を担っていた組織は、今度は「マスク外交」を手伝っている。

中国共産党政権は、中共ウイルスの流行で世界50カ国以上に「マスク外交」を展開した。中国国務院の公式発表によれば、3月1日~4月4日までに中国から輸出された感染対策物資は102億元(約1570億円)相当に達した。米国や欧州でウイルス肺炎の流行が深刻化した約1カ月間、中国はマスク輸出だけで約1190億円の輸出収入を上げたという。

米AP通信が伝えた、米国土安全保障省5月1日付の報告書によれば、中国は意図的にウイルスの危険性を隠し、ヒトヒト感染の危険性を知っていたにもかかわらず、世界保健機関(WHO)に通知しなかった。1月、中国は海外からマスクや防護服など医療資源を膨大に輸入し、逆に輸出を抑えた。近い将来に起きる世界的な医療資源のニーズ(需要)と供給を誤情報により操作して、不正に利益を得た疑いもある。

世界的な需要増に反応して、中国では2万社以上が医療分野に新規参入した。しかし、当局の検品や安全性管理の不備から、到着国からは「粗悪品」だなどの苦情が続出している。「マスク外交」のほころびが見えている。

(文・佐渡道世)