米有力シンクタンク・戦略国際問題研究所(CSIS)はこのほど、日本における中国の影響力についての報告書を発表した。報告には、2年間(2018~19年)かけて約40人の専門家にインタビューした。CSISの報告では、「日本における中国の影響力は他の民主主義国に比べて限定的」だとしながらも、日本当局の不対応により警戒心を高める必要があると指摘する。
「日本のどこにも中国文化の影響があり、言語、芸術、料理、文学、建築、音楽、法律、哲学にまで及んでいる。戦争、侵略、敵対関係を含む日中関係が2000年も続いたため、日本社会は中国と共存することに慣れている。このなかで、日本は、中国の政治的な戦いでは『難攻不落』であることを理解している」と隣国のスーパーパワーとの関係を指摘した。
報告では、最近のドイツ・マーシャル基金の分析を引用して、中国が世界中で展開する戦術には、中国経済の武器化(取引の強制や制限)、物語的優位性の主張(プロパガンダと偽情報)、エリート仲介者の依存、在外華人の道具化、権威主義的支配の浸透などがあるとした。中国は、例に倣って日本に対してもこうした工作を行い、表向きの外交から、個人的な接触などの機密、強制、腐敗(3C、covert, coercive, and corrupt)を用いている。
コロナ危機を利用した中国の接近
複数の専門家によると、日本の主要な安全保障上の懸念の一つは、沖縄を「独立宣言」させる可能性だという。中国は、米軍基地を擁するこの島で外交、ニセ情報、投資などを通じて、日本と米国の中央に対する不満を引き起こしている。
報告では、中国共産党は国内で求心力を高めるために反日感情を利用しているが、ここ数年は、中国の対日プロパガンダで日中関係の肯定的姿勢を強調するものがほとんどだという。中国外交部および官製メディアは、日本から寄付されたマスク、ゴーグル、防護服の支援について謝意を表し、華春瑩報道官は「海を隔てた隣人とは困った時に助け合う」と関係を強調した。この発言は、中国最大手SNS微博でも1億回以上再生され、駐中国日本大使館にも感謝のコメントが多く付いた。また当時、親中派の鳩山由紀夫議員は南京記念館にマスクを送り、人民日報に称賛されている。
報告では、日本当局による浸透工作の未対応も浮き彫りにした。孔子学院について「中央統一戦線の元で、海外への影響力を実施する機関」とし、言論の自由を抑圧したり、情報収集に利用されており、北米や欧州では安全保障上の懸念から閉鎖に追い込む事例が相次いでいる。2019年現在、世界に548カ所の研究所があり、日本では関西の名門校・立命館大学に開設されたのを皮切りに、2019年5月には山梨学院大学に15カ所目を設置した。
CSISのインタビューを受けた東京国際大学基金の村井友秀教授は、国民レベルでは孔子学院に対する警戒心は高まっているものの、左翼とマルクス主義者の勢力の強い日本の大学、とくに私立では一般的な世論とは離れていっていると指摘する。名門私立大学の一つである早稲田大学は2007年に北京大学と提携し、若手研究者の育成、共同研究の促進、研究論文の発表を目的とした世界初の研究型・孔子学院を設立した。
2010年、大阪産業大学の理事が、孔子学院を運営する国家漢語教育指導弁公室(漢弁)をスパイ機関と呼び、学内の中国人学生から反発を受けて謝罪し、辞任した。この事例は人民日報にも掲載された。CSISの報告では、この辞任劇は、その後の日本における孔子学院への批判を抑止したと指摘する。
在日中国メディアが推す沖縄分離
日本における外国人の労働人口は全体の2%で、この数字は他の民主主義先進国のイタリア(8%)、ドイツ(15%)、イギリス(13%)などと比べると少ない。しかし、その外国人全体の3分の1近くを占める中国人は、日本における外国人の最大コミュニティとなっている。
中国共産党が海外の中国人コミュニティに影響を与えるために使用する多くの方法の一つが、中国語メディアだと指摘する。これらのメディアの多くは東京と大阪に本社を置き、内容は中国官製の新華社や人民日報などの記事の転載である。これらには「日本僑報」「Live Japan」「日本華人ネット(小春ネット)」「華僑日報」「現代中国」「中文導報」などがある。
報告書によると具体的に、中文導報(週刊中国語版)は、在日中国人をターゲットにした中国語新聞としては最も流通量の多い新聞。日本最大の免税店運営会社であるラオックスの社長・羅怡文氏が運営している。同社の収益の75%を訪日中国人観光客が占めている。中文導報は、中国が設けたアジアインフラ投資銀行(AIIB)の創設メンバーとして日本の加盟を促すなど、中国当局の意図を反映した報道を行なっている。
CSISの報告では、ニュースメディアを通じた中国の影響力の最も重要なターゲットは沖縄だと指摘する。日本の公安調査庁は年次報告書の中で、沖縄の世論を分断するための中国の影響力が高まるおそれがあるとして、問題提起している。中国官製メディアの環球時報や人民日報が、日本による沖縄の主権に疑問を投げかける論文を複数掲載していると指摘する。
「沖縄の独立や米軍排除のための資金調達、沖縄の現地新聞にも影響を与えるなどの隠密ルートがある」と慶応義塾大学の細谷雄一氏は語る。「これらは間接的な戦略であり、シャープパワーだ。日本に対してもサイバー攻撃が見られる」と語った。
(翻訳編集・佐渡道世)
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。