中国共産党の経済スパイ活動に対抗するための米司法省の「チャイナ・イニシアチブ」は、人種差別の非難にさらされている。一方、米中の研究協力はリスクが高く、警戒すべきだという懸念の声は依然と根強い。米政府系放送局のボイス・オブ・アメリカ(VOA)が4日に報じた。
米司法省は中国系アメリカ人研究者の起訴に慎重な姿勢を見せている。メリック・ガーランド司法長官は21日、下院の公聴会で、「捜査は人種プロファイリングに基づくものではなく、根拠のある事実のみに基づいて行われる」と述べた。
ガーランド長官は「中国(共産党)は、極めて深刻で攻撃的な脅威である。(中略)それぞれの案件は法律と事実に基づいて評価される。私たちは毎日、中国がらみのスパイ事件に接している」と強調した。
9月には、テネシー大学の胡安明教授が、1年以上続いた裁判の末に無罪となった。胡氏は昨年 6月、中国の大学との関係を隠してNASAから研究費を受け取っていた疑いで逮捕された。
司法省は今年7月に6件の訴訟を取り下げた。胡氏のケースをきっかけに、米学術界では中国系科学者の調査に対する批判が高まっている。
2018年にトランプ政権が立ち上げた「チャイナ・イニシアチブ」は、米国家安全保障を脅かす中国共産党の経済スパイ活動や技術盗用を調査することを目的としている。
「研究協力にもっと警戒せよ」
ワシントンのシンクタンク、ハドソン研究所の研究員であるケネス・R・ワインスタイン氏は、VOAに対し、「米中の学術交流については、もっと警戒する必要がある。中国(共産党)の軍民融合戦略や国家安全法により、無実の学術的共同研究が悪意のある活動に変わってしまうことがあるからだ。中国(共産党)のスパイによる知的財産の窃盗は、工学、コンピュータサイエンス、バイオテクノロジーの機密性の高い分野で特に深刻である」との見解を述べた。
司法省の統計はこの懸念を裏付けるものである。ガーランド司法長官は公聴会で、「チャイナ・イニシアチブ」のいくつかの成功事例を挙げ、経済スパイ訴追の約80%は中国政府に有利な行為が含まれており、企業秘密窃盗事件の約60%は中国が関与していると指摘した。
5月には、共和党の上院議員8名がガーランド氏に連名の書簡を送り、バイデン政権が検討している学術恩赦計画案を破棄するよう求めた。この計画は、訴追しないことを条件に、学術機関や学者に受け取った外国の資金の開示を求めている。
議員らは書簡の中で、米国の納税者が資金提供した研究プロジェクトは、保護されるべきであり、米国に不利益をもたらすような不正流用はもちろん、武器化されることもあってはならないと述べている。
「全体主義国家に利用されないように」
イェール・ロー・スクール(YLS)の博士研究員である程陽陽氏はVOAに、新型コロナウイルス感染症のような人類の危機に直面した際の知的財産権は、国境によって制限されるべきではなく、新しい技術のリスクに注目することがより重要であると述べている。
程氏は、2019年に調査を受けたイェール大学医学部の名誉教授のKenneth Kidd博士を例として挙げた。彼は中国公安部の科学者と遺伝子情報や新技術を共有した。中国政府はこれらの技術を使い、ウイグル人などの反体制派を特定し、追跡している。
カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の社会学とアジア研究の周敏教授は、「政府には中国系アメリカ人の市民権を尊重する責任がある。一方で、中国系アメリカ人の科学者としては、米国の国益を決して損なってはならない。高い道徳心を求められるが、私たちには研究を進める権利がある」と語った。
(翻訳編集・王君宜)
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