2021年8月、フィジー籍船(旗国船)「ハングトン第112号」のマグロ輸入を禁止した米国は、太平洋諸島における強制労働と違法漁業に強い反撃を与えたと発表した。 AP通信の報道では、米国税関・国境警備局(CBP)が中国国民操業の同延縄漁船の収穫を米国に輸入することを禁止する命令を発動した。
米国国土安全保障省(DHS)のアレハンドロ・マヨルカス(Alejandro Mayorkas)長官はニュースリリースで、「労働者を搾取する企業は米国で取引を行うことはできない」とし、「強制労働は労働者の搾取に該当するだけでなく強制労働からもたらされた製品は米国企業を傷付け、消費者を非倫理的な購買行為に導く要因となる」と述べている。
米国はこれまでもインド太平洋地域の出稼ぎ労働者が悲惨な環境で強制的に労働させられている船舶を対象に対策や措置を講じてきた。ちょうど3ヵ月前には、中国漁船で強制労働が行われている疑いがあるとして米国は30隻から成る同船団全体からの水産物輸入を禁止している。
大連遠洋漁業金槍魚釣(Dalian Ocean Fishing Company Limited)は乗組員を奴隷のごとく扱い、2020年には数人のインドネシア人漁師の死亡が確認されたことで、米国は同操業会社に対して輸入禁止措置を講じた。
遠洋漁業船団で発生している非人道的な労働環境については多くの報道や報告があるが、一部の操業会社は事態の発覚を回避する戦術をうまく使っている。ハングトン第112号の事例は、所有主をごまかすために船主が使う手段の一例である。このように事実上の船主所在国とは異なる国家に船籍を置く船舶を専門用語では「便宜置籍船(FOC)」と呼ぶ。
英国に本拠を置く慈善団体「環境正義基金(EJF)」が2020年10月に発表した報告書「Off the Hook:How flags of convenience let illegal fishing go unpunished(仮訳:免罪:便宜置籍船が違法漁業で処罰されない理由)」には、船会社がその所在国とは異なる国に船籍を置くことで「漁業分野の不透明性が悪化し、IUU漁業[違法・無報告・無規制漁業]活動の最終受益者を特定して制裁対象とする取り組みが妨げられる。そのためこれは容易な逃げ道となる」と記されている。 水産業で世界的に便宜置籍船の定義が定められているわけではないが、国際運輸労連(ITF)はこれを漁業受益者が旗国以外の国に居住していることを指す概念と定義している。
たとえば中国企業が運用するトロール船の旗国が中国ではない場合がある。西アフリカに位置するガーナの状況を見れば、自国が管理しているはずの産業を中国がどのようにうまく侵食しているかが明確に分かる。
環境正義基金の報告書によると、ガーナではトロール船を外国人・外国企業が所有することが禁止されているが、中国企業はガーナのダミー会社を通じてその船舶を船団に加え、漁業許可を取得するという手段を用いている。同報告書には、「登録船主の役員会を含め、書類上の権利は完全にガーナに属しているが、現実にはガーナのトロール船全体の90%から95%の権利を中国が有している」と記されている。
非営利団体の中外対話(China Dialogue)が最近発表した調査結果には、ガーナ、ギニア、シエラレオネで操業している35隻のトロール船は中国国営企業の大連遠洋漁業金槍魚釣有限会社(Dalian Ocean Fishing Company Limited)の所有で、そのうちの17隻がガーナ籍となっている。
これは法の抜け穴となり得るだけでなく、操業会社が奴隷労働に関与している場合は競合脅威が発生する可能性がある。環境正義基金の報告書には、「地球の海洋は脅威に曝されている。乱獲により多くの漁業資源が衰退の危機に瀕し、一部は完全に枯渇している」と記されている。
(Indo-Pacific Defence Forum)
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