ジョー・バイデン米大統領は昨年12月、2022会計年度(21年10月~22年9月)の国防予算の大枠を定める国防権限法(NDAA2022)に署名した。ここには米海軍が主導して隔年実施される環太平洋合同演習(リムパック、RIMPAC)に台湾軍を招待することが記されている。
リムパックは主にインド太平洋地域の20カ国以上の海軍が参加する、世界最大の海上演習とされる。中共ウイルス(新型コロナウイルス)感染症拡大防止のために2020年の演習は規模を縮小した。
中国海軍は招待を受けて2014年と2016年に参加した。しかし、2018年は米中関係の緊張や中国側の協調に欠く行動を理由に、米国は途中で招待を取り下げた。
これまで米国が台湾に招待状を送ったことはない。今年のNDAAには台湾の参加を求める文言が「議会の意向」として記載された。
台湾軍がリムパックに参加することは、米国および他国の台湾支援の意思を示すとともに、台湾の軍事力を阻害してきた中国共産党による40年以上の孤立政策を打破するうえで大きな意味を持つだろう。
しかし、当該の台湾招待に関する文節をよく読んでみよう。
「台湾が十分な自衛能力を維持するために必要な調整済みの能力と近代的な防衛力の開発を、米国は引き続き支援すべきである。ここには台湾との実践的な訓練や軍事演習、2022年に行われる環太平洋演習に台湾を招待することが含まれる」
はっきりと記載されてはいるものの、問題はこれらが「議会の意向」であることだ。つまり、台湾の招待に国防総省や国務省、ホワイトハウスは義務を負っていない。
筆者は、最近退職した米国務省の役人が台北の聴衆に向けて、このこと(招待の見込みが薄い「議会の意向」)を嘲笑的に話しているを聞いたことがある。別の役人は「議会の意向」を「(価値のほとんどない)野原の牛のゲップに似ている」と揶揄したが、彼がそう言わなかっただけ少しはマシかもしれない。
台湾との合同軍事演習については、実は以前のNDAAにも記載があった。例えばトランプ政権下のNDAA2018には、台湾海軍との2国間軍事演習、米空軍の空対空戦闘演習「レッドフラッグ」などへの招待について触れていた。しかし、これらは実現せず「議会の意向」に終わった。
しかし、歴代政権の中で最も中国に対峙したトランプ政権でさえリムパックへの台湾の招待は実現しなかった。ホワイトハウスの中堅高官が中国共産党に「配慮」したため米国は二国間訓練の機会さえ棒に振ってしまった。
はたして今年のNDAA2022でも、米国が台湾に招待状を送らない「言い訳」は何だろうか。
中国共産党の機嫌が悪くなる? たしかに中国共産党はいつも怒っている。しかし、もし本当に攻撃的で拡張主義的なこの脅威を米国が認めているならば、中国共産党が怒るような行為には意味がある、ということになるのではないか。
台湾のリムパック招待で演習参加を見送る国が出てくるかもしれない? そうかもしれない。しかし、比較的簡単なこの程度の問題で立ち上がれないなら、中国共産党による台湾および自国への圧力が本当に厳しくなったとき、気骨を示すこともできないのではないか。
これは米国も同様だ。最近の中国共産党は貪欲で、その欲望は台湾に止まらないだろう。
リムパックに台湾を招待するかしないかで、チーム・バイデンの台湾支援がどれだけ堅固なものなのかがわかる。現在ハワイ駐在の台湾政府関係者はリムパックの観察さえ許されていない状況だ。
成立したNDAA2022には台湾支援計画について明記されている。この点ではバイデン大統領は台湾問題を「抱えている」と言えるかもしれない。しかし歴代大統領も中国共産党への配慮で台湾問題を避けてきた。
民主主義的な友人でありパートナーである台湾は、リムパックに参加する資格がある。招待が実現しなければ、米国の台湾へのコミットメント表明は、野原いっぱいの牛を連想させるものとなってしまうだろう。
(翻訳編集・佐渡道世)
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