[東京 18日 ロイター] – 菅義偉首相は18日、各府省の副大臣・政務官人事を固め、規制改革を柱とする政権運営が本格的に動き出した。菅氏周辺の政策ブレーンからは「聖域なき構造改革」を掲げた小泉純一郎元首相に近いとの見方もあるが、今後本格的に取り組む行政デジタル化や省庁縦割り排除には既得権益側の抵抗や副作用も予想される。これまでの辣腕ぶりには批判もある中で、調整力と突破力をいかに示すか、腕の振るい方が問われることになる。
<タイプは小泉型、圧倒的情報量で官僚凌駕>
「行政の縦割りや既得権益、あしき前例主義を打ち破って規制改革を全力で進める」。菅首相は16日の記者会見でこう強調した。
コロナ感染拡大に伴う給付金支払いでは、手続きの煩雑さから行政の対応が批判を浴び、デジタル対応の遅れも浮き彫りとなった。所管が分かれる縦割り行政の弊害でPCR検査数も思うように増えなかったことへの不満も、発言の背景にあるとみられる。
自民総裁選期間中には携帯電話料金の引き下げにも言及した。NTTドコモ<9437.T>やKDDI(au)<9433.T>、ソフトバンク<9434.T>の大手3社の営業利益率が20%と高水準であることを疑問視し、値下げに応じなければ各社が国に支払う電波利用料を引き上げると述べ、波紋を呼んだ。
菅氏は、これまでも周辺の反対を押し切って政策を進めてきた経緯があり、近い関係にあるとされる政策ブレーンの間では「『安倍政権の継承』とうたう菅氏自身はタイプとしては小泉(純一郎元首相)や、遡れば田中角栄(元首相)の方が近い」との見方が出ている。
もっとも省庁や官僚の反対の調整能力が菅氏が長けている理由について、かつで菅氏の秘書官を務めた官僚は他の政治家との「情報量の違い」を語る。
「これまで当たり前だったことも、国民目線からみれば当たり前でない」と言えるのは、官僚が挙げた情報以外のことを実に豊富に蓄えているからだという。「幅広い人材ネットワークでの情報交換や議論をもとに実によく勉強しており、そうした情報をもとにやりたい政策に賛同してくれる官僚や政治家を仲間に巻き込み、彼らを使ってことを前に進めるやり方だ」と説明する。
「世間で言われるような、人事の力で官僚を操るやり方ではない」という。
菅氏とともに1996年の衆院選で初当選を果たし、今回の自民党役員人事で選挙対策委員長に就任した山口泰明議員(自民)は「総務相時代に『ふるさと納税』をやったり、携帯料金を下げさせたりと、昔から菅さんはドラスチックにやる人」と評価する。
新政権が推進する規制改革を巡って山口氏は「菅さんは責任感が強い。好きな言葉は『意志あれば道あり』で、(規制改革に伴う)ハレーションが起きる部分はあるだろうが、上手くまとめていくのでは」と言う。
<後に引かない突破力、強権の副作用も>
2008年から始まった「ふるさと納税」は、第1次安倍内閣時に総務相だった菅氏が主導した。
元総務官僚の平嶋彰英(あきひで)立教大特任教授は「(第2次安倍政権時に菅氏が)ふるさと納税の枠を2倍に広げ、納税の行政手続きをワンストップでやれと言い出した」という、14年の自治税務局長時の経緯を明かす。
「高所得者が節税策として返礼品を使っていたので(高所得者の)節税枠を広げるような改正はまずいと菅官房長官に問題提起した。返礼品の送付自体に法令上の規制を導入することや、枠に制限を掛ける案も持って行ったが、そもそも理解しようとしてくれなかった」と振り返る。
総務事務次官の有力候補とも目されていた平嶋氏は、15年7月の幹部人事で自治大学に異動となった。「強烈ですよ。菅さんは一度言い出したら後には引かない。人事でもそう。恐怖政治というか、強権政治」と、平嶋氏は当時を振り返る。
こうした面もある菅首相の人物像について「人事権を行使して官僚をコントロールする、政治家としての機能をフル活用するのに長けた人」と、政治評論家の伊藤惇夫氏は指摘する。
同氏は菅首相の今後の政治戦略として、早期の衆院解散・総選挙が取りざたされる中で「国民の懐にプラスになる政策をメインに、生活に密着した政策を打ち出してくる可能性がある」とみる。
ただ、携帯料金に限れば、民間各社の収益を圧迫することで次世代通信5Gやその後のインフラ整備に対する先行投資に遅れが生じる矛盾も招きかねない。
「携帯料金の引き下げを求めるために、電波使用料を上げるという脅しがうまくいけばいいが、時として副作用も出ることがあり得る。批判が高まれば、内閣の支持率にも響く」と指摘する。
(梶本哲史、木原麗花、取材協力:中川泉、日本語記事執筆:山口貴也 編集:石田仁志)
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