[MABARHULE(南アフリカ)11日 ロイター] – 小さなサファリツアー会社を経営するキムビニ・フロングワネさんは今年2月、資金の大半をはたいてミニバスを新調した。そのときは手堅い投資に思えた。
2019年は売り上げが倍増。南アフリカの有名な動物保護区「クルーガー国立公園」でゾウやキリン、ライオンを一目見ようと、米国、英国、ブラジルなどから予約が増えていた。
ところが、新型コロナウイルス感染の世界的大流行で国境が閉鎖された今、数十億ドル規模のアフリカのサファリ産業は壊滅的な打撃を受けた。フロングワネさんは、もうミニバスに資金を回すような余裕はない。21座席のミニバスは今、駐車場でほこりをかぶっている。
「買ってからというもの、一度も動いていない」。彼は従業員5人への給与も停止せざるを得なかった。「あの金があれば、今ごろ食いつなげたのに」──と事態の暗転に頭を抱える。
ケニアのマサイマラからボツワナのオカバンゴ・デルタに至るまで、サファリ観光の収入に頼っていた地方経済は、生活と夢が砕け散るのを目の当たりにしている。観光産業で生計を立てているのは数十万人に及び、もちろん、彼らには扶養家族もいる。
観光収入の枯渇は、野生動物保護プロジェクトにとっても大打撃だ。世界各国でロックダウン(封鎖)の緩和が始まっているが、動物保護区域やサファリロッジ、旅行代理店の先行きは見えない。
オンラインの旅行代理店サファリブッキングスの推計によると、南ア、ボツワナ、ケニア、ルワンダ、タンザニア、ウガンダ、ザンビアの各国は、サファリ産業で年間約124億ドルを稼いでいた。
しかし、同社が今月、300社を超える旅行業者を調査したところ、93%近くが「予約は減った」と答え、そのうち少なくとも75%が新型コロナを原因に挙げた。過半数が予約のキャンセルを受けたと答えた。
<いつまで持ちこたえられるか>
クルーガー国立公園に隣接する民営のマンイェレティ動物保護区。今年3月の段階ではレオン・プラットシックさんの営むサファリロッジは、予約でいっぱいだった。
しかし、今や従業員は自宅待機。人気のないキッチンをヒヒが荒らし回っている。
「『いつまで持ちこたえられるだろう』と自問せざるを得ないところまで来た。多くの者は、ただ、生き延びるために蓄えを食いつぶしている」とプラットシックさんは言う。
彼だけではない。
南アのサファリ産業の中心地、クルーガー・ローベルト地区で地元の旅行代理店が5月に約500社を対象に行った調査では、90%が直ちに国境閉鎖が解かれても生き残れないだろうと答えた。3分の2以上は従業員を解雇したとしている。
観光収入が途絶えたことで、アフリカ全体で野生生物保護プロジェクトがコスト削減を強いられた。それどころか、新型コロナ感染拡大に見舞われた地方の住民は、生計を立てられず追い詰められ、密猟に拍車がかかる恐れも指摘されている。
南アの複数の動物保護公園は最近、密猟を防ぐためにサイ数十頭の角を切った。密猟者にとって魅力が減ると期待してのことだ。
<墓穴を掘る>
「マディリカ・クラフト・センター」はクルーガー国立公園に非常に近く、時には遠くからライオンのうなり声が聞こえる。
家庭にいた女性たちが職を得るため自分たちで始めた協同組合である同センターは、伝統工芸品のビーズアクセサリーを民営のサファリロッジに売っていた。だが、ロッジの閉鎖に伴ってセンターも閉鎖。今ではピンク色の壁を何層ものほこりが覆う。
センターの共同創設者、ジェーン・マシェレさんは収入が途絶え、庭のサツマイモとホウレン草だけで、孫として育てる孤児4人を何とか食べさせていければよいが、と願っている。
南アのクバイ・ヌグバネ観光相は5月、観光業の閉鎖状態が9月まで続けば最大60万人の雇用が脅かされると指摘した。同国は零細観光業者に5万ランド(3000ドル)の一時金を支給したが、焼け石に水との声が聞かれる。
南ア観光業協会は、早ければ9月にも外国からの旅行客の迎え入れ再開を許可するよう働き掛けているが、アフリカ大陸の大半で新型コロナの感染拡大が峠を越すのは数カ月先とみられているだけに、この時期の再開は非現実的に見える。
それまでの間、南アは国内の旅行者が業界回復の先駆けになってくれることを期待している。国内の国立公園は、自分で運転する形のサファリ観光を再開した。
しかし、泊まりがけや州をまたいだ旅行は、まだ禁止されている。許可されたとしても、国内の旅行者だけではビジネスを救うには不十分ではないかと、一部の事業者は心配している。
サファリロッジを経営するプラットシックさんは「2人、4人、あるいは6人のために宿を開く価値はあるだろうか。さらに大きな墓穴を掘るだけだろう」と嘆いた。
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