2月に閣議決定された都市緑地法改正案が、今月22日の参議院本会議で採決される見通し。同法案は、都市の緑地において民間事業者による再生可能エネルギーの導入するなど、環境・社会・企業統治(ESG)投資の理念を取り入れた内容となっている。
改正案には、緑地の創出や再生可能エネルギーの導入、エネルギーの効率的な利用等を行う都市の脱炭素化にむすびつく都市開発事業を認定する制度を創設することが明記されている。認定事業に対して、民間都市開発推進機構が金融支援するという。
欧州はすでにESG投資敗北
いっぽう、この都市緑地法改正案に反対票を投じるとあらかじめ公言する国会議員もいる。NHK党の浜田聡参議院議員は、自身のX(旧ツイッター)で、「欧州の一発逆転策であるESG投資の敗北」を前例とし、ESG投資反対の考えから同法案に反対だと述べた。
実は、西側ではESG投資は失敗との見方が広がっている。
米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は4月、ESGの「ブームは終焉を迎えつつある」と論じている。同紙によれば、ESGに焦点を当てた投資商品の設定割合は3.3%にまで低下し、ピーク時の8.3%から大幅に減少。ESGは、環境倫理やグリーンビジネスといった話題性の産物にすぎず、実際の富を生み出す力が低い可能性を指摘している。
共和党のトランプ前大統領の政策立案を担うシンクタンクとして知られるヘリテージ財団は、ESGを酷評する。「左翼のイデオロギーをビジネスや金融機関に押し付けるための政治的な道具」と位置付けて、ESGによって利潤と成長という企業の在り方が損なわれていると分析している。
昨春には、19の共和党知事州はバイデン政権のESG政策に反対する共同声明を発表。ESGが「米経済の活力と米国人の経済的自由を脅かしている」と指摘した。
脱炭素を基調としたESG投資をめぐる懸念は、日本でも他の野党議員から指摘されている。
参政党の神谷宗幣議員は3月の財政金融委員会で、「コロナパンデミックやウクライナ戦争の影響でエネルギー価格が高騰し、ESG投資のパフォーマンスも低下している。世界的に見ると、GX投資や再エネ投資に対する軌道修正を国際的に始めているのが今のトレンドだ」と指摘。日本だけがこの分野への大規模な投資を続けることは合理的ではなく、不利益を被る可能性があると警鐘を鳴らした。
いっぽう、岸田政権はESG投資に前向きな姿勢を示している。2050年の炭素ゼロに向けて、グリーントランスフォーメーション(GX)に150兆円の官民投資を掲げている。
岸田首相は「ESG投資は社会課題の解決に取り組む企業の資金調達を後押しすることで経済社会の持続可能性を向上させる」(昨年11月参議院予算委員会)と述べており、同政権が掲げる『新しい資本主義』の理念にも合致するものだと強調した。
日本の公的年金を運用する年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)もESG投資を取り入れており、5月にはESG投資を国内資産運用会社を通じて企業に促進したことへの分析結果を報告した。
脱炭素に熱視線を注ぐ民主党バイデン政権もESGには積極的だ。同政権は23年11月、企業年金の投資先について、投資収益だけでなくESG要因も考慮して投資先を選択できるとする規則を施行した。
ESG投資の是非をめぐる議論が国内外で活発化する中、都市緑地法改正案は今国会での“しれっと”成立が見込まれる。この課題に眼を向ける主要メディアは、多くはない模様だ。
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