米国の代表制民主主義、自由、平等、その他の憲法上の権利は今、中国共産党によって深刻な脅威にさらされている。
GDPの値を購買力平価で補正した実質GDPでみると、中国は世界最大の経済大国である。一方、中国共産党が支配する軍隊は、米軍の2倍の軍人数があるだけでなく、スーパーコンピュータや人工知能、超音速ミサイルなどの軍事技術の面でも米国より進んでいる。
外交面では、ウイグル人の人権や経済開発などの問題で、中国共産党は国連総会で米国やその同盟国よりも多くの票を集めることができる。このような政治的・経済的な影響力は、特定の国への開発資金の提供や、有力な企業や個人への契約や現金の注入など、金銭的なインセンティブを通じて得られることが多い。中国共産党は、米国でも合法・非合法を問わず、このような贈収賄を行っている。
本稿では、中国共産党がどのように米国に浸透しているのか、その脅威は何か、どのような対抗策が考えられるのかを中心に解説する。
中国共産党の浸透工作
米国では、中国共産党は他の国に対するのとほぼ同じ戦術を使い、経済、政治、学術、メディアのエリート層に浸透している。
中国の人口は14億人で、2020年のGDPは14兆7300億米ドル(約1686兆円)と発表されている。中国共産党は、米国でもっとも影響力のある巨大企業を選び、中国市場への参入を優遇している。その中には、アップル、ボーイング、ゴールドマン・サックス、JPモルガンなど、米国の大手企業が名を連ねている。
これらの企業は、中国で莫大な利益を上げている。その利益がいつ打ち切られるかわからないという危機感から、中国共産党の顔色をうかがっているのだ。中国共産党の意向に従わなければ、中国での収益がゼロになり、結果的に利益率が下がり、株価も下がる。
中国共産党は、こうした大企業への影響力を利用し、中国共産党員を企業の役員にしようとすることもある。また、その必要のない場合もある。米国人を含む既存の経営者たちは、中国共産党に協力しなければ、会社の収益性や業界リーダーとしての地位を失うというゲームのルールを知っているからだ。
中国共産党は通常、政治献金、コンサルティング契約、直接の賄賂などを通じて資金を提供し、米国の政治エリートに浸透している。これらの取引のほとんどは、中国で生産している大企業や、中国で大規模な事業を展開する億万長者、中国で収益源を持つ非営利団体など、仲介者を介して行われている。
スティーブン・シュワルツマン氏(米大手投資ファンド運用会社ブラックストーン・グループの共同創業者)、ラリー・フィンク氏(世界最大の資産運用会社ブラックロックの最高経営責任者)、マイケル・ブルームバーグ氏(米通信社ブルームバーグの創業者)など、中国とのビジネス上のつながりのある米国の大富豪たちは、中国の影響力を米国両党のエリート政治家に伝えるのに最も効果的な役割を果たしている。また、中国共産党はトランプ氏やバイデン氏の家族と取引するなど、政治家の家族を通じてアクセスを得ようとしている。
研究機関、主流メディア、シンクタンクなどの知識生産のエリートは、自己中心的で、他の視点や情報源を排除する傾向がある。その一方で、共通しているのは、企業のスポンサーシップに依存していることだ。彼らに資金援助を行っている企業の多くは、収益性や株価を維持するために中国との貿易に依存している。特に大学などの研究機関は、中国からの直接的な取引に依存している。例えば、中国人学生の授業料は、州立大学にとって収入源として必要かつ収益性の高いものである。
中国共産党の脅威
米国における中国共産党の浸透の脅威は、多様でグローバルなものである。米軍は、中国人民解放軍(中国軍)を封じ込め、打ち負かすことができる世界で唯一の軍隊である。一旦、米軍が敗北したり、浸透によって弱体化したりすれば、中国政府は一気に世界の覇権を握ることになる。
米国と欧州連合(EU)は、世界で唯一、制裁やその他の経済的手段を用いて、北京に国際ルールや規範の遵守を迫ることができる地域である。米欧が浸透によって弱体化してしまうと、中国の経済的台頭に対抗できなくなる。中国共産党の支配下にある中国は、世界を支配する経済大国になるだろう。
対策方法
中国共産党の米国への浸透を食い止めるためには、いくつかの対策がある。最も効果的な解決策は、中国共産党の経済的手段を使った浸透を防ぐことである。
まず、中国からの経済的デカップリング(切り離し)は、貿易や投資の機会を減らし、中国の経済力を弱める。それはまた、北京が政治的、経済的、イデオロギー的な影響力を輸出する経路を断ち切ることにもなる。
アップル社やボーイング社が中国でiPhoneや飛行機を製造・販売しなければ、中国政府は市場アクセスを利用し、これらの米国企業に米国の政治に影響を与えたり、中国共産党に対する軍事的・経済的防衛力を麻痺させたりすることができなくなる。
もちろん、これらの企業は、中国での販売減少により利益を失うが、市場や生産ラインを米国やその同盟国に移すことで、米国やその同盟国をより豊かに、より強くすることができるのだ。米国で製造業の仕事が増えれば、賃金が上がり、政府の収入が増え、産業の多様性が高まり、最終的に米国は中国と比べて軍事的にも経済的にも以前より強くなれる。
第二に、政治をお金の影響から遮断することで、中国政府は米国企業などの影響力を利用し、米国の対中防衛を麻痺させることができなくなる。そのため、ロビー活動やシンクタンク、企業の役職と政府高官との間の「回転ドア(天下り)」を排除するために、新たな強力な法律が必要である。また、中国に関する分析や議論が中国マネーに左右されることを防ぐために、中国関連企業がシンクタンクや大学に資金提供することを禁止する法案を成立させることも必要である。
第三に、中国関連の資金、特に中国国営メディアの広告などから米国メディアを守ることで、編集者や出版社の意思決定に影響を与える手段を排除することができる。メディア企業の株主の手取り収入は広告に直結しており、その広告が中国の国営メディアや他の中国共産党組織のものであれば、出版社や編集者の判断に影響を与える手段となる。また、広告自体も、正規のニュースを装った大型の折り込み広告で、実際には中国共産党のプロパガンダであることが多い。
米国をはじめとする世界各国への中国共産党の浸透を止める鍵は、北京がこの浸透を実現するために用いる手段である「カネ(中国マネー)」を絶つことである。米国の基本的理念は人権、自由、平等、財産権であり、これらはすべて相互に関連しており、少数者が多数者を支配することを基本とする共産主義思想よりもはるかに優れている。
中国共産党の経済力の増大による侵食から、米国の価値観を守らなければならない。意志の弱い人間に対して、その矛先が向けられる。このような弱点が頻繁に米国のエリートに見られる時、米国は最も重大なリスクにさらされる。
執筆者プロフィール
アンダース・コアー(Anders Corr)は、2001年にイェール大学で政治学の修士号を、2008年にハーバード大学で政治学の博士号を取得した。彼は、政策情報分析会社であるCorr Analytics Inc.の代表であり、雑誌Journal of Political Riskの発行人でもある。著書に『The Concentration of Power(仮邦訳:権力の集中)』(2021年刊行予定)、『No Trespassing(立ち入り禁止)』などがある。
オリジナル記事:英文大紀元の「The CCP’s Infiltration and Threat」より
(翻訳・王君宜)
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