社会的絆の喪失が、大衆形成と全体主義国家の台頭をもたらす

2022/07/02 更新: 2022/07/04

多くの人が社会環境から切り離されたと感じると、理不尽な物語を狂信的に信じるようになり、全体主義国家が出現する好条件が整うー。臨床心理学のマティアス・デスメット教授は大衆形成について分析を示す。

デスメット教授は、6月16日のEpochTVの番組「米国思想リーダー」の中で、「自然や社会環境から切り離され人生に目的を見出せなくなった人々は、たとえ不条理であっても、ある種の物語を狂信的に信じるようになる。その心理現象は大衆形成の一種だ」と語った。

さらに、「大衆形成に巻き込まれた人々は、物語の不条理さに気づかず、異端者の声に過激に不寛容になり、それに従わない人々に汚名を着せ、最終的に破壊しようとする。彼らは、かつて自分たちにとって重要だったものをすべて犠牲にすることをいとわない」と、大衆形成現象に関する世界的な専門家の一人で、『The Psychology of Totalitarianism』の著者でもあるデスメット氏は付け加えた。

また、1979年のイラン革命では、自分の息子を国家への忠誠心が足りないという理由で政府に報告し、処刑させてしまったイラン人の母親がいたという事例を挙げ、「全体主義国家の出現を招くのは、まさにこのような大衆の形成である」と語った。

全体主義国家と古典的独裁国家

デスメット教授によれば、全体主義国家は、ある種の物語やイデオロギーに狂信する社会の一部の人たち(通常は人口の20~30%)を基盤として成り立っている。例えば、ナチスドイツの人種差別思想やソビエト連邦マルクス主義思想を信じた狂信的な社会の一部が、少数の指導者とともに国家を支配することに成功し、全体主義国家を作り上げた。巨大な『秘密警察』を通じて私生活をも支配する。

一方、古典的な独裁体制は、少数のエリート集団(独裁政権)だけが関与し、その攻撃的な潜在力によって国民の恐怖心を煽り、国民は、政権によって一方的に押し付けられた社会契約を受け入れてしまう。古典的な独裁体制では、体制の重心点は独裁体制にあるため、体制の一部を排除することに成功すれば、通常、独裁体制は崩壊する。

全体主義体制では、エリートではなく大衆そのものに重心があるため、エリートの一部が破壊されても、体制は何事もなかったかのように継続する。スターリンは、60パーセントの共産党員を抹殺しても、体制が崩壊しないことに気づいていた。排除された人たちは、ただ入れ替わっただけであった。

大衆形成の前提条件

大衆形成の根本的な原因は、多くの人々が自然環境や社会環境から切り離されたと感じざるを得ないことだ。この2~3世紀に亘って世界で起きた機械論的な人間観の高まり、テクノロジーの活用などの結果として、孤独を感じる人の数は大幅に増加した。

このような断絶状態に陥ると、人々は人生の目的喪失や意味づけの欠如を経験するようになる。これが大衆形成の第二段階となる。

第三段階は、自分が何に対して不安、不満、攻撃性を感じているのかがわからないまま、いわゆる自由奔放な不安、不満、攻撃性が発現する場合である。彼らは不安をコントロールできず、何から自分を守るべきかわからない。

大衆形成の進化

このような状況下、マスメディアを通じて、不安の対象とその解決策を示してくれる物語が配信されれば、その戦略に参加し、攻撃性やフラストレーションをその対象に向けようとする大きな意欲が生まれるかもしれない。

十字軍、フランス革命、ソ連の共産主義、ナチスドイツのナチズムの台頭など、あらゆる主要な種類の大衆形成の最初のステップがこれである。

第二段階として、最も重要なことは、不安を解決する計画に参加し始めると、人々は再びつながりを感じ始めることだ。しかし、この新しい社会的絆や連帯は、個人間の連帯ではなく、個々人が大衆に対して別々に連帯することだ。

大衆形成は催眠術と全く同じである。たとえ、不正確、非科学的、あるいは全く馬鹿げていても、人々がその物語を信じ続けるもう一つの理由である。

催眠は、現実から注意をそらし、現実の小さな一面にすべての注意と心理的エネルギーを集中させたときに起きる。催眠状態にあるときは、手術のときのように強い肉体的苦痛も感じない。注意を集中させるこのメカニズムは非常に強力である。大衆形成は社会の大部分の破壊につながり、最終的には大衆そのものの自己破壊につながる。

COVID-19パンデミック時の大衆形成

パンデミックの直前、自然環境や社会環境から切り離され、孤独を感じている人の数は膨大であり、それはかつてないほどだった。

全世界で30%の人が、有意義な人間関係を全く持たず、インターネットを通じてしか人とつながらない。

パンデミック以前、世界中で60%以上の人が自分の仕事はまったく意味がないと考え、仕事に意味があると答えた人はわずか15%だった。

ストレスやうつ病、不安、燃え尽き症候群など、すべてのネガティブな心理的パラメータが指数関数的に増加し始めている。すでに社会が大規模な大衆形成の準備ができていることを感じている。

パンデミック時、多くの人が、マスクと手袋を着用せずに事故に遭った人を助けたり、瀕死の老親を見舞ったりすることを妨げるCOVID-19制限を受け入れたのは、大衆形成によるものだ。

主要メディアが発表したデータは、ウイルスの危険性を劇的に強調する一方で、パンデミックに対する対策の危険性を過小評価している。

本来なら、パンデミック対策を実施する前に費用対効果の分析を行うべきだが、一部の科学者や一部の機関が警告を発しているにもかかわらず、誰もそうした分析に関心を示さなかった。

大衆形成の解決策

全体主義国家に対する解決策は、エリートを破壊することではない。社会が大衆形成に依拠している以上、何度も同じエリートが再生産されるからである。

寧ろ、大衆形成を意識した多くの人々が物語に従わなくなった場合にのみ解決される。違った方法を考え付けば、新しいエリートが形成され、今あるエリートが自然消滅する。

デスメット教授は、「非人道的になっていく世界において、我々は、人間性の原則に立ち返り、それを再発見して、声を上げようとすることに集中すべきだ」と語った。

また、ソ連の反体制派でノーベル賞受賞者のアレクサンドル・ソルジェニーツィンの言葉を借りて、「善と悪の境界線は、すべての人の心の中にある」と述べている。

さらに、「人々は環境と再びつながる必要がある。これは、私たちが生存のために必要なあらゆる種類のものを、地元で生産する社会へと移行することを意味する。私たちは、社会における真実の言葉を育み、促進しなければならない。

社会的孤立、人生の意味の欠如、自由奔放な不安、フラストレーション、攻撃性を生み出すこれらの状態を避けるべきである」と教授は語った。

デスメット教授は、全体主義体制に抵抗するための暴力に対して注意を促した。暴力は、支配的な物語に逆らう人々の破壊を正当化するために使われてしまうからである。

「全体主義体制内部からの抵抗は、非暴力抵抗の原則を貫く場合にのみ成功する」として、デスメット教授は、非暴力哲学で知られている、インドの独立闘争におけるマハトマ・ガンジーの進め方を研究することを勧めた。

リポーター
エポックタイムズのシニアエディター。EPOCH TVの番組「米国思想リーダー」のパーソナリティーを務める。アカデミア、メディア、国際人権活動など幅広いキャリアを持つ。2009年にエポックタイムズに入社してからは、ウェブサイトの編集長をはじめ、さまざまな役職を歴任。ホロコーストサヴァイバーを追ったドキュメンタリー作品『Finding Manny』 では、プロデューサーとしての受賞歴もある。
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