竹本能文
[東京 11日 ロイター] – 10日発足した第2次岸田文雄政権で新設された国際人権問題担当の首相補佐官に中谷元・元防衛相が起用された。中谷氏は中国を念頭に人権侵害で制裁を可能とする「日本版マグニツキー法」の議員立法を提唱するなど、人権問題を重視する姿勢を示してきた。
政府・与党内では、親中派との指摘もある林芳正氏の外相起用で中国に対して誤ったメッセージを与えかねないと懸念する声もあっただけに、バランスをとった人事との評価が出ている。
岸田首相は9月の自民党総裁選の時から、人権問題担当補佐官の新設を目玉公約の一つに掲げていた。中国への経済依存度が高い日本は、新疆ウイグル自治区での強制労働や人権侵害などの問題について、欧米諸国と比べ対応が慎重にならざるを得ない経緯があったためだ。
衆院選の小選挙区で落選した責任を取り幹事長を辞任した甘利明氏の後任に外相だった茂木敏充氏が就任。後任の外相に岸田氏は自身が会長を務める岸田派(宏池会)で座長を務める林氏の起用を決断。これに対して「安倍晋三元首相や麻生太郎副総裁が『親中イメージが強すぎる』と慎重姿勢を示した」(与党関係者)というが、外相人事は変えずに中谷氏の補佐官起用で理解を求めた。
中谷氏の人事について、同関係者は日中友好議員連盟の会長職についてきた林氏を「外相に起用することで間違ったメッセージを与えるのを抑制するためだ」と説明する。林氏は11日の就任会見で同連盟の会長職を辞任すると述べた。
中谷氏は今年3月、当時衆院議員だった立憲民主党の山尾志桜里氏らと超党派で議連を立ち上げ、中国を念頭に人権侵害に関与した人物や団体に対する制裁を可能とする日本版マグニツキー法の議員立法や、人権問題をめぐる国会決議を提唱した。
ある閣僚は「日本も政府が人権問題を重視している事実を対外的に発信できる良い人事」といい、政府内で高く評価する声も出ている。
岸田首相は10日の記者会見で中谷氏の起用について「外交のみならずさまざまな課題において普遍的な価値や自由、民主主義とともに人権をしっかり重視しながら取り組みを進めていく基本的な方針は大変重要」と説明した。
一方で、政府が人権侵害に対する制裁を可能とする法改正を検討するのか問われ「超党派の議員による議論が続いており、その状況を見たうえで政府としてしっかり判断していかなければならない。中谷補佐官にもその方針に従って行動してもらうことを期待したい」と述べるにとどめた。
林氏は2012年9月の総裁選に出馬した経緯があり、今年は参院から衆院にくら替えし山口3区で当選した。米ハーバード大院卒で米国にも詳しく「天才肌で岸田氏の有力な後任候補」(自民幹部)とされ、今回の外相就任で「党内の林人気がさらに高まるだろう」(与党関係者)と期待する声も出ている。
岸田氏としては閣内に実力を備えた人物を取り込み政権の求心力を維持したい考えだ。
(竹本能文 編集 橋本浩)
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