風力発電と太陽光はコスト高、100%再エネは「環境面でも実現不可能」=研究

2022/06/13 更新: 2022/10/06

日本や米国を含む主要国は低コストで気候変動への対処に役立つとして、風力や太陽光など再生可能エネルギーへの抜本的なエネルギー転換を推進している。しかし、最近の研究では、すべてのコストを考慮すれば風力や太陽光発電は発電コストが高く、そのような転換は環境的に成立しないことが明らかになった。

「Journal of Management and Sustainability」6月号に掲載された研究は、発電にかかる総コスト(FCOE)と、それに応じたエネルギーリターン(eROI)について分析した。それによれば、風力や太陽光は在来燃料よりも低コストではなく、むしろ普及率が上がるほどコスト高になるという。

この研究は、燃料、運転、輸送、貯蔵、バックアップ、排出、リサイクルなど10のコスト要因を挙げ、単位サービス当たりの材料投入量、設備寿命、エネルギー投資収益率の3つの指標で評価した。

この研究の筆頭著者であり、エネルギー経済学者でもあるラルス・シェルニカウ博士は、5月の講演で「エネルギーシステムの環境影響は、バリューチェーン全体を見なければならない。即ち、原材料の生産から加工、輸送、利用、リサイクルまでであり、各ステップにおける環境への影響を考慮しなければならない」と述べている。

また、「エネルギー効率、材料効率、スペース要件、廃棄物要件、動植物への影響、健康・安全への影響などの非排出問題も考慮すべき」と付け加えた。

シェルニカウ氏によれば、風力や太陽光はCO2ゼロと言われるが、バリューチェーン全体で見ると多くのCO2を発生しているという。

著者らの図によれば、再生可能エネルギーは、電力1テラワット(TW、1000ギガワット)を生産するのに、従来の石炭天然ガスよりもはるかに多くの物質投入が必要である。

著者らは、もう一つの重要な概念であるエネルギー投資収益率(eROI)についても言及した。これは、エネルギー収集システムのエネルギー効率を本質的に測定するものだ。

ユーアン・マーンズ博士の研究を引用し、現代の生活には最低でも5~7のeROIが必要であるが、太陽光発電や風力発電の多くはeROIが低く、社会全体を支えるには十分な効率でないと指摘した。

「風力発電と太陽光発電の課題は、断続性と低エネルギー密度である。そのため、すべての風車やソーラーパネルには、バックアップや蓄電が必要となりシステムコストが高くなる」とまとめている。

「もし、世界が100%風力、太陽光、バイオマスに移行したら私たちの生活は立ち行かなくなくなる。エネルギー不足に陥る。これはすでに市場で始まっていることだ」とシェルニカウ氏は語った。

また、「風力や太陽光発電は最もエネルギー効率が悪く、材料投入などの対策を考えると、普及させようとする取り組みは成立しないのではないか」と疑問を呈した。

エネルギー経済学者でもあるラルス・シェルニカウ博士らによる研究は、従来の発電と再エネ発電にかかる材料を対比する。表の右3つが再エネの太陽光、風力、地熱発電(:https://ssrn.com/abstract=4000800)

シェルニカウ氏は、ボストン・コンサルティング・グループの予測を紹介し「2019年、世界の風力と太陽光だけの設備規模は1.5テラワット相当であり、今後8年間で既存インフラの2倍の8.7テラワットの風力と太陽光が建設される。2040年までにはさらに2倍、2050年にはさらに7~8テラワットが追加されると見ている」と語った。

しかし、同氏はこうした設備拡大が2050年まで続くことなく、その前にエネルギー、原材料、資金が枯渇すると予想する。さらに、その状況は「経済、環境、社会に悲惨な影響を与える」と警告している。

バイデン大統領は気候変動が最優先課題の一つであると発言している。就任前、2050年までに100%のクリーンエネルギー転換を公約に掲げていた。昨年12月には、2050年までに連邦政府の排出量をゼロにする大統領令に署名した。

日本は2030年度に温室効果ガスを2013年度から46パーセント削減することを目指し、50年にはカーボンニュートラルを掲げる。再エネなど脱炭素電源の最大限の活用も指針としている。東京都は5月、中小建築物への太陽光発電設備の設置などを義務付ける新たな制度を設ける方針を決定した。

EUは、2050年までに気候変動に左右されないネットゼロの経済実現を目指している。また、Google、Microsoft、Appleなどの大手ハイテク企業も独自のクリーンエネルギー目標を発表している。

この研究論文は「すべてのエネルギーは常に地球から資源を奪い処理するため、環境には悪影響を及ぼす。有意義な方法でこれらの悪影響を最小限に抑えることが人類の目標でなければならない」と提言する。

また、エネルギー政策はその不足や貧困が起きないよう、すべてのエネルギーシステムを支援すべきであるとし、政策の見直しを助言した。また、エネルギー転換の基礎研究と従来型のエネルギーシステムへの投資を呼びかけた。

先月、国際エネルギー機関のトップは、「現在のエネルギー危機は甚大で1970年代のオイルショックよりも長く続く可能性がある」と警告し、「化石燃料への投資が大幅にすぐに増えないのであれば、この10年間に世界的なエネルギー危機が長引くことは避けがたいだろう」と述べている。

(翻訳・大室誠)

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