米経済学者のステファン・ローチ(Stephen Roach)氏は8月、国際言論組織プロジェクト・シンジケート(Project Syndicate)で公開した評論記事で、中国・習近平政権のイデオロギーが中国の経済成長を阻んでいると批判した。中国寄りの経済学者が中国批判したことが注目された。
現在イェール大学で教鞭を執るローチ氏は、投資銀行モルガン・スタンレーのアジア部門の責任者を長く勤め、中国への投資拡大を欧米企業に促していた。中国政府や政府系メディアから「中国人民の古い友人」「中国を最も理解している西側の経済学者」と称賛された。
しかし2021年以降、同氏の評論記事には中国経済を巡り消極的な意見が目立ち始めた。8月末の評論記事で、同氏は中国政府の経済政策は失敗したと指摘し、中国経済の先行き不透明さを強く懸念した。
同氏は、鄧小平時代以降、中国共産党政権の歴代の指導者らにとって、急速な経済成長は「主要な責務だった」とした。過去40年間の中国の経済規模の拡大で「経済減速は避けられず、時間の問題だった」という。また、経済減速に「経済の構造的変革、過去の行き過ぎた行為への反省、中国政府のイデオロギー的基盤における大きな変化」も影響していると同氏は主張した。
ローチ氏は、中国元最高指導者の毛沢東はイデオロギーを重視し、経済発展を軽視したのに対し、鄧小平はイデオロギーを強調せず、市場メカニズムに基づく改革開放政策を通して経済成長を後押ししようとした。
しかし現在、『習近平思想』の下で行われている新たなイデオロギー運動は経済成長への「希望を打ち砕いた」。このイデオロギー運動の中に、インターネット大手、個人学習塾などへの規制強化や取締り、「終わりのないのゼロコロナ政策」などが含まれると示した。
ローチ氏は、習近平氏が掲げる「偉大な民族の復興」「中国ドリーム」などのスローガンが原因で、中国政府の外交政策がますます強硬的になったとの見方示した。このため、米中間の貿易戦や技術戦、中露間の「上限のない」協力関係、台湾海峡を巡る国際情勢の緊張化が生じた。
同氏は、自身の最大の過ちは「習近平思想の影響を最小限に抑えたことだ」とし、「習氏がイデオロギーに重点を置いていることは、鄧小平時代の継続よりも、毛沢東の遺産の復活を物語っている」と示した。
「習近平政権下の中国の新時代には、権力、統制、経済に対するイデオロギー的制約が強調されるとともに、共産党の優位性がより重視される」
ローチ氏は、10月に開催される中国共産党の党大会で習氏は3期目の続投を実現する可能性が高いと推測した一方、「経済への犠牲はまだ始まったばかりだ」との考えを示した。
中国経済は、温家宝前首相が15年前に指摘した「不安定で不均衡、協調が取れておらず、持続不可能」に「ますます近い状況だ」とローチ氏は警告した。
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