中国の規制当局は、台湾人の俳優夫婦、林瑞陽氏(61)と張庭氏(51)が経営する電子商取引企業「上海達爾威貿易有限公司(以下、達爾威)」が違法なマルチ商法を行っているとして、同社が保有する不動産96件を差し押さえた。専門家は、中国指導部が掲げる「共同富裕」政策の下で、芸能人や富豪らは取り締まりの標的にされていると指摘した。
中国メディアによると、河北省石家庄市裕華区の市場監督管理局は昨年6月、消費者の通報を受け、違法なマルチ商法の疑いがあるとして達爾威に対し捜査を開始した。当局は同年12月、同社の資金6億元(約120億円)を凍結した。
資金が凍結された後、林氏夫婦はSNS微博(ウェイボー)上に「政府の指導に従って法を守り、(企業)経営を行い、課税を納付してきた」「(当局の捜査に)協力する」などと投稿した。しかし、両氏の微博アカウントはまもなく当局によってブロックされた。
中国メディア「36Kr」などの20日付では、石家庄市当局は昨年7月に達爾威の不動産96件を差し押さえた。時価にして17億元(約340億円)規模だという。
今月初め、湖北省襄陽市保康県の市場監督管理局は、マルチ商法などの違法行為があったとして、達爾威が不法に得た収益の約1928万元(約3億8560万円)を没収し、罰金170万元(約3400万円)を科した。
林瑞陽氏と張庭氏は2013年に達爾威を設立した。同社は化粧品ブランド「TST庭秘密」を展開し、実店舗とネットショップで販売している。
両氏は台湾の人気俳優で、夫の林氏は90年代に複数の人気ドラマに出演した後、2000年ごろ中国本土の不動産業に進出した。張氏も同じ頃に中国本土の芸能界で活動を始めた。
夫婦は日頃、中国共産党擁護の発言を繰り返していた。2020年9月、夫婦は中国の国旗を手に「育ててくれた祖国に感謝」「我が祖国、愛してるよ」と叫び、その写真を微博に投稿した。
時事評論家の華頗氏は米ラジオ・フリー・アジア(RFA)に対し、中国当局が林氏夫婦の経営する会社に対して資金を凍結し不動産を差し押さえた背景には、習近平政権が掲げた「共同富裕」政策が絡んでいると指摘した。
「中国の経済状況がますます悪化する今、中国指導部は有名な芸能人や富豪から巻き上げようとしているのでは」
昨年、中国政府は趙薇(ビッキー・チャオ)や鄭爽(ジェン・シュアン)らの人気俳優や、ライブコマースの女王と呼ばれるインフルエンサーの薇婭らに対し、脱税行為があったとして次々と巨額の罰金を科した。趙薇らは、当局にモラルが欠如する芸能人と見なされ、芸能界の表舞台から消えた。
いっぽう、台湾メディアによれば、中華民国の国籍を持つ林氏夫婦が昨年10月、中国共産党政権樹立記念日のイベントで、共産党政権を示す五星紅旗を掲げ「祖国万歳」と声を上げたことは、台湾で物議を醸した。
ご利用上の不明点は ヘルプセンター にお問い合わせください。